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王女様と近衛騎士の犯罪記録、ぶひぃ

王女様が近衛騎士の部屋に入り浸るのは異世界でも打ち首デス、ぶひぃ

作者: へるきち

 王女殿下が、下っ端近衛騎士の部屋に押し掛けて来た。


「ちょっと、そこどきなさいよ」

「え? 殿下ご乱心めさるな」


 そう言いながらも家臣は主君に逆らえぬ。俺は素直に廊下とも言えないような狭いスペースから身を引く。殿下は、その脇をずんずんと勝手に進んで行く。ワンルームなのだ、その奥には俺の寝床しか無いんだぞ?


「あのー? ここ俺の部屋なん」

「だから来たのでしょ? いちいち説明が必要なの?」


 俺の意思表示は食い気味に打ち消されてしまった。


「狭っ! うちの、ウサギ小屋より狭っ!」

「ウサギ飼ってんの? 食用?」

「は? 飼ってないけど」


 なるほど。姫はウサギは飼っておらぬ、と。ふっ、またひとつ姫について知ってしまったぜ? 名前も知らんのにな。


「姫ー? 近衛騎士の部屋に入り浸るのは、異世界でも打ち首だと思うんじゃけどもー」

「姫? オタサーの妖怪みたいだから辞めて貰える?」


 オタサーの姫とか。6歳幼女がどこで覚えてくるの? ああ、その手に持っている大量のラノベですね? クラッシャーという点においては、こいつも妖怪だと思うのだが。


「なにこれ? 本を置くスペースなんかないじゃないの」


 そりゃ無いよ。あったら、俺だって紙の本を処分してないよ。


「ふむ。これが邪魔ね。処分しましょう」

「え? やだよ。お前、それが何か分かって言ってるのか?」

「まーしゃる、って書いてあるわね? 武器なの? 銃刀法違反ね。家臣の罪は主君が正さないと」

「あのそれ、個体差あるから、手放すと同じものは」

「もう売れたわよ。案外人気あるのかしら、コレ。さっさと、発送してちょうだい」

「え?」


 そう言って姫が、いや殿下が俺に向けているのはスマホの画面だ。フリマアプリのメッセージだね? 「発送をして下さい」ほほう?


「何勝手に人のモノ売ってんの?」

「ちゃんと、あなたのアカウントで売ったわよ?」


 ほほう。確かにソレは俺のスマホ。なんで、コイツ俺のスマホのロック解除出来るのん? 俺本人だって寝起きの顔だと認証解除出来ないっていうのに。


 これ以上逆らうと打ち首だ。発送するかぁ。

 俺のマーシャルは、きっちり適正価格で売れていた。説明も適切。


「16年間使用したため傷多めですが、スカッと抜けの良いチューブサウンドです。音質は好みの問題だと言うことをご理解の上ご購入下さい」


 あの僅かな時間でコレを!? それとも俺、ショックで気絶でもしてた?


「えー? こんなのどうやって発送すんのー?」

「はあ? あんた大人でしょう? そんな事も出来ないの? 取り敢えず玄関に出しておいて」


 ピンポーン!


「あら? 早いのね。ちょうど近くに居たのね」

「フリマの回収に来ましたー」

「これです。汚いけどビンテージなんで。真空管入ってるから注意して下さい」

「あー、ギターのアンプってヤツですねー。お預かりしまーす」


 俺の相棒が持ち去られてしまった。


「バンド辞めたんでしょ? だったらアレはもう不要じゃないの? 何? どうしたの? 呆然として、後で一緒にお風呂に入ってあげるから元気出しなさいよ」


 ふっ、過ぎた事をいつまでも悔いていても仕方ないな。


「なんで俺がお前と風呂に入ると元気になると思ってるんだ?」

「え!? 違うの?」


 違うよ。ロリロリ法の違反者じゃないよ俺。言い訳になるか知らんけど、俺も女だしね? 多様性に寛容な現代だと、公平に違法性を問われちゃうのかな?


 こいつは、夜明け前の府中街道でヒッチハイクをしているような妖怪プリンセスだ。行動力の高さと、イカれ具合には定評がある。そんなのを、車に乗せてしまった俺は既に前科者だ。いや、略取誘拐罪は親告罪だからまだ無罪だな?


 しかし、新たな罪状の芽がが、どんどん積み重なっていく。

 今のこの状況もやはり、軟禁に略取誘拐罪の成立だろう。どっちも親告罪だっけなあ? バレなきゃいいの? 違う、軟禁は親告罪じゃない。

 いや? むしろ、これは住居不法侵入罪に、窃盗罪なのでは? あ、でもマーシャルの売上は俺に入るのか。じゃあ、これ何罪?


