第四話 学校
7月26日。夏休みに入り僕に新しい家族が増えた。全員が元は物というよくわからない状況だが。そして今日、今日は登校日というか補習開始日。補習といっても普通の授業と同じなので行かないと大変なことになる。数日だけだがけっこう面倒だな。
さて、目が覚めると、なぜか、トウカが僕に抱きついていた。
「またか」
このニ、三日でわかったことはトウカは異常に寝相が悪いこと。自分の部屋で寝ていてもなぜかいつもここに来てしまうのだ。寝相が悪いにも程がある。それに、スタイルがいいのだ現在思春期まっさかりの男子高校生にとって有害以外なにものでもない。
「おきてくれ」
「ん~、やだ~」
トウカは寝ているときと寝起きは性格が変わる。いつもはクールなのだがこの時はデレる。それはいいのだが。
「頼むからおきてくれ!!」
「ん?んん~、ふぁ~、おはよ~」
まだ眠そうに目をこすっているトウカ。ダボダボの寝巻きでかなり可愛い。ってそうじゃない。
「はやく自分の部屋に戻ってくれ」
「うん」
はあ~。トコトコと自分の部屋に戻っていったトウカ。
「さてと、起きて朝食をさっさと作るか」
着替えを済ませキッチンへ。
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「よし、出来た」
朝食の準備完了。いつもどおりできたな。さてとあいつらを起こしに行くかな。元が物だったせいかあいつらは朝に弱い。夜に騒ぎすぎてるのもあるだろうが。人の部屋でいつまでもいつまでも。自分の部屋があるんだからそこで騒げばいいのにと思う。とまあ、そんなことよりまずはあいつらを起こしに行かないとな。
まずはシルの部屋に入る。どうせ寝ているのだノックはしない。
「シル起きろー!!」
シルの部屋は洋室でかわいらしいもので溢れている。ベットとクローゼットとテーブルがありそのほかにはうさぎやらなんやらの人形がいっぱいおいてある。
「起きろー!!!」
「う~ん、あ~お兄ちゃんおはよ~」
「ああ、おはよう。着替えて下にいってろ」
「は~い」
まだ眠いのかフラフラしているが一応起きたようだな。
「さてと次はキクだ」
しっかりとしているようで朝は弱い。
「キク起きろー!!」
キクの部屋は和室。完璧な和室だ。それ以外にいうことはない。
「ん? ああ。朝ですか、申し訳ありません。朝はどうも弱くて」
「いいよ。とりあえず着替えて下に行っててくれ」
「はい」
さて、最後トウカだ。さっき起き掛けてたから大丈夫だろう。
「トウカー!!」
トウカの部屋は洋室で全体的に青で統一された部屋だ。ペンギンとか置いてある。
「ん~~~~~~」
「起きろ!!」
コイツが一番弱いんだよな。
「お~き~ろ~!!」
「むあ? あ~ふぁあ~~~」
「起きたか?」
「ん、おはよ透~」
「ああ、着替えて下にこいよ」
「うん~」
全員起こしたところでキッチンへ。しばらくして三人とも降りてきた。それから朝食を食べて。
「そういえば透さん今日は制服ですね」
キクが僕の服装を見て言った。
「そうだね、お兄ちゃんどうして?」
「今日から補習なんだよ」
「へ~、わたしも行きたい」
シルが言った。
「駄目」
「え~! どうして」
「遊びに行くんじゃないしシルがいける場所でもない。帰ってきたら遊んでやるからみんな今日はおとなしく家に居てくれ」
「む~わかった」
「わかりました」
「……わかった」
みんな聞き分けが良くて助かるな。そんなわけで家をでて学校へ向かう。
「お~い、透!!」
僕に声をかけて来たのはちゃらけた男。
「よう、葉」
こいつは佳山葉、同じクラスの友達。不本意だが悪友とも言う。
「なあ、なあこんな噂があるんだが」
「なんだ?」
「お前に似た奴が女の子連れて歩いていたというな」
………………。
「そんなわけないだろう」
「本当か」
「そうに決まってるだろう」
「まあ、それもそうか。お人好しの透君だし」
「なんだそれは」
「それにしても夏休みまで補習ってのは勘弁してほしいぜ」
確かにな。
「だが、まあ、数日だ我慢しろ」
「ちぇ~」
はあ~、危ない危ない。それにしても誰に見つかったんだ? 誰にも見つからないようにしてたのに。今度はもっと気をつけよう。見つかったらそうだな、下宿人とでもしよう。ちょど民宿だったような家だ問題はあるまい。
