表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

第4話 共犯者の誕生

3週目・Day15 残り56日


101回目の2週間が経過した。


この2週間、私は慎重にルークを観察し続けた。彼の「違和感」は日に日に強くなっている。授業中、ふと視線が虚空を彷徨う。誰かと会話している時、突然言葉に詰まる。そして時々、頭を押さえて苦しそうな顔をする。


システムが、彼の覚醒を必死に妨げている。


でも、ルークは諦めない。毎日、私に話しかけてくる。


「また、あの感覚があった」

「今日も、自分じゃない誰かが僕を動かしている気がした」

「セレナ、君は本当に何も知らないのか?」


私は毎回、同じように答える。


「もう少し、待ってください」

「その時が来たら、必ず」


そして今日。ルークから、手紙が届いた。


『今夜、図書館で会いたい。話がある』



夜。人気のない図書館。


月明かりが窓から差し込み、本棚が影を作っている。


ルークは、いつもの場所に座っていた。でも、今日の彼は違う。目に、強い光がある。


「来てくれたんだね、セレナ」


「ええ。話って?」


ルークは、深く息を吸う。


「僕は、決めた」


「何を?」


「この『違和感』の正体を、突き止める」


彼は立ち上がり、窓の外を見る。


「この2週間、ずっと考えていた。なぜ僕は、自分の意思とは違う行動を取るのか。なぜ、考えようとすると頭が痛くなるのか」


ルークは振り返る。


「そして、気づいたんだ」


「何に?」


「この世界は、『おかしい』」


彼の声が、震えている。でも、それは恐怖ではない。確信だ。


「僕たちは、何かに操られている。見えない何かに。そして、君は——それを知っている」


私は、何も言えない。ただ、彼を見つめる。


「セレナ、もう隠さないでくれ」


ルークは私の両肩を掴む。


「僕に、教えてくれ。この世界の真実を」


その目は、本気だ。もう、誤魔化せない。


「ルーク……」


私は、決めた。


「分かった。全部、話す」


ルークの目が、見開かれる。


「でも、覚悟して。聞いたら、もう元には戻れない」


「構わない」


ルークは即答する。


「僕は、真実が知りたい」


私は、深呼吸をする。


そして、語り始めた。



「この世界は、ゲームなの」


ルークは、黙って聞いている。


「乙女ゲーム『エーデルシア王立学院』。私は前世で、そのゲームをプレイしていた」


「前世……?」


「ええ。私は元々、地球という世界の日本という国に住んでいた。田中美咲という名前で」


ルークは困惑した顔をする。でも、否定はしない。


「過労死して、気づいたらこの世界にいた。セレナ・アルヴェインとして」


私は続ける。


「最初は混乱した。でもすぐに理解した。ここは、私がプレイしていたゲームの世界だって」


「ゲームの世界……」


「そう。そして私は、悪役令嬢。ヒロインのリリアを虐めて、最後に断罪される役割」


ルークは、指で机を叩き始める。考えている証拠。


「でも、私は断罪を回避しようとした。何度も、何度も」


私の声が、震える。


「でも、駄目だった。何をしても、必ず断罪される」


「何をしても……?」


「ええ。リリアを避けても、優しくしても、証拠を消しても、逃亡しても。必ず、断罪エンドに辿り着く」


ルークの表情が、強張る。


「そして、私は死ぬ。処刑される。でも——」


私は、彼の目を見る。


「目が覚めると、また学院の入学式の朝に戻っている」


「ループ……」


「そう。私は、ループしてる。何度も、何度も」


ルークは、息を呑む。


「何度……?」


「100回」


沈黙。


ルークは、言葉を失っている。


「100回、断罪された。100回、殺された。100回、ループした」


涙が出る。止まらない。


「怖かった。痛かった。孤独だった。誰も信じられなかった」


ルークは、私の肩に手を置く。


「でも、100回目で気づいたの。この世界には『シナリオ強制力』があるって」


「シナリオ強制力……」


「ええ。ゲームのシステム。どんな選択をしても、主要イベントは必ず発生する。悪役令嬢の断罪は、絶対に回避できない」


私は、ルークを見る。


「そして、あなたたちも——そのシステムに操られている」


ルークの顔が、青ざめる。


「僕も……?」


「ええ。あなたも、レオンも、リリアも、みんな。システムが決めた『役割』を演じさせられている」


ルークは、後ずさる。


「だから、あなたは時々、自分の意思とは違う行動を取る。だから、考えようとすると頭が痛くなる。システムが、あなたの覚醒を妨げているの」