「うーん。場所は空いたけど本棚が無いと本置けないわね? スピーカーキャビネットは残して本棚に改造すれば良かった?」

「良くないよ。貴重なものを洒落た風の何かするのは犯罪です」

「何罪よ、ソレ」

「オサレ罪です。死刑です」


 ギターとかスピーカーとかさ、変な色に塗ってインテリアにしてるカフェあるじゃん? 俺は、ああいうの見ると落ち着かない気分になる。例え、元がゴミだったとしても。物には魂が宿るのだ。本来の目的で使う気が無いなら、燃やした方がマシだろ。


「そんな異世界の法律は、残念ながら適用されないわ。ここでは私が法律なのだし」

「俺の部屋だけどね?」


 まず俺のスマホを回収しないと。コイツ、勝手に本棚ポチるぞ。


「うちのクズが、本棚にしてるわよ?」

「え? クズって何?」

「私の遺伝子学上の父親」


 遺伝子学上の父親をクズ呼ばわりする。随分と早い反抗期ではないだろうか?


「戸籍上のって言うのが適切だろ? 遺伝子学上どうかは分からんぞ?」


 幼女に言う事ではない気がするが。こいつを幼女だと侮ってはいけない。


「あのね、私が裏付けもなく断言するワケないでしょ?」

「え? DNA検査でもしたの?」

「そりゃするでしょ。万が一があったらイケナイじゃないの」


 万が一って何? イケナイって何処に? 地獄ならいつでも行けると思います。なんなら、ここが地獄デス。


「わらわは大きくなった父上のお嫁さんになるでおじゃるー、って年頃じゃないの? あんた」

「正気なの? ここは異世界じゃないのよ? クズが、将来はパパのお嫁さんになってくれー、とかほざくから、もし本気だったらヤバいでしょ?」


 おおう。娘相手に軽口も叩けないどこかのおっさん。哀れよなあ。俺の知ったこっちゃないけどな。娘のラノベを勝手に処分する様な親なのだ。その娘も他人のマーシャンを勝手に処分しているワケだから、間違いなく血を引いてるんじゃないの?


「犯罪者って遺伝するのかしら?」

「どうだろうか?」


 ルパンって隔世遺伝しちゃったかね? それよりも、こいつ俺の心読んでないか?


「アナタの考えなんて、丸わかりなのよ」

「あ、そう。ところで本棚どうするの?」

「まだ買ってないの? その手に持ってる立派なデバイスでポチッとすれば? それともアレクサに頼む? アレクサ、適当に本棚買って」

「残念だったな、うちにアレクサは居ないんだ」


 買い物に行く事になってしまった。腹も減ったし、外に出るのは賛成だな。王女殿下が、こんな汚い部屋には居たくないとか言い出したし。何しに来たのコイツ?


「この前のカッコいい車はどうしたの? 死んじゃったの?」

「死んではいないし、カッコいいも同意しかねるが。アレは借り物だ。今日のコレは、カーシェアだよ」


 ヒッチハイクをしていたコイツを乗せたのは借り物の軽トラだ。軽トラにも美学はあるし、否定はしないが、6歳児がカッコいいと評するような車だろうか?


「あなたも、ポルシェとかフェラーリがカッコいいとか抜かす、上っ面だけの輩なの?」

「ああ、そうだぞ。こうしているのも、お前がツラだけはキレイで目の保養になるからだぞ」

「へえ?」


 ふむ。どうやら逆鱗を一撃で貫いてしまったらしい。家出の原因は、そっちかな。ヒッチハイクの時は、明け方に出て夕暮れ時には帰ってから、家出は不成立かも知れんけど。


「アナタみたいにブスなら、人生イージーモードでしょうね。と普段なら返すところなのだけど。アナタもソコソコにはフェラーリヅラじゃないの」

「まさか。そんな事を、クラスでも言ったりしてるのか?」


 そもそも、それって逆じゃないの? 特に女はツラさえ良ければ人生イージーモードなのでは? ところで、フェラーリヅラって何? 初めて言われた。


「あのね。あなたもフェラーリヅラなんだから分かるでしょ?」

「いや、さっぱり分からん。俺は、アメ車のが好きだし」

「問題はそこじゃないでしょ?」

「じゃあ、何が問題なんだ?」

「少しは、自分で考えたら? ところで、ウサギって食べモノなの!?」


 今、そこに反応しちゃうのん? もしかして、さっきから色々とボケているのだろうか。なるほど、ツラがいいと、せっかくボケてもスベる宿命なのかな?


「よし分かった。まずは俺のお嫁さんになってもらおうか」

「いいよ」

「え!?」


 あれ? もしかして、俺もボケがボケだと分かってもらえない部族なの? そんなバハマ!


 ビックリして、急ブレーキを踏んでしまった。ココが、うどん屋の駐車場で良かった。路上だったら事故ってたかも。

 ボケにボケで返されただけじゃないか。もし、事故ったら、どんな余罪を問われるか、分からんぞ。なんて危険な状況なんだ。


「まずは女同士でも婚姻届を出せる自治体に引っ越そうか。住民票勝手に移すだけでもいいのかな?」

「オーケー、分かったわ。この流れだと、お互いどこまで本気なのか分からなくなるわね。これからボケる時は変顔をしましょう。運転中は命に関わるものね」

「お、おう?」


 何で、今それを言いながら変顔してるんですかね? どういうこと?

