表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は追放される前に、世界の台本を破ることにした  作者: 月影 すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/9

第3話 静かな断絶

 ――最近、殿下はお変わりになった。


 それに気づいたのは、私だけではないだろう。

 だが「気づいている」と口に出せる者は、誰一人いなかった。


 王立学院の応接室。

 本来であれば、婚約者同士が並んで座るはずの席。


 けれど今、私とエドワルド殿下の間には、

 測れない距離が横たわっている。


「……リリアーナ」


 殿下は、視線を机の上の書類に落としたまま、そう呼んだ。


「はい、殿下」


 返事は、いつも通り。

 声の震えも、間も、完璧。


「最近……学院内で、少し噂がある」


 来た。


 胸の奥が、きゅっと締めつけられる。


「噂、ですか」


「ああ。聖女セシリアのことだ」


 やはり。


 私は何も言わず、続きを待つ。

 婚約者として、口を挟むべきではないと判断したから。


 ――その判断が、間違いだとは知らずに。


「彼女が……君を、怖がっていると」


 言葉が、耳に届くまで一瞬の遅れがあった。


 怖がっている。


 その単語が、脳内で反響する。


「殿下。私は、彼女に対して威圧的な言動を取った覚えはありません」


 事実だけを述べる。

 感情を混ぜない。


 いつも通りの“正解”。


 けれど、殿下は顔を上げなかった。


「分かっている。君が悪意を持つ人間でないことくらい」


 ――それなら、なぜ。


「ただ……君は、強すぎる」


 その一言が、私を貫いた。


「強い者は、知らず知らずのうちに、弱い者を追い詰めてしまう」


 それは、誰の言葉だろう。

 殿下自身の考えか、それとも――


「聖女は、この国の希望だ。守られるべき存在だ」


 私は、ゆっくりと息を吸った。


「……では、私は?」


 自分でも驚くほど、静かな声だった。


 殿下は、ようやくこちらを見た。

 少し困ったような、迷いのある目。


「君は……分かってくれるだろう?」


 その瞬間。


 胸の中で、何かが音を立てて崩れた。


 分かってくれる。

 我慢してくれる。

 強いから、大丈夫。


 ――ああ、そう。


 私は、“守られる存在”ではない。


 ただの、調整役。

 均衡を保つための、都合のいい存在。


「……承知いたしました」


 私は、微笑んだ。


 その微笑が、殿下を安心させたことが、はっきり分かった。


「ありがとう、リリアーナ」


 感謝の言葉が、こんなにも重く感じられたのは初めてだった。


 その日の午後。


 中庭で、セシリアが数人の生徒に囲まれているのを見かけた。


「聖女様、大丈夫ですか?」

「何かあったら、すぐ仰ってくださいね」


 彼女は、少し困ったように笑っている。


 ――助けを求めているのではない。

 ただ、そこに“置かれている”だけ。


 その視線が、ふと私に向いた。


 目が合う。


 一瞬、怯えたように見え――すぐに、申し訳なさそうに微笑まれた。


 その表情に、周囲の空気がざわめく。


「ほら……」

「やっぱり、緊張してる……」


 私は、足を止めなかった。


 声をかけることもしない。

 助けることもしない。


 それが、殿下の望む“正しい距離”だから。


 ……なのに。


 背中に、刺さるような視線を感じた。


 冷たい。

 怖い。

 近寄りがたい。


 誰も、私を見ていないのに。

 誰も、私の言葉を聞いていないのに。


 評価だけが、独り歩きしていく。


 私は気づいてしまった。


 もう、印象は固定されている。


 何を言っても、

 何をしなくても、

 「リリアーナ・フォン・アルトリア」は

 “そういう存在”なのだと。


 完璧であることは、

 人を遠ざける。


 理解されることなく、

 誤解だけが積み重なる。


 中庭の花が、風に揺れていた。


 美しいのに、誰も触れない。


 ――まるで、私みたいだ。


 その時、初めて思った。


 このままでは、私は切り捨てられる。


 理由もなく。

 悪意もなく。

 ただ、物語の流れとして。


 追放フラグ【Stage2:印象固定】

 ――確定。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