第7話 沈黙の意味
沈黙は、無色だと思っていた。
何も言わなければ、
何も起こらない。
少なくとも――
私は、そう信じていた。
王立学院内に、正式な調査が入った。
名目は「再発防止のため」。
犯人探しではない。
責任追及でもない。
――建前は。
けれど、調査の矛先は最初から決まっていた。
「リリアーナ様、ご説明を」
呼び出されたのは、応接用の小会議室。
居並ぶのは、教師数名と、聖堂関係者。
私は、椅子に腰掛け、背筋を伸ばした。
「先日の事故についてですが」
質問は、丁寧だった。
「当日の管理体制は?」
「聖女への指導方針は?」
「精神的な圧迫はありませんでしたか?」
どれも、
答えようと思えば答えられる質問。
私は、ゆっくりと口を開く。
「当日の指導は、担当教官が――」
「結論だけで結構です」
途中で、遮られた。
……結論?
「事故は、管理側の配慮不足と受け取られても仕方がない、そういう状況でしたか?」
言い換えれば。
“そうだと言ってほしい”
という問い。
私は、一瞬、言葉を飲み込んだ。
ここで否定すれば、
「責任逃れ」
と取られる。
肯定すれば、
「罪の自認」
になる。
どちらを選んでも、
結果は変わらない。
……それなら。
「判断は、皆様にお任せいたします」
私は、そう答えた。
沈黙よりは、ましだと思った。
けれど。
部屋の空気が、微妙に変わる。
「……協力的ではありませんね」
「反省の意志が、見えにくい」
その言葉に、胸が冷えた。
私は、従った。
否定もしなかった。
それなのに。
沈黙は、罪に変換された。
数日後。
調査結果は、非公式の形で共有された。
「明確な過失は確認されなかった」
――それだけ。
だが同時に、
「今後は関与を控えるのが望ましい」
という“空気”が添えられた。
公式文書は、出ない。
名前も、書かれない。
それでも。
私は完全に、外された。
廊下を歩くと、会話が途切れる。
視線が、逸らされる。
敵意はない。
同情もない。
ただ、
関わらない方が安全
という判断。
それが、最も深く心を削った。
「……なあ」
その声に、足を止めた。
振り返ると、
第二王子ユリウス・アルトリアが立っていた。
壁に寄りかかり、腕を組んでいる。
「これは、さすがにおかしい」
率直な言葉。
それだけで、胸がわずかに緩んだ。
「君が黙ったのは、悪手じゃない」
彼は言う。
「ただ、この国はな――
黙る奴を、いちばん都合よく使う」
私は、何も言えなかった。
否定できなかったから。
「逃げるなよ、リリアーナ」
ユリウスは、真っ直ぐこちらを見る。
「今、逃げたら――
“認めた”ことになる」
その言葉に、心臓が跳ねた。
逃げる。
認める。
そんなつもりは、なかった。
けれど。
このまま黙っていれば、
世界が、勝手に結論を出す。
「……私は」
口を開きかけて、止まる。
何を言えばいい?
何が、正解?
分からない。
ただ。
この沈黙は、私を救わない。
それだけは、はっきり分かった。
ユリウスは、小さく笑った。
「まあ、今はまだいい」
そして、低く告げる。
「でも、覚えておけ。
ここから先は――
“何もしない”が、いちばん罪になる」
夜。
一人、部屋で灯りを落とす。
闇の中で、私は静かに息をした。
もう、分かっている。
私は、選ばされている。
悪役になるか。
沈黙の罪人になるか。
――どちらにせよ、
このままでは終わる。
追放フラグ【Stage3:孤立の確定】
――完全成立。
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