アネモネの約束
大切な人を想う気持ちは、
形が変わっても、そばに残ると信じています。
「もし私か、子供の命。どちらかが危ない時は、迷わず子供を救ってほしい」
「なんでそんなこと言うんだよ」
「大丈夫。生まれ変わって、あんたのところに会いに行ってあげる」
そう言って、恵美は笑った。
でもその笑顔は偽物だと俺には分かる。
子供の名前は「杏音」。
恵美が好きだった花、アネモネから取った名前だ。
名前まで決めて、明るい話をしていたはずなのに、
部屋の空気はどこか重くなっていた。
二人で窓の外を見た。
黄色い蝶が、ふわりと視界を横切った。
「ほら。暗い話してるから、怒ってるんだよ」
「生まれ変わったら、この蝶々になって会いに来る。…なんてね!」
「その話はもう辞めよう。俺が必ず守る」
「なにそれ。惚れ直すじゃん」
恵美はようやく本当の笑顔を見せてくれた。
その瞬間が、ずっと続くと思っていた。
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ピー、という音。
嫌な予感がして、胸が冷たくなった。
「赤ちゃんか、お母さん。どちらを——」
その先が聞こえなかった。
言葉が、頭に入ってこなかった。
二人を守るって言ったのに。
俺は、下を向いたまま、
何も出来なかった。
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「ねぇねぇ、パパ」
小さな手が、服を引っ張る。
「ママはどこ?」
一瞬、言葉に詰まった。
「……どこにいるんだろうな」
「お母さんはね、太陽みたいな笑顔の人だったんだよ」
「ほんと? 見てみたい!」
無邪気に走り出し、
母親を探すその背中を見て、
「……会いたいな」
自分でも気づかないくらい、小さな声だった。
「パパ! こっち来て!」
「今行く」
俺は目を擦った。
深く息を吸って、何度も瞬きをした。
泣いているのがばれないように。
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「見て! きれいな花!」
「それ、お母さんが好きだった花だ」
花びらが、風に揺れていた。
「この花アネモネって言うんだよ。記念に写真撮ろっか」
杏音が、俺の方を向く。
シャッターを押そうとした、その時。
「よかったら、撮りましょうか?」
振り向くと、優しそうな中年の男性が立っていた。
「すみません。お願いします」
「撮りますね。3人とも笑って下さい!
はいチーズ」
「3人?」
そう思ったが、
俺はそのまま家に帰った。
家に帰り写真を見てみると
俺と杏音の、ちょうど真ん中。
そこに、黄色い蝶が写っていた。
横にはアネモネの花が並んでいた。
アネモネの花言葉。
「あなたを愛しています」
「あなたに会いたい」
「生まれ変わって蝶々になって会いに行く。この約束を守ってくれてありがとう」
これが、
俺と恵美と、杏音の
最後の家族写真だ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
もし誰かの「会いたい人」を思い出すきっかけになれたなら、嬉しいです。




