第三十四話 幽霊?
結構な長湯だったみんなも上がってきたのでさっさと部屋に戻ることにする。何か騒いでいた気がするけどまあ、誰もいないはずだし。そういえばさっき擦れ違った人たちがいるけど、まあ、大丈夫だったのだろう騒ぎになってなかったし。
「しかし、みんな浴衣似合ってるな」
風呂上りでまだ髪とかぬれてるから少し色っぽい。いえ、何を考えてるんだ僕は、やめよう。ここには唯でさえ変態がいるんだから。とか、思ってたら目の前にいた。
「透うううううぅぅぅぅ!!!」
「天昇下刻拳(唯の右ストレート)!!」
「ぶべらあああああ」
変態が宙を舞う。空中で回転しながら飛んでいき、壁に激突。そして、壁にかけられていた絵画が変態の頭に落ちる。更に追加ダメージで変態はどうやら気絶したようだった。
しかし、それはいいのだが、問題なものが見えていた。
「…………札?」
絵画のあった場所にはびっしりとお札が貼ってあった。明らかに何かを封じているような感じのものである。いやいやいや、これって明らかに悪霊を封じてるようなお札だよ……。
「ねえねえ、お兄ちゃん! お札だよ!! この前あってた肝試しのテレビでやってたのににてるよ!」
わかってるからシル頼むから言わないでくれ。明らかにそれだから。明らかだから。もう既に駄目だよ。幽霊いるよここ。うわ、こんなことに気が付きたくなかったよ。いやいや、妖怪みたいな存在が近くにたくさんいるからって明らかにこれはやばめな部類だ。
「この温泉には……」
って、うわ! 復活した変態が何か語りだした。しかも、なんだかホラーだし。どんだけ空気読んでいるんだよこの変態。というか、やめてくれよ本当に……。うん、目の錯覚だ。錯覚。何か半透明の何かが通り過ぎたなんてあるはずねえ。
「ねえ、お兄ちゃん、何か通ったよ~」
シル……頼むから空気を読んでくれ。はあ、いやいいよ。確実になにかいるよ。僕も見た。だけどさ、信じたくはないじゃないか。人間的に。
「そうだな……」
「幽霊か! おお、楽しみやな~、なあ、ティー」
「…………うるさいだけ……」
お前ら本当に幽霊にあってそれが言えるか楽しみだな。それにしてもこういうことに一番に反応しそうなエミがまったく反応せずに静かにしていることに物凄い違和感があるのだが、どうしたんだ?
「おい、エミどうかしたか?」
「ん? い、いや別に何もないぜ」
明らかに挙動不審だぞ。何かあるようなもんだ。……あ! もしかして……そういえば幽霊特集とかあってるときいつもこいつはいなかったな。ふ~ん、そうかそうか、理解した。
「お前もしかして幽霊怖いのか?」
「ギク! はあ? そそそそ、そんなわけ、ね、ねえし!」
ギクって、言ってるぞおい。声も震えまくりだし、モロわかりだぞ。なるほど、エミって幽霊が怖いのかちょっと意外だ。シルとか大好きなのにな。本当に意外だ。まあ、言わないでおいてやろうこれ以上言うとなんか駄目そうだしな。
「だから言っているだろう。この温泉には昔、働き者で人気者の女将さんが居たんだ。だが、嫉妬で殺されて、夜な夜なこの温泉を徘徊し恨み晴らすべく敵を探しているらしんだよ」
変態の情報だが、いつもよりは役に立ちそうだ。本当だったらだが。
「敵討ちね……」
「そうだ、敵討ちだ」
敵討ちか。それって、僕たちには関係ないけど、この場合だとよくあるホラーゲームみたいに誰でも良くなってる場合とかるような気がする。というか、だからこんな風に封印されてたんだろうし。
「ねえねえ、お兄ちゃん、わたし幽霊見たい!」
「うちもうちも!」
「幽霊ってそうそう簡単に見えるもんじゃないぞ?」
「…………見えないけど、聞こえる」
それなら何とか見つけることも出来るかもな。しかし、この面子で誰か幽霊を何とかできるのかな? 無理な気がするんだが特にエミ。怖がってる時点で無理だろ。
「父さんに任せろ!! この日のために色々と習得していたのだ!!」
変態だから物凄い不安だけどとりあえずは何とか出来そうだったから、これで行くか。さてと、じゃあ、ティー頼んだぞ。
「…………わかった…………あっち」
ティーが指差した方向に僕たちは歩き出した。幽霊を探して。