第三十一話 キク、シル、戦っちゃいました
sideキク
コバルトブルーの髪の女の子が目の前に立ちふさがっています。さて、どうしたものでしょうか。助けを呼ばないと色々と大変なことになりますし。透さんにも迷惑をかけてしまいます。シルも巻き込むわけにはいきませんし、さて、どうしましょう? あ、トウカさんは早々とどこかへ行ってしまいました。どこへ行ったのかわかりませんが、おそらくは大丈夫のはず。
ほかの方々も勝手にやるでしょうから、私たちは目の前のこの女の子を何とかしましょう。話が通じるなら、それでいいんですけど。通じませんよね。あちこちで戦ってるみたいですから、駄目でしょうね。
さてと、私達も見詰め合ってる場合ではないですね。
「ねえ、キクおねえちゃん、どうするの?」
「どうするも何も、とりあえず、私が相手をひきつけるので、その間に助けを、呼んできてもらえますか」
「うん、わかった」
さてと、まずはどうしましょうか。とりあえず、この女の子と話をしてみないとわかりません。
「あなたどうしても、私たちを通す気はありませんか?」
「…………言われた、誰も、出すな……て」
「そうですか」
見たところ何もしなければ戦闘の意思はないようですね。でも、おそらく、出ようとしたら戦うことになりそうですね。家事は得意ですが、戦いはあまり得意ではありません。シルはもっと得意じゃないはず、シルだけでも逃がさないと。助け云々の前に私たちは、無事に帰らないといけないので。ほかの人たちは、大丈夫みたいですね。いつも暴れてるだけはあります。
「わかりました。シル。私が良いと言ったら走って外に出てください。着替えてから、良いですね、きちんと着替えてから、外に出てください」
大事なことだから、二回言います。でないと、この子裸のまま外に出そうでしたから。
「うん、わかった」
これでいいわね。さてと、やりましょう。
「…………」
「行きますよ」
女の子に私は走ります。あ、良い子はまねしないでください。とても、危険ですから。風呂場で走るのは転倒の危険がありますから。頭部を強打し、脳震盪、脳出血、意識不明、最悪死に至ります。
アイコンタクトでシルに合図を送り、シルも駆け出す。二人同時に動いたのを見て、女の子がどちらを止めるべきか悩みだす。その隙に私は女の子を羽交い絞めにする。
その間にシルはしっかりと脱出。これで何とかなるでしょう。
「…………逃げられた……私怒られる?」
「大丈夫じゃないですか? 私なら怒りませんよ」
「…………そう、じゃあ、あなた、ツブス」
どうして、そんな思考になるのでしょうね。言葉も途切れ途切れで、聞き取りにくいですし。でも、とりあえずは少しだけ相手をしましょう。時間稼ぎとも言いますが、シルが戻ってくるまでの間、彼女をここに足止めをします。他の方も忙しそうですから、応援は望めません。だから、少しだけ本気を出しましょう。
箒を取り出す。
「行きますよ」
突っ込んでくる女の子。その足に向けて箒を振るう。あまり傷つけたくありませんからね。幸いここはお風呂です。他の場所よりも滑りやすいことこの上ない。ならば、足を払えば簡単にこける。
「……む」
予想通り、女の子が滑ってこける。追撃はしません。私の役目はあくまでシルが誰かを呼んでくるまでの時間稼ぎ、一般人の前ではこの人たちも何もできないはずでしょうから。
「さあ、あと何回床に這い蹲りたいですか?」