第二十四話 旅行へ
「――というわけで、みんなうちに住むことになったんだよ」
「…………あらあら、すごいハーレムね。まるでお父さんみたい」
笑いながら言うが、先ほどと同じくまったく目は笑っていない。
「うぐ」
目がまったく笑っていない母さんが言う。母さん、父さんと同列に見ることだけはやめて欲しい。けど、そういいだせない。無理。何か、殺されそうな気がするし。
「ふふふ、冗談よ。怖がる透さんも可愛いからついね」
「まったく嬉しくないよ」
「もう、つれないわね」
いや、実の母に、そんな感情を抱いたらどうなるんですか。まずいでしょ。
「別にいいのよ」
「いや、あんたが良くても僕が無理だから」
「もう、父さんの子供なのにねえ」
「一体父さんに何があったの!?」
母さんの含み笑いが怖い。みんなもドン引きしてるし。
「それにしても…………」
母さんがみんなを見渡す。
「この子、この子が可愛いわ!」
ティーを抱き寄せる母さん。ティーはいきなりのことで、なす術もなく、母さんの腕の中に納まっている。
「…………!!!?!?」
「うふふ、可愛いわね~。盲目ってところがまた、たまんないわ~」
ああ、母さんが壊れたかもしれない。
「それに、この子たちも可愛いわ~」
「ひゃう!?」
「うわ、何するです!?」
シルとサクミも捕まりもみくちゃにされている。
「ねえねえ、お着替えしてみない? 服持ってきてるのよ。透さんに着せるために持ってきたのよ」
「ちょっと待て、なんで、僕に着せるために持ってきた服を詩瑠やティーや、朔美に着せるんだよ」
「そりゃ、女の子用の服だからに決まってるでしょ?」
何言ってるのコイツという顔で見られた。それはこっちだよ。こっち。
「つまり、女の子の服を僕に着せようとしてたのか」
「そうよ…………あ」
「あ、じゃねえよ、あじゃ!!」
何でどいつもこいつも、僕に女装させたがるんだよ!! やるほうはたまったもんじゃないよ! あ? なんだって? そんなこと言いつつも楽しんでいるんだろって? そんなわけないだろうが!!! こちとら、死にそうになるんだよ!!
「…………それなら、これ、使える」
ティーがかつらなど、この前捨てたはずの女装セットを母さんに渡した。こいつ、隠し持ってやがったな!!
「あら、いいもの持ってるじゃない。よし、なら、透さんにもしましょうか」
「は!?」
「あたしは賛成だ!」
エミが僕の腕を押さえて言う。こら、離せ!
「離せ絵美! 菊、絵美を何とかしてくれ!!」
「すみません」
キクは僕の足を押さえる。お前もか!! って、これじゃ、この前と同じじゃねえか! 何とか振りほどいて…………って、動けねえ!! 何でだ?
足が凍っていた。
「桃香!!」
「見たいから」
母さんの前で能力使うなよ! てか、これじゃ逃げられねえ。ライは、当然役に立たないだろうし。
「なんや、ものすごう不名誉なこと思われとる気がするんやが」
「気のせいだろう」
「そか、まあ、うちは新参者やから、見てみたいな」
ほらね、役に立たない。って、あれ、美鈴はどこ行った? 首だけしか、動かせないので、首だけを動かして探す。いた、庭で構えている。
美鈴は父さんとなぜか、知らないけど戦っていた。人間業じゃない動きをしながら。それについていってる父さんっていったい。いや、考えないでおこう。
アレは、ただの変態だ。
「あらあら、美鈴ちゃんは、拳法家なのね~」
母さんが外の光景を見て言った。
「あれ、止めなくていいの?」
美鈴は大丈夫と思うが、万が一ということがある。父さん、いや、変態はどうでもいいけど、美鈴が心配だ。
「大丈夫よ。お父さん変態だから」
ああ、母さんの中でも変態は変態認定されているのか。いつもどんな生活しているのかもろわかりだな。そして母さんの言ったことは正しかった。動きにはついていっているが変態の方が負けていた。まあ、人間とモノじゃ格が違うのだろう。
「さてと、じゃあ、みんな行くわよ」
って、しまった! 忘れてた、この状況! まずい、何とか…………無理、逃げられない。ああ、なんだよ。この前まで、かなりシリアスだったじゃん……なのに、終わった途端これってどういうことだよ……。
心の叫び虚しく、僕は良い様ににされてしまった。
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結果、物凄い美少女がいた。以上。それ以外に語ることはない。語りたくない、語らせるな。…………わかった、話が進まないから語る。そこには、女装させられた僕がいた。かつらをかぶらされて、フリフリのついたふわふわした服を着させられている以上。これ以上は僕の精神が保たない。そうだ、今なら、本気で死ねる。この前もやばかったが、これも相当だ。しかも、見てるみんなの視線が痛い。死ねる。絶対に死ねる。唯一の救いは、変態が外で戦っていることだけだ。
「死にたい」
いつの間にか取り付けられた変声機によって女みたいな、というかマジで女の声が出る。ああ、死にたい。誰か、僕を殺してくれ。だれでも いい。楽に殺してくれるなら変態でもいい。ああ、変態はだめだ。絶対何かされる。
「あらあら、透ちゃん、そんなこと言っちゃだめよ。可愛いんだから」
それが嫌だから言ってるんだよ。てか、ちゃんって呼ぶなちゃんって!
「さてと、準備も出来たし、行きましょうか」
「良くってどこへ?」
「旅行よ」
もしかして、母上様、このまま旅行に行くんですか?