ルークは、壁に手をつく。膝から力が抜けたように。


「じゃあ、僕は……」


「あなたは、ルーク・アシュフォード。でも同時に、『攻略対象2:策略家』でもある」


その言葉に、ルークは震える。


「僕は……人形?」


「違う」


私は、強く言う。


「あなたは、人間。システムに操られているけど、それでも人間」


ルークは、私を見る。


「なぜ、そう言い切れる?」


「だって、あなたは今、気づいたから」


私は、彼に近づく。


「人形は疑問を持たない。でもあなたは持った。システムに抵抗した。それは、あなたが人間だから」


ルークの目に、涙が浮かぶ。


「僕は……人間……」


「そう。だから、あなたは自由になれる」


ルークは、しばらく黙っていた。


そして、ゆっくりと顔を上げる。


「セレナ」


「何?」


「君は、100回も1人で戦ってきたんだね」


その言葉に、涙が溢れる。


「ええ……」


「もう、大丈夫だ」


ルークは、私の手を取る。


「今度は、僕が君と一緒に戦う」


「ルーク……」


「君は、もう1人じゃない」


その瞬間だった。



空間が、歪んだ。


「……!」


周囲の景色がぼやける。時間が止まる。


「これは……!」


「何だ、これ……?」


ルークも、困惑している。


人型の影が、図書館の入口に現れる。


顔がない。感情がない。ただ、存在するだけの何か。


「何……あれ……」


ルークの声が震える。


影が、こちらに向かってくる。ゆっくりと、でも確実に。


「セレナ・アルヴェイン、ルーク・アシュフォード。システムへの重大な干渉行為を確認。排除を実行する」


機械的な声。


冷や汗が背中を伝う。指先が冷たくなる。


「排除……って、まさか」


「逃げるぞ、セレナ!」


ルークは私の手を取り、走る。


図書館を飛び出し、廊下を駆ける。


でも、影は追ってくる。壁をすり抜けて、床から湧き出て。


「何なんだ、あれは!」


ルークが叫ぶ。


「システムの……番人?」


私も必死で走る。


階段を下りる。踏み外しそうになる。


「こっちだ!」


ルークが先導する。


中庭に出る。


月明かりが、私たちを照らす。


「はあ、はあ、はあ……」


息が荒い。心臓が爆発しそう。


振り返ると、影が建物から出てくる。


「まだ、来る……!」


「どうすれば……」


ルークが、周囲を見回す。でも、逃げ場がない。


影が、近づいてくる。


その手が、私たちに伸びる。


「駄目……」


その瞬間。


「させるか!」


声がして、何かが影に当たった。


爆発。


影が、よろめく。


「え……?」


振り向くと、そこに——フードを被った人物が立っていた。


「誰だ!」


ルークが警戒する。


人物は、フードを外す。


黒髪に金色の瞳。中性的な顔立ちの若い男性。


「ノア……!」


「間に合ったみたいだね」


ノアは、微笑む。


「もう1発!」


ノアは、また何かを影に投げつける。


魔石。


爆発。


影が、大きくよろめく。


そして——消える。


空間の歪みも、元に戻る。時間が動き出す。


「はあ……はあ……」


私は、その場に座り込む。


「大丈夫か、セレナ」


ルークが、私を支える。


ノアが、私たちの前に来る。


「初めまして、ルーク・アシュフォード。僕の名前はノア」


「ノア……君は、一体?」


「セレナと同じ、『覚醒者』だよ」


ノアは、微笑む。


「この世界の真実に気づいた者」


ルークは、私を見る。


「セレナ、彼は……」


「ノアは、私の味方。私を助けてくれている人」


私は、ノアを見る。


「ありがとう、ノア。あなたがいなかったら……」


「どういたしまして」


ノアは、2人を見る。


「でも、これは始まりに過ぎない」


「始まり……?」


ルークが、ノアを見る。


「ああ。今の影——エージェントと僕は呼んでいる——あれは、システムの番犬だ」


ノアは、真剣な表情になる。


「君が覚醒した。だから、システムは君をイレギュラーと認識した。セレナと同じように」


「イレギュラー……」


「そう。システムにとって、君たちは排除すべきバグだ」


ノアは、建物の方を見る。


「これから、システムの反応はもっと強くなる。エージェントも、また現れるだろう」


「じゃあ、どうすれば……」


「戦うしかない」


ノアは、2人を見る。


「でも、君たちは2人になった。僕を入れれば3人」


ノアは、微笑む。


「1人じゃない。それが、一番大きな力だ」


その言葉に、私は涙が出る。


