順番
二人目が亡くなったのは、病室だった。
一般病棟の、四人部屋。
夜勤帯で、看護師は巡回中だった。
モニターに異常は出ていない。
発見されたときには、すでに心肺停止。
死因は心不全。
最初の件と同じだ、と言う人もいたが、
公式には関連性はなかった。
病室で人が亡くなることは、珍しくない。
病院なのだから。
それでも、名前が私のメモに追加された。
最初の死体安置所の件と、
この病室の死を、
誰も結びつけようとはしなかった。
「偶然でしょう」
広報はそう言った。
前回と同じ口調だった。
看護記録も、きれいだった。
申し送りも問題なし。
処置の遅れもない。
「その前後で、何か変わったことは?」
そう聞くと、
誰もが一度、考える。
そして、
「特には」と答える。
私はその「特には」を、
信じても疑ってもいなかった。
噂の方は、勝手に育っていた。
死体安置所の話に、
病室の話が混ざる。
「あそこに関わった人が、って」
「順番に、って聞いた」
順番、という言葉が出始めたのは、
この頃からだ。
病院の中では、
死体安置所の名前は、
あまり出なくなった。
代わりに、
「夜勤」
「無理が続いた」
「体調不良」
理由は、いくらでもあった。
三人目は、非常階段だった。
利用者の少ない、裏側の階段。
清掃の途中で倒れたとされている。
転倒の形跡はなく、
外傷もない。
死因は、やはり心不全。
非常階段は、
カメラの死角だった。
それだけで、噂には十分だった。
「やっぱり、逃げてもダメなんだって」
誰が言い出したのかは、わからない。
みんな、誰かから聞いた顔をしていた。
私は、三人の共通点を探さなかった。
年齢も違う。
職種も違う。
ただ、一つだけ、同じだった。
最初の死の噂を、
どこかで聞いていたこと。
それが因果かどうかは、
判断できない。
病院側は、
静かに対応していた。
臨時の会議。
夜勤体制の見直し。
健康管理の強化。
すべて、
もっともだった。
死体安置所について聞くと、
今度は、
はっきりとした答えが返ってきた。
「現在は、使用を控えています」
理由は、設備点検。
それ以上は、説明されなかった。
噂は、そこでは止まらなかった。
「あそこは、もう閉じた」
「触れちゃいけない場所になった」
閉じた、という言葉は、
幽霊よりも早く広がった。
私は、記事を書かなかった。
三人目が出ても、
まだ事件性はない。
社会面にはならない。
怪談としても、弱い。
ただ、
名前の並びだけが、
少し気になった。
発見順。
場所。
時間帯。
意味は、まだない。
その夜、
私はメモにこう書き足した。
――死因はすべて心不全
――場所は一致しない
――噂だけが、同じ速さで広がる
理由は、書かなかった。
わからなかったからではない。
この段階では、
考える必要がないと思った。
病院は、今日も通常通りだった。
点検は行われ、
点呼は揃い、
異常は報告されていない。
事件性は、ない。
それだけは、
何度も確認されていた。