 面白すぎて、それこそ命に関わるんだけど。


「婚姻届を出すのは、もう少し待ちなさい。私が、まだ無理な年齢だから」


 そこは変顔じゃないの? くっ、ボケが高度過ぎて、いっそ殺せ! クッコロ!


「えーと? あと12年くらい? その頃には、俺もうボケてるかもよ」

「アナタ一体何歳なの!? それよりも、私を何歳だと思っているの。6歳児というのは、そうね、アレくらいよ」

「え?」


 横断歩道を渡る自転車の前カゴみたいな奴に、小さいのが乗ってるね? 6歳児ってあんなに小さいの? おお、子供を持たずに居ると、こんなに感覚がズレるものなのか。


「私、14歳よ? どれだけズレてるの?」

「え? リアルチュウニだったの? 右眼が疼いたりするの?」

「眼に成長痛は無いと思うのだけど」


 何故、オタサーの姫は通じて、邪気眼が通じない。世代か? これが世代の差なのか!?


「もうなんでもいいや。それよりも何処で食べるー?」

「家に戻って何か作りましょうか?」

「え? 何作れんの?」

「何故私が作るの確定なのかしら?」

「お嫁さんじゃし」

「ジェンダーロールってヤツかしら?」

「役割分担を公平に決めて何が悪いんだ? シンデレラは掃除もしないで、魔法使いを使役しているのか? それでいいのか!? お前は、カボチャを馬車に出来るって言うのか?」

「うるさい。あと、お前って言うな」

「今更ぁ!?」


 なるほど。文部科学省の「学校保健統計調査」によると、14歳女児の平均身長は155.5センチだそうだ。


「殿下は14歳にしては、かなり小さくない?」

「今、グーグルに聞いたの平均身長でしょ?」

「標準偏差は5.6だから中央値も概ね一緒だと回答されたのだが。標準偏差って何?」

「私の身長146センチは、平均的だって事でしょ。あなたシステムエンジニアだとか言ってなかった? 数字に弱くて出来る職業だとは思えないのだけど?」

「んー? それは11歳児の平均だぞ? いや10歳児に近い?」

「私の体に何を求めてそんな事言ってんの?」

「いかがわしい物言いはよせ。それとも踏み台が無いから怒っているのか?」

 

 仕方ないだろ? この部屋は天井低いんだから。俺の身長だと踏み台が必要な作業が存在しないんだ。


「私に料理をさせたいのなら踏み台は用意しておくべきね。それよりも、システムエンジニアは、算数が出来なくてもなれるの?」

「もちろんだ。2進数で足し算出来れば、余裕だ」

「へえ? じゃあ、256+128は2進数でいくつなの?」

「8桁で頭が11だ」

「9桁でしょ? なるほど、アホでもなれるのね」

「アレ!?」


 大丈夫だ。問題無い。最近は、AIの方が優秀だ。AIの使い方さえ分かれば問題ない。俺は、デスクワーク主体のシステムエンジニアだからな。


「私が将来に対して抱えてる不安が、バカらしくなるわね」

「そんな事じゃ困るな。4年後には俺を養う義務が発生するんだぞ?」

「ジェンダーロールは何処行ったの?」

「殿下が働くべきだ。だって家臣を養う義務がある」

「なるほど?」


 おかしいなあ。俺の物語は異世界ファンタジーなんかじゃなくて、ハードボイルドでヘビーデューティなはずなのになあ。なんで、幼女を口説いてるのん?


「で、どうするー? 家に帰って来たけど、料理出来ないじゃん」

「そもそも、材料が何も無いのに、何で帰った来たの?」

「材料ならある。もやしとギョニソだ。米だってある」

「あなた、魔法使いなの? どうやってソレで料理するの!? ここは異世界じゃないのよ」

「ククッ、見せてやろう。我が奥義を。その目にしかと焼き付けるがいい」

「チュウニは、あなたの方だったわね」


 見せてやる奥義など存在しなかったので、歩いて行ける距離にある定食屋に行った。


「なんて事だ。久々の休日だったのでに、有益な事を何もしないまま、もう日が暮れようとしている」

「じゃあ、約束通りお風呂行く?」

「そんな約束はしていないし、風呂ならうちにもある」

「あんなに狭いと一人でも無理じゃない?」

「もしかして、殿下の家は本当に王宮なの?」

「どうかしらね」

「そもそも、殿下と風呂に一緒に入るのは有益な事だろうか?」

「あなたの邪な欲望を満たせる」

「俺に、ちんちんがあるように見えるか?」

「ハードボイルドとヘビーデューティは何処行ったの? いっそ私に、ちんちんが付いていれば、もっと話はシンプルだったのにね」


 物騒な言葉を残して、殿下は帰って行った。


 この物語は異世界ファンタジーではないが、ハードボイルドでも無いようだ。

カクヨムに移動して続きを書いています

https://kakuyomu.jp/works/16818622175275927355

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