第八話 洗濯ばさみ現る
翌日、キクと供に洗濯物を干していた。キクは、掃除洗濯など物や場所を綺麗にすることに関しては右に出るものがない。擬人の二名さんは得意分野がはっきりしている。元がモノだからだと思う。ま、それが何かはそのときにならないとわからないんだけどな。
「キク、洗濯ばさみとってくれ」
「はい」
キクが洗濯ばさみを差し出す。
「ありがとう」
それを受け取り洗濯物につけようとした瞬間――。
バキィ
――持つところ(?)が折れた。
「…………」
はい、もうみなさんお分かりのお約束。
刹那洗濯ばさみが光り輝いた。咄嗟に洗濯ばさみを離す。
現れてのは茶髪をツインテールにした少女が居た。
「最後まで使ってくれてありがとうです」
少女はそう言った。
「え~っと一応聞くけど洗濯ばさみ?」
「はいです」
「そうか」
やはりまた一人増えてしまったようだ。
「それで、名前をくださいです」
「ああ、そうだな」
何がいいだろうか。洗濯ばさみだから…………。
「よしじゃあ、サクミだ」
「サクミですか。どこかいい加減な感じがするですがまあ、いいです」
「うぐっ!」
確かに安直過ぎたか。まあ、気に入ってくれたならいいだろう。
「じゃあ、みんなに紹介するか。サクミ、まず僕の隣にいるのが元ホウキのキクだ」
「よろしくお願いします」
「よろしくです」
「じゃあ、他の連中に紹介するから行こう。キク、悪いけどあとは頼んだ」
「はい。わかっています。あとは任せてどうぞ」
洗濯物干しをキクに任せて家の中へ。
「あ~お兄ちゃん~。洗濯終わ――あれ~? その子だれ?」
「今紹介するよ。シル」
「うん」
頷くシル。
「この子は元洗濯ばさみのサクミだ」
「またー!!」
「サクミですよろしくです」
「うう。よろしく」
さて次だな。キッチンに向かう。エミと美鈴がいた。
「アレ、透どうしたアル?」
「どうしたんだ?」
「ちょっと新人を紹介しようと思ってな」
「アイヤ、後輩アルカ? うれしいアル」
美鈴は嬉しそうだ。
「パシリには使えそうか?」
エミが言う。パシリにする気なのかよ。
「やめろよそんなこと」
「冗談だよ」
本当にやりそうなんだよ。
「まあ、とりあえずサクミ――あれ?」
…………サクミはキッチンに入って来てなかった。
「お~い、サクミ~!」
呼ぶと、サクミは顔を出した。顔だけ。
「なにやってんだサクミ? こっちこいよ」
「危険な感じがするです」
「…………」
「ん? どうした?」
視線がエミに集まる。わかる気がするな。さっきの発言を聞いた限りでは。
「特にそっちの赤毛からは危険な匂いしかしないです」
「しかし、そこにいたら紹介できないし。出て来いよ。大丈夫だよ」
「いやです」
即答された。
「どうするかな」
「透さん。任せるアル。伊達に長生きしてないアルヨ。子供の扱いとても得意ネ」
そういった美鈴はチャイナ服の袖からアメを取り出した。何でそんなの持ってるんだよ。
「!!」
サクミがじっと見つめている。
「もっとあるアル」
もうひとつアメを取り出す美鈴。
「あう」
サクミがほしそうな顔をしてじっとアメを見つめる。行こうか行かないか迷っているみたいだ。
「まだあるヨ。アメが嫌ならチョコもあるアル」
アメとチョコが出てくる。一体何個持ってるんだ。
ゆっくりとサクミが出てきて美鈴に向かう。
「はい、どうぞアル」
「…………もきゅもきゅ」
もきゅもきゅ食べ始めた。
「どうアルか?」
「…………おいしい」
「それはよかったアル」
「………………ありがとです。いい人です」
餌付けされてるぞサクミ。
「ワタシ、美鈴アルよろしくアル」
「サクミです。よろしくです」
これで美鈴とは打ち解けたなあとは問題のエミだ。
「おう、お前が新入りか」
エミが近づいていくがサクミは美鈴の後ろに隠れる。
「あ~」
頭をかきながらどうしようか考えるエミ。
「よし」
お、何か思いついたみたいだ。
「コイツがどうなってもいいならそのままでもいいが」
エミが僕を抑える。
「おい!」
「いいからいいから」
「よくねえよ! もっと酷いことになるよ!」
「まあ、いいって」
サクミを見ると。
「ひ、人でなしです。あ…………どの道人ではなかったんですね。これはみんな人でなしです」
変な納得をしていた。
「っと、そういうことじゃないです。早く透さんを離すです」
「あ~、離す離す。だからそっちも出てきてくれよ」
「わかりましたです」
サクミが前に出る。
「悪かったな透」
「いや、いいがどうするんだ?」
「ん? こうする」
取り出したのはお菓子詰め合わせ。
「お前もかよ」
「いい人です」
お前もお前だ。サクミ餌付けされるな。
「はあ~。まあいいか」
本人たちが納得してるんなら。
「さて、あとはトウカだけだが、今どこにいるんだ?」
「ここ」
「うわ!!」
いきなり後ろから声をかけられて驚く。
「お前どこにいたんだよ」
「……ずっとここにいた」
「そ、そう?」
気がつかなかった。
「…………」
トウカがサクミを見る。
「…………トウカ」
「え? あ、はい、サクミです」
名前だけ言ってトウカはさっさとソファーに座ってテレビを見始めた。もう、何も話を聞く気はないらしい。
「おかしな人ですね」
「言うなよ」
それだけは言ってはいけない。
「まあでも、ここの人たちは楽しそうです。いい人も多いし」
「そうだな」
お前の判断基準はおかしい、そういいたかったがいえなかった。