第12話 正義の所在
正義は、誰のものだろうか。
それは、誰かが強く主張した瞬間に生まれるものではない。
もっと静かに、
もっと穏やかに――
合意という形で、成立する。
王都聖堂の会議室。
私は、久しぶりに正式な場へ招かれていた。
ただし――
発言者としてではない。
「立ち会い」。
その肩書きが、今の私の立場を正確に示している。
「本日の議題は、聖女セシリア・ルミナス様の
今後の保護および運用方針についてです」
大司教マルティスが、穏やかに告げる。
低く、落ち着いた声。
人の不安を、自然と鎮める声。
「これまでの件を踏まえ、
教会としては新たな指針を提案いたします」
配られる書面。
私は、黙って目を落とした。
内容は、驚くほど理性的だった。
聖女の精神的安定を最優先
接触者の制限
判断窓口の一本化
緊急時の即時介入権限を教会に付与
どれも、反対しにくい。
どれも、もっともらしい。
……そして。
私の存在を、前提から排除した構造。
「異論のある方は?」
マルティスが、穏やかに問う。
沈黙。
王太子エドワルドは、書面を読み終え、ゆっくりと頷いた。
「理にかなっています」
それだけ。
彼は、私を見なかった。
私は、発言を求めなかった。
求めても、与えられないことを知っている。
それでも――
私は、すべてを記録した。
言葉の選び方。
沈黙のタイミング。
誰が、いつ、頷いたか。
正義が、
どこで誰の手を離れたか。
「これで、聖女様も安心ですね」
「余計な混乱も防げる」
会議後、そんな声が交わされる。
誰もが、満足そうだった。
正義が、成立した顔。
聖堂の外。
石畳を歩きながら、私は空を見上げた。
曇り空。
光は、薄い。
――正義は、誰のものでもない。
そう思った。
だからこそ、
誰も責任を取らない。
「……なあ」
隣を歩くユリウスが、低く言う。
「これ、もう決まってたよな」
「ええ」
即答だった。
「会議は、確認作業です」
「だよな」
彼は、苦く笑った。
「君が悪いって話じゃない。
誰も、そう言ってない」
「だから、余計に質が悪い」
その通りだ。
私は、歩みを止めた。
「殿下」
「ん?」
「正義は、ここにはありません」
彼が、驚いたように私を見る。
「ここにあるのは――
安心を作る装置です」
「不安を消すために、
誰かを排除する装置」
ユリウスは、しばらく黙ったあと、静かに言った。
「……断罪ってやつか」
「いいえ」
私は、首を振った。
「まだです」
「これは、その準備です」
その夜。
私の元に、一通の書簡が届いた。
差出人は、王宮。
内容は簡潔だった。
――近日中に、
関係者を集めた
「説明の場」を設ける。
断罪とは、書かれていない。
だが、意味は同じだ。
私は、書簡を閉じる。
心は、不思議なほど静かだった。
もう、揺れない。
正義がどこにあるか、
私は知っている。
――それは、人の外にある。
だからこそ。
私は、その場に立つ。
追放フラグ【Stage4:有罪前提】
――完全固定。
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