「ほら、急ごうぜ」
「そうだな」
学校へ。教室に入ると女子一人しか来てなかった。
「なあ、香奈ほかの奴らは?」
「全員サボリ」
こう答えたこのセミロングの茶髪の女子は江藤香奈、葉と同じく友達。
「全員さぼりって……」
僕達以外全員サボリって。
「どんだけ不真面目なクラスなんだよ」
「それは私が聞きたいわよ」
「まあ、俺たち三人だけならなくなるかもしれないだろ」
と楽観的に言う葉に香奈が言う。
「あの担任の性格を考えたことある?」
「あの担任なら僕達だけでもやりそうだよな。差をつけろって」
「あ~、何で俺たちの担任あんなんだよ」
「校長に聞きなさいよ」
香奈の言うとおりだ。
「そうだ、香奈お前が担任にセクハラされたって言えば――」
「却下。何で私がそんなことしなきゃいけないの? 他に頼みなさいよ」
「――他に居ないから言ってんだろうが」
「あんたいろんなとこで女子に声かけてんだからいくらでもいるでしょうが」
「いねえよ!!」
いや、あの顔は居るな。
「まあ、落ち着けとりあえずどうするかだな」
このまま補習を受けてもいいがさすがに三人ってのはきついな。
「家族を呼ぶ!!」
葉が言う。家族ね。確かにそれは楽だな。って無理だよ。
「呼んでどうすんのよ」
「なら、友達を呼ぶ」
「だれも来ないわよ」
「透!! 誰か呼べる奴はいないか!!」
いるにはいるんだがな。あいつら三人。まあ、無理だ無理。だって、元物だぞ。絶対に来たら問題になる。
「いるわけないだろ」
「じゃあ、どうすんだよ!!」
「それを今考えてんでしょうが!!」
さて、あまりしてると担任が来るからな。これでこの惨状を見たらどう思うか。まあ、想像には難くない。だって三人しかいないのだ。これでは誰もでも同じ反応を示すだろう。
「透何かいい案はないか!!」
「いい案はないの!?」
「ちょっとまて二人同時に言うな」
さて、どうしよう。
「逃げるか?」
葉が言う。逃げるってなあ。
「さすがにそれはまずいだろ」
「でも、このまま居るのもね~」
そのままいい案もなく悪戯に時間を浪費してしまった。そして担任登場。若い英語教師で熱血系。どこにでもいるような先生だ。生徒からの人望がまったくない。いまどき熱血ははやらないということなのだろう。
「はじめるぞ~って、なんだこの人数は」
三人だけの教室。そりゃ驚く。もう、驚きを通り越して何かになっている。
「全員サボリで~す」
葉が言う。
「なんだと!」
本当にこのクラスの奴らはどうなってるんだろうな。
「まあ、仕方ない。お前たちだけでもやるか」
やっぱりね。香奈も予想通りという顔だ。葉は絶望に染まっている。
「じゃあ、はじめるぞ~」
三人だけの授業はとても長く感じたのだった。
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今日の授業が終わった。午前中だけだったのが幸いだ。
「はあ~」
葉が溜息をつく。
「どうした幸せが逃げるぞ」
「うるさい。透は答えられたからいいんだ。俺なんて俺なんて。ああ、来なけりゃよかった。朝起きて今日なんかいいことありそうだから学校へ行こうと思った俺がバカだったよ」
まあ、バカだな。その発想が。
「さすがに三人だけってのはきついわね」
香奈も言う。
「しかしな、うちのクラスの連中そんなに不真面目だったか?」
「不真面目というより担任が嫌いなのよ」
「ああ」
あの担任僕達のクラスでは物凄い評判悪いからな。
「俺も嫌いだな。だから、香奈が――」
「却下」
「まだ何も言ってねえだろ!!」
「言わなくてもわかるわよ」
「おお、以心伝心!! なら、俺と付き合ってくれ」
「時と場所を選びなさい」
「お前ら、そんなことするより帰るぞ」
二人を伴って学校を出る。どことなく担任が落ち込んでいたように見えた気がする。まあ、気のせいだろうな。そうだとしても気にしない。
「で、明日はどうするんだ?」
「明日ね~」
明日か。正直に言えば行く気はしないんだよな。どうせ明日も人は来ないだろうしな。
「まあ、明日考えるか」
「そうね」
そんなわけで明日のことは明日考えるとして今日は帰った。