断罪された悪役令嬢がもう無理と泣くので、代役を請け負った
「姫と五人の貴公子」という乙女ゲームがある。
異世界に召喚された巫女姫が世界を救うゲームだ。
このゲームの悪役令嬢は、王太子の婚約者で公爵令嬢のヴァイオレット。
彼女は誰にでも優しくて、努力家で、聖女としても認められていた。
だが巫女姫の出現で聖女認定を理不尽に剥奪され、それを理由に王太子との婚約を破棄される。
家族からも見捨てられ全てを失った彼女は、巫女姫を恨み彼女を亡き者にしようとした。
結果、暗殺は失敗。
命だけは見逃されたが、貴族籍を奪われ国外追放処分を科される。
…可哀想じゃない?
あんまりだと思う。
特に、巫女姫が現れるまではお人好しだった彼女だったから余計に可哀想に思う。
で、なんでそんなことを長々と思い出してしまったかと言えば。
「…死んじゃったかあ」
私が死んで、幽霊になって異世界転移したからである。
ちなみに死因は老衰。
孫たちに看取られて幸せに眠りについた。
ちなみに乙女ゲームの知識は、孫たちと一緒に攻略したからかなり詳しい。
転生モノや転移モノの小説も孫たちと読んでいたので詳しい方だ。
で、そんな幽霊の私の目の前には断罪され国外追放処分を受け、祖国とは遠くの国の田舎町の一角で隠れて泣き続ける悪役令嬢ヴァイオレット。
「大丈夫?」
「…誰?」
「ああうん、私は…」
幽霊の私は包み隠さず事情を説明。
すると彼女は言った。
「なら私の事情も知っているのよね。お願い、私に取り憑いて、私の代わりに生きて」
「え」
「もう無理…死ぬことも怖くて出来ないし、生きていても良いことがないし」
「あー…」
「本当に、もう無理なの…」
可哀想に…仕方がない。
「じゃあ、やってみるね」
彼女に触れる。
そして、彼女の肉体に無理矢理入り込んだ。
結果、乗っ取り完了。
ヴァイオレットの魂は…安心したように穏やかになり、意識の奥深くで眠った。
「さて、これからどうしようかな」
ヴァイオレットの記憶を辿る。
「…この国は随分貧しいみたいね」
冷害で今年は色々不作だったらしく、農業国のこの国は貧しいらしい。
ならば。
「あの、すみません」
「おや、お嬢さんどこの子だい?」
「隣国から家出してきたものです。あの、一つご相談なのですが」
「なんだい」
「村の畑や田んぼや家畜に祝福を与えてもよろしいでしょうか」
私がそう言うと、農家さんは目を見開く。
「祝福の力を使えるのか!」
「はい」
「今年は冷害でどこも不作なんだ!ぜひ頼む!」
ということでこの辺り一帯の畑と田んぼと家畜に祝福を与えた。
【全力】で。
結果、畑と田んぼは作物が一気に成長して品質の良いものが大量に今すぐ収穫可能な状況になった。
寒さで弱っていた家畜たちも、たちまち元気になった。
さらにその効果を受け私を信用してくれた人々にも祝福を与えた。
軽い風邪や肩凝りなどはもちろん、重い病気や欠損も治す。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました、この御恩は忘れません!」
「行く宛がないなら、ぜひしばらくうちに泊まって行ってください!」
「教会にもご報告して、保護してもらえるように致しますね!」
「皆さま…こちらこそ、そこまでしてくれてありがとう」
上手くいった。
そして私は、しばらく人々に歓迎されて大事にされた後教会に引き取られた。
「今日も素敵な一日になりますように」
教会に引き取られてから数日は、国内を巡って全力で祝福をかけまくる日々が続いた。
けれどそれが落ち着くと農業国のこの国は豊かさを取り戻し、その豊かさを教会にも還元してくれた。
結果この国の国教の教会にて、私は聖女認定されてとても大切にされることになった。
心の奥で眠っているヴァイオレットもそれを感じたらしく、時々穏やかな幸せを感じているのが伝わってくる。
…でも、この子はもっと幸せになれる。
私がもっと幸せにしてあげるのだ。
だって、そうじゃないとおかしい。
前のこの子は、今の私以上に頑張ってたんだから。
「さて、結界を張ろう」
祝福を国に与えまくった私は、今は弱い力で国全体に祝福と結界を日々張っている。
弱い力で、と言ってもその祝福は国民たちが豊かに健康に暮らせる程度だけど。
結界だって、他国の侵攻があっても防げる程度だ。
「はい、結界と祝福完了」
今日の仕事おしまい!
