第六話 公園
翌日、補習はなくなった。全員こないことが確定したので担任が連絡してきた。あのときの担任の声が物凄く沈んでいて聞いてて自分の気分まで沈んできてしまった。まあ、それはいいとして昨日エミと美鈴がうちの家族となった。人間1に対して元モノが5もはや人間のほうが少ないという異常事態だがまあ、それなりに楽しくなってきた。その分食費が上がってしまっているのだが。
「ふぁ~あ」
朝、今日はトウカは来ていない。鍵をかけたのと寝ているときに戻るように教育してみたのだが、成功したようだ。
「さてと起きるかな」
朝起きてキッチンへ行くと既に――。
「あ、あはようアル」
「はやいな美鈴」
――美鈴が居た。
「早起きは三文の徳アル」
中華鍋のわりにいろいろ知ってるな美鈴は。もしかしてそういうのってそのものの歴史とかで変わるのかな。中華って歴史長そうだし。
「そうか」
「さっき鍛錬を終えて水のみに来たヨ」
「鍛錬? 拳法かなんかか?」
「そうアル」
「そうか」
なんかこの頃武闘派が増えてきたな。
「まあいいか、とりあえず朝食の準備するか」
「手伝うアル」
「ああ、サンキュー」
「なにすればよいか?」
「そうだな。とりあえずエミを起こしてきてくれ」
「アイヤ、わかったアル」
美鈴が二階に上がっていく。
「さてと、その間に下ごしらえだな」
今日は和食にしよう。味噌汁と魚だな。
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「ふぁ~あ。ったくよ、休みなのに起こすなよ」
やったきたエミの台詞。サバサバした駄目な姉な感じがする。いそうだよなこんな大学生。髪ボサボサだし。
「仕事だ。お前に休みはないだろう。新しいコンロというかいろいろ来るまで」
「あ~、そうだったな~あ~面倒くせえ」
「お前な~」
「まあ、透を困らすわけにはいかないし飯食えねえのはもっとまずいからな手伝ってやるぜ」
「ああ、だが、その前にその髪を何とかして来い」
「あ? ああ、いいっていいって」
「お前が良くてもこっちが気にするわ」
「そうか? ちょっとまってろ」
エミが走っていく。そして戻ってきたときには――。
「これでいいだろう」
――結んできていた。それがまた良く似合っている。
「おっし、じゃあやるか」
「ああ」
そんなわけで調理開始。火力上がっている上に大きさも自由自在になっていた。こいつの能力か。それにしても擬人化したら能力が上がるってどんなファンタジーなんだろう。まあ、それを言ったらこんな状況がファンタジーなんだけど。
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「よし出来た」
純和風の朝食。
「ようやくできたな」
エミが言う。
「いや、お前が余計なことをしなければもっと早く終わったよ」
「う! あ、いや~、ほら」
エミが全部一気にやってしまおうと言って火力を間違い失敗し全部最初からやり直しになってしまったのだ。
「はあ」
「その……悪かったよ」
「今度はきちんとしてくれ」
「おう、任せろ」
大丈夫なのか? なんか明日にはというか昼には忘れてる気がする。
すると――。
カンカンカンカーン!!