「そう……もう1人じゃない」


ルークは、私の肩に手を置く。


「セレナ、君は100回も1人で戦ってきた。でも、もう違う」


彼は、微笑む。


「今度は、僕が君と一緒に戦う」


「ルーク……」


「僕たちは、共犯者だろう?」


その言葉に、私は笑ってしまう。


「ええ……共犯者ね」


ノアは、2人を見て微笑む。


「良いチームだ。これなら、勝てる」



その後、ノアは私たちに説明してくれた。


エージェントのこと。システムの仕組み。そして、これからの戦い方。


「まず、証拠を集める」


ノアは、指を立てる。


「セレナが断罪される証拠を、すべて無効化する。いや、それだけじゃない」


ノアは、楽しそうに笑う。


「矛盾した証拠を大量に作る。セレナは優しい、という証拠と、セレナは悪い、という証拠。両方を同時に存在させる」


「矛盾……」


ルークが考え込む。


「なるほど。システムは論理的に動く。だから、論理的矛盾には弱いはずだ」


「その通り」


ノアは、頷く。


「君は策略家だ。この作戦、理解できるね?」


「ああ、完璧に」


ルークは不敵に笑う。


「セレナがイベントを改変する。僕が証拠を記録する。物的証拠を大量に作る」


ルークは拳を握る。


「これなら、いける」


「でも、それだけじゃ足りない」


ノアは月を見上げる。


「最終的には、断罪イベントそのものを発生不可能にする必要がある」


「どうやって?」


「それは、これから考えよう」


ノアは、2人を見る。


「今日のところは、これで。ルーク、覚醒おめでとう」


「ああ……ありがとう」


ルークは、自分の手を見る。


「不思議だ。真実を知って、楽になった」


「そうだろう?」


ノアは、微笑む。


「無知は、時に苦痛だからね」


ノアは、立ち上がる。


「じゃあ、僕はこれで。また明日」


「待って、ノア」


私は、彼を呼び止める。


「あなたは、何者なの?なぜ、私たちを助けてくれるの?」


ノアは、少し寂しそうに笑う。


「それは……いずれ、話すよ。でも、今じゃない」


「どうして?」


「君が、まだ受け止められないから」


ノアは、影に消える。


私とルークはその場に残される。



「不思議な奴だな」


ルークが、呟く。


「でも、悪い人じゃなさそうだ」


「ええ。ノアは、私を何度も助けてくれた」


私は、月を見上げる。


「彼がいなかったら、私は今も1人で戦っていた」


ルークは私の隣に座る。


「セレナ、1つ聞いていい?」


「何?」


「君は、なぜ戦うんだ?」


その質問に私は少し考える。


「最初は、ただ生き延びたかった。死にたくなかった」


私は、自分の手を見る。


「でも、今は違う。今は——」


「今は?」


「みんなを、救いたい」


私は、ルークを見る。


「あなたも、レオンも、リリアも、母も、父も。みんな、システムの被害者」


涙が出る。


「だから、システムを壊したい。みんなを、自由にしたい」


ルークは、微笑む。


「優しいんだな、君は」


「優しくなんか……」


「いや、優しいよ」


ルークは、立ち上がる。


「100回も死んで、それでもみんなを救いたいって思える。それは優しさだ」


彼は手を差し伸べる。


「だから、僕は君を手伝う。君の優しさを守りたい」


私はその手を取る。


「ルーク……ありがとう」


「どういたしまして」


2人で、寮に戻る。


星が、瞬いている。


「明日から、本格的に始まるな」


ルークが、言う。


「ええ。作戦、成功させましょう」


「ああ、任せてくれ」


ルークは、不敵に笑う。


「策略なら、僕の得意分野だ」



その夜。自室。


私は、ベッドに座っている。


今日、ルークは覚醒した。


そして、エージェントに初めて遭遇した。


怖かった。


でも、ノアが助けてくれた。


そして、ルークが一緒に戦ってくれると言ってくれた。


「もう、1人じゃない」


その言葉を、何度も噛みしめる。


100回のループで、ずっと1人だった。


でも今は、違う。


ルークがいる。


ノアがいる。


「これなら、勝てるかもしれない」


希望が、見えてきた。


小さな、でも確かな希望。


「明日から、頑張ろう」


ベッドに横になる。


手はまだ震えている。心臓はまだ早い。


でも、今日よりは、少しマシ。


少しずつ、前に進んでいる。


「おやすみ、ルーク。おやすみ、ノア」


目を閉じる。


101回目の3週目が、終わる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