今日は何をして過ごそうか。
孤児院や養老院に慰問でもしようかな。
「聖女様、失礼します。他国の王族が聖女様にお目通りしたいとのことです」
「他国の王族が?」
…なんだろう。
嫌な予感がする。
「それって私の祖国?」
「…はい」
なるほど、ね。
意識の奥で眠っているヴァイオレットの、ザワザワした感覚が伝わる。
大丈夫、逆にギャフンと言わせてやるからね!
私がヴァイオレットにそう語りかけると、ざわざわは少し治った。
「久しぶりだな、ヴァイオレット」
「ご機嫌麗しゅう、王太子殿下」
挨拶もそこそこに、本題に入る。
「それで、ご用件は?」
「我が国に戻ってきてくれないか」
王太子殿下のその言葉に、心の奥にいるヴァイオレットが拒絶を示す。
それに、戸惑いの気持ちも感じ取れる。
そうだよね、ヴァイオレット。
急にそんなこと言われてもね。
「それは何故?」
「…巫女姫は、たしかにこの世界の危機を救った。まさに救世主だった」
「ええ」
「そんな巫女姫とともに世界を救った我が国は、他国から莫大な寄付金をもらったから国庫も潤った」
「そうですわね」
それがなんだと言うのか。
「だが、それだけじゃダメだったんだ」
「へえ?それは何故」
「巫女姫も祝福の力は使えるが、君ほどじゃない。我が国は今、食糧不足や流行病でてんてこ舞いなんだ…いくら金があってもこれじゃあ意味がない」
「はぁ、なるほど」
天罰だと思った。
国に尽くしていたヴァイオレットを軽々しく捨てた天罰だと。
だけど心の奥にいるヴァイオレットは、祖国の民を憂いているのがわかる。
不安そうで、苦しそうで、心配そうで、憐れみが溢れてくる。
ヴァイオレットの幸せを思うなら、ここで見捨てることはできない…か。
「国に戻ることはできません」
「なっ、我が国を見捨てるのか!?」
「先に私を見捨てたのはどちらですか」
「そ、それは!」
「ですが」
天使のように見えるよう、最大限意識して微笑む。
「無辜の民を見捨てることは致しません。人々を救うため、国に戻れという命令ではなく〝この国の聖女として〟派遣を要請するというのであればお受けしましょう」
「なっ…ぐぅっ…」
逃がした魚は大きい、まさにその言葉にぴったり。
悔しいわね?薄情者の王太子さん?
「…わ、わかった。派遣を要請する。いくらだ」
「教皇猊下に聞いてくださいませ」
「ん?呼んだか?」
「こ、これは教皇猊下…」
「王太子殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう。ヴァイオレット、大丈夫か?」
「はい」
教皇猊下がどこからともなく現れた。
さては盗み聞きしていたな?
