第二十話 叔父
中はかなり広い書斎で本棚は天井まで届いていた。一部屋ではなく二部屋ほどあるらしく扉がある。
……わかってるよ。少しくらい現実から目をそらしたかっただけなんだ。見たものがすごすぎて。うん、やばすぎて。
そう、僕の目の前は桃源郷が広がっていた。意味がわからないか? そのままの意味だ、簡単に言えば裸の男にたくさんの裸の女が群がっている。これだけなら、問題はないだろう。え? 問題だって、まあ、まてこの不思議空間の中ではあまり問題にならないという意味だ。人がいるんだからな。問題なのは、その男だ。まったく俺と同じ顔をしていた。いや、よく見ればどこか違うような気がするが、さすがに凝視できるような状態ではない。
「ほら、これはどうだ?」
「あんっ! い、いいです」
よし、逃げよう。これ以上いるとまずい。いや、最初からまずい。部屋を出ようと振り向いた。
「待てよ」
僕より少し低い声で呼び止められた。やっぱり逃がしてはくれないんだ。ゆっくりと振り返る。そこには先ほどと同じ桃源郷が展開されているが、がんばって目に入れないようにする。
「なんでしょう」
「せっかく会えたのにどこいこうってんだよ」
この状況でどこかへ行かないほうがおかしいだろう。それとも、僕の方がおかしいのか? いや、それだけはないと思いたい。
「い、いや、邪魔かと思って」
「ふむ、まあ邪魔かといえば邪魔なんだが、せっかく孫が訪ねてきたんだおいかえすわけないだろ」
ん? さっきこいつはなにを言った。孫? つまりこの桃源郷の主である僕もどきは俺の叔父さん? いやいや、まさか、だって僕とさほど年恰好変わらないぞ。確かにここはよくわからない空間だからなにがあっても不思議じゃないけどさ、さすがにありえんだろう。
もう一度目の前の僕もどきを見る。驚いたことに桃源郷は消え普通の格好に戻っていた。よかったよ本当に。
「それはどういうことなんだ?」
「だから、俺はお前の叔父だ。お前にわかりやすい姿で出てきてるんだ」
……………………。えっと、つまり、こいつが僕の叔父、そういうことだよな。信じられん。父さんたちに聞いた話しによれば、優しい人だと聞いたのだが。モノをいつまでも大切にする人だと。
だが、目の前の叔父(仮)はイメージとはかなり違う。
「…………」
「信じてないだろ。まあ、俺も、昔は信じられなかったがな。それで、モノたちとの生活はどうだ?」
「なんで!?」
なんで、そんなことを知っている。死んだはずの叔父が知っているはずない。
「不思議に思っているな」
「誰にも言ってないのにどうして」
「簡単な話だ。俺もお前と似たような状況に陥ったことがあるからな」
「な!?」
そんな話は初耳だった。叔父が僕と同じ状況に陥っただって、それはつまり、ものが擬人化したということだ。同じことが昔もあっただと。驚き以外のなにものでもない。
「やっぱ、知らなかったか。まあ、誰にも話してねえし。さて、じゃあ、俺も仕事するかな」
「仕事?」
「ああ、お前に全てを話すというな。まあ、すぐに全部は話せないが、なんで、ものが擬人化してモノになるか、お前に話してやるよ」
この叔父は一体何を知っているのだろうか。遂に叔父の口から語られる。