第13話 台本の輪郭
世界には、説明できない流れがある。
理由は分からない。
誰が決めたのかも分からない。
けれど――
そうなることだけは、最初から決まっている。
私は、夜の書庫にいた。
公的な立場を外されてから、
ここは数少ない“自由に使える場所”だった。
灯りは最小限。
紙と、記録と、静寂。
私は、解析魔法を展開する。
対象は、人ではない。
判断の連なり。
最初は、違和感だった。
誰かが何かを言う。
それに、皆が頷く。
意見が一致しているわけではない。
理解しているわけでもない。
それなのに、結論は同じ。
私は、言葉を拾っていく。
「前例がありますから」
「皆がそう言っています」
「穏便に進めるべきです」
「王国のために」
どれも、主語がない。
責任の所在を、最初から消している。
解析が進むにつれ、
ひとつの“形”が浮かび上がってきた。
出来事 → 噂 → 懸念 → 配慮 → 排除
感情は、途中で消える。
意志も、途中で失われる。
残るのは、
役割だけ。
「……やっぱり、そうか」
背後で、ユリウスの声がした。
振り返らずに答える。
「殿下も、見えましたか」
「完全には。でも……輪郭はな」
彼は、机の端に腰をかけた。
「これ、物語だろ」
静かな断定。
「登場人物がいて、
期待される行動があって、
外れた奴は排除される」
私は、頷いた。
「悪役令嬢が必要なんです」
「聖女が輝くために?」
「王国が安心するために」
どちらも、正解だった。
私は、紙の上に簡単な図を書いた。
中心に、聖女。
対になる位置に、悪役。
その外側に、
王太子、教会、貴族社会。
「この配置は、
誰かが意図して作ったものではありません」
ユリウスが眉をひそめる。
「じゃあ、どうして?」
「皆が、楽だからです」
私は、淡々と言った。
「役割があれば、考えなくていい。
判断しなくていい。
責任を取らなくていい」
だから、
物語は選ばれる。
私は、ふと手を止めた。
「……おかしいのは」
「この流れが、
人の感情や事実よりも
優先されていることです」
解析魔法の中で、
ひとつの“歪み”が、はっきりと見えた。
事実が、上書きされる瞬間。
説明よりも、空気が勝つ瞬間。
「これが、台本です」
私は、そう名付けた。
「運命、でも、神意でもない」
「ただの――
思考停止の集合体」
ユリウスは、しばらく黙っていた。
やがて、低く言う。
「……折れるのか?」
「ええ」
即答だった。
「完成する前なら」
「完成したら?」
「世界が、それを“真実”にします」
だからこそ。
「Stage5で、折ります」
彼が、小さく笑った。
「やっぱり、狂ってるな」
「褒め言葉として受け取ります」
書庫を出ると、
夜風が頬を撫でた。
世界は、静かだ。
けれど、私はもう迷わない。
これは、物語だ。
ならば――
観客の前で壊す。
台本ごと。
追放フラグ【Stage4:有罪前提】
――正体、ほぼ解明。
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