第三十三話 美鈴の戦い
side三人称
美鈴は目の前の金髪の女を警戒していた。目の前の女はここに入ってき、美鈴たちを襲った者たちの中で飛び切り異質な雰囲気を放っていた。形容するならば他の者が幼き子供ならば、これは黒い大人。そう、この女だけ他の者にはない何かを放っていた。
かと言って美鈴に負ける気などさらさらない。この女を倒せばそれで終了。だから、手は抜かない。
「行くアルよ」
「ええ、来なさい」
美鈴が女に疾駆する。女はそれを身構えもせずに笑みを浮かべ、待ち受ける。
「はあ!!」
掌底を女に放つ。女はそれを右手で受け止める。それなりの力で放ったはずだが、完全に受け止められた。掌底を握るその力は女子供のそれではない。美鈴は後ろに飛ぶ。女は手を離さないものと思っていたがどういうわけか離した。そして、次は何? と笑みを浮かべている。
「ふざけてるアルか? 純粋な拳闘をバカにしてるアルか? ワタシも怒るアルよ」
「あらぁ、ごめんなさいねぇ、別にそんなつもりないんだけどぉ」
明らかにバカにしたような口調。しかし、それに乗って怒るような美鈴ではない。これが敵の作戦かもしれないと常に頭の隅にとどめている。そうして美鈴の様子が気に入らなかったのか、女は更にバカにしたように言う。
「遊びだからねぇ!!」
「そう、アルか!!!」
握った拳を繰り出す。それを女は受け流し拳を美鈴に放つ。体を回転させてかわし、裏拳を放つ。それを女は掴みとり、美鈴の腹に拳を叩き込む。
「グッ!!」
「あら? なんか手ごたえがおかしいわねぇ。これが中国の気ってやつぅ?」
「さあ、どうアルかね!!」
お返しとばかりに美鈴が女の腹に拳を叩き込もうとする。だが、それは女に掴まれる。そのまま女に投げ飛ばされた。
「ぐうぅ」
「あらぁ? もう終わりぃ? ねえ、もっと、あら?」
突然現れた氷の刃が女に振り下ろされる。氷で光の屈折を操って行った簡易的な光学迷彩を使った奇襲。女は咄嗟に氷の刃を持っているであろう人物がいる場所を殴りつけた。何かが割れる音と一人の女の悲鳴が聞こえたと思いきや、トウカがそこにいた。殴られた衝撃でうめいている。
「あら、ねえ、大丈夫ぅ? あら、じゃあ、今回はこれで終わりにしましょう? 私たちはぁ、遊びに着ただけだからねぇ、人が来るみたいだしぃ、それじゃあねぇ、中華鍋さんと、冷蔵庫さん」
女は仲間たちを引き連れて露天風呂から外へ消えた。
「なんだったアル?」
「みんな、だいじょうぶー!」
シルが仲居と思わしき人物をつれてきていた。彼女たちが逃げたのはこのためだろう。とにかく、危険は去った。美鈴たちはそう認識した。そして、このことは透には言わないことを決めて、彼女たちは透の元に戻ったのであった。
「おう、遅かったな。そんなに温泉はよかったのか?」
暖簾をくぐって風呂場から外に出るとちょうど浴衣を着た透が出てきたところだった。
「うん♪」
「そうかよかったよ。さてと、戻るぞ」
透に着いてみんな戻った。この後、彼女たちが襲ってくることはなかった。