――鐘を叩くような音が聞こえてきた。
『起きるアルー!!』
どうやら美鈴がシルたちを起こしてくれているらしい。つまりあの音は中華鍋を叩く音か。
「うわ~!!」
シルがリビングにやって来た。
「うう、まだ眠いよ~」
「はいはい、シル顔でも洗ってきたら目が覚めると思うぞ」
「うん、お兄ちゃん」
シルがリビングを出て行った。入れ違いでキクが入ってくる。
「おはようございます。透さん」
「おはようキク」
キクはシルと違いしっかりと整えてきていた。
「お手伝いしましょうか?」
キクが言う。
「それならこれ運んでくれ」
出来た料理を渡す。
「はい」
「おにちゃ~ん!!」
どうやら顔を洗って目が覚めたシルがやって来た。
「おっはよ~う」
「おはよう、シル」
「あれ、トウカお姉ちゃんまだおきてきてないの?」
シルから見てトウカは姉なわけか。ってまあ、一番年下っぽいからな~。
「ああ、まだトウカは寝てるだろう」
低血圧なんだろうな。冷蔵庫だから。まあ、美鈴が起こしに行ったからそろそろ来る頃だろう。
「起こして来たアル」
「ああ、ありがと」
「イイアル」
遅れてトウカが入ってきた。
「おはようトウカ」
「あはよう」
それだけ言ってトウカはソファーに座った。
「さて、食べるか」
『いただきま~す!!』
みんな食べ始める。
「シル魚もらうぜ!!」
「あー!! 勝手に取らないでよー!!」
エミとシルの魚の取り合い。
「こらこら一人一匹だ」
「足りねえな」
「それなら米を食え」
「おおその手があったか」
エミが手をポンッと叩き茶碗を差し出してくる。
「はいはい」
「エミさん、透さんにそんなこと」
「いいよ、キク」
「そう、ですか」
「ほら、他にほしい奴いるか?」
「なら、お願いするアル」
「わかった」
美鈴の茶碗を受け取ってご飯をつぐ。
「ほらよ」
エミには大盛りにしてわたす。
「サンキュー」
「ほら。美鈴」
「ありがとアル」
ああ、家のエンゲル係数が格段に上昇しそうだな。
そして食後。
「さて、これからどうしようか」
学校があるときは休みがいいと言うがいざ休みになったらなったでやることがないのである。
「それなら外に行こうよ!!」
シルが提案する。
「そうだな。まだ、外に出たことねえからな」
エミが言う。
「ワタシもアル」
美鈴も言う。
「外か」
外に出れば誰かに見つかる可能性があるがみんな出たいようだな。
「そうだな。じゃあ、行くか」
「やった!!」
みんなそれぞれ喜んでいる。
「そうだな少し遠くの公園にでも行くか」
弁当を持っていけば昼の心配はないし。近場を選ばなかったのは知り合いに遭遇するのを防ぐため。
「わ~い!!」
「では、準備しないと」
「準備ね」
「おっしとりあえずなに持っていく?」
「まずは昼の弁当アル」
どうやらみんな楽しんでくれそうだ。それから急いで準備して出発。帰ってきたときにまた一人増えていないことを祈る。
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さて、家を出て早々僕は後悔していた。今日がたとえ夏休みの平日とはいえ通りには人がいないわけではない。よく言えば個性的な。悪くいえば変な集団だ。目立つのだ。それに美少女(?)なのも理由と思われる。そしてそんな集団の中心の僕にいやおうなく視線が集まる。
「はあ~」
「どうしたのお兄ちゃん?」
隣を歩くシルが聞く。こいつらは視線なんぞつゆ知らずだ。
「いや、なんでもない」
こいつらにこんなことを言ってもしかたない。
「そう?」
「どこか気分が悪いのなら言ってください」
キクが言う。
「大丈夫だ」
そう言って歩き続けた。
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「ついた」
家から歩いて一時間のところにある緑の芝生が綺麗な広い公園だ。僕たち以外誰もいない。
「広~い!!」
シルが飛び跳ねながら言う。
「確かにな、結構広いじゃねえか。それに日差しが気持ちいいし」
エミが言う。木陰にいる僕でも日差しはきついというのにエミは余裕そうに言った。なんたって昼ごろだ。一番きつい時間だ。エミがそういえるのは元コンロだったからか。
「それなら美鈴も――って美鈴!!!」
美鈴はぐったりと木陰で倒れていた。
「大丈夫か!!」
「うう、暑いアル~」
ただ暑くて倒れただけかよ。
「てか、お前中華鍋だろ。なんで暑さに弱いんだよ」
「うう、鍋だとしても暑さ強い限らないアル~」
素材的に熱伝導性がよいからなのかどうやら美鈴は暑さに弱いらしいっぽい。う~ん、すぐに熱しやすい性質だからか?
「トウカとりあえず氷だしてくれるか?」
「…………はい」
トウカが氷を出してくれた。
「ほら、美鈴」
「うう、ありがとアル~」
美鈴は暑さに弱いのか覚えておこう。何かあったとき用のために。って何があるかわからないが。
「さて、来て早々だが、昼にするか」
時間もちょうどいい。一人ダウンしてるがそのうち復活するだろう。ちょうどいい木陰もあるし。そこに持ってきていたシートを引く。
「さて、食べるぞ」
全員で座って弁当を囲む。
『いただきまーす!!』
全員が食べ始めた。