教皇猊下は私がこの教会に引き取られてからというもの、色々世話を焼いてくれているのだがいたずら好きで可愛い人なのだ。
「なら、神聖金貨五百枚で手を打とう」
日本円に換算して五億かぁ、吹っかけたなぁ。
まあ、今の祖国なら払えない値段ではないか。
「わ、わかりました。それでお願いします」
「本当にいいのですか?王太子殿下」
「流行病の対策だ、背に腹は代えられない」
「じゃあそういうことで、さっそく行くか!」
「え、教皇猊下も来るのですか?」
「当たり前だろう。我が国の聖女を無理矢理奪われたら困る」
「…っ」
信用されてないのが悔しいか。
でも教皇猊下には事情を話しているから残念ながら当然だ。
「じゃあ、ヴァイオレット。行くぞ」
「はい」
こうして私は、祖国に聖女として派遣された。
「久しぶり…だね、姉さん」
「お久しぶりでございます」
「け、敬語なんて使わなくても」
「今はもう他人ですので」
「…っ、姉さ…」
祖国に戻って、教会でさっさと祈って終わらせようと思ったのに教会にはヴァイオレットの弟がいた。
攻略対象者で、傷ついたヴァイオレットを見放して断罪した男。
率直に言えば嫌いだ。
「おい、我が国の聖女に近寄るな」
「あ、僕は姉さんの弟で…」
「今はもうヴァイオレットは天涯孤独の身の上だが?」
「…それは」
弟を捨て置き、教会の最奥…祈りの間に向かう。
もう、追い縋られることはなかった。
そして、祈る。
これでもう、この国では流行病は根絶され人々は癒やされただろう。
動植物も元気になって、これで食糧不足もしばらくすればおさまるはずだ。
「…これでよし」
「さすがだな、ヴァイオレット。見事な祝福の力だったぜ」
「教皇猊下、これで無辜の民は救われるでしょうか」
「ああ、間違いなく」
こうして私は、祖国を救えた。
「じゃあ、俺たちはこれで」
「ありがとうございました…本当に、戻ってきてはくれないのか」
「はい、無理です」
にこっと微笑み言い切ると、王太子は目を伏せた。
せいぜい後悔するがいい。
意識の奥で眠っているヴァイオレットも、祖国を救えた安堵でいっぱいだし。
ヴァイオレットの祖国は救えたし。
祖国の教会の神官の話によると、聖女認定取り消しは間違いだったとここの教皇は槍玉に挙がっているらしいし。
ヴァイオレットを見捨てた奴らも逃がした魚は大きいと気付いたみたいだし!
何もかも大成功!!!
巫女姫は…まああの子は悪気はなかったみたいだし、国のために尽くしても〝聖女ヴァイオレット〟と比べられて嫌な思いをしているらしいから追撃はしなくてもいいでしょう。
ヴァイオレットを断罪したあとの三人は…まあこれからの人生関わることもないだろうしいいか。
ということで私は〝私の〟教皇猊下と〝私たちの〟教会へと帰った。
帰りの馬車で、教皇猊下に言われる。
「スッキリしたかい?」
「はい、祖国も救えましたし」
「それだけか?」
「…いいえ?逃がした魚は大きい、という皆様の反応もしっかり楽しみました」
「あっはっは!そりゃあいい!!!」
なんだか上機嫌な教皇猊下。
「ところで、俺の愛おしい人。お前がなかなか頷いてくれないから、俺もいい加減焦ってきたんだが」
「なにがです?」
「わかってるくせに。いい加減、婚約しよう。結婚してくれ」
「でも、私婚約はまだ怖いです」
私というか、意識の奥でヴァイオレットが不安がっている。
「大丈夫。俺はあの男と違って絶対裏切らないし側で守り続ける。約束だ」
「本当に?」
「ああ、もちろんだ」
「………」
ヴァイオレットは一瞬戸惑ったが、受け入れられるくらいの気持ちはあるらしい。
ヴァイオレットのための人生代行だ。
ヴァイオレットがそれでいいのなら。
「じゃあ…末長くよろしくお願いします」
「!…やったぜ、愛してる!!」
ぎゅっと抱きしめられる。
その温度に、心の奥のヴァイオレットは歓喜する。
私は…その瞬間に憑依を解いた。
「はぇ!?」
「どうした?ヴァイオレット」
「あ、い、いえ。大丈夫です…その、ありがとうございました!」
「ん?」
「あ、いえ、その。お世話になった人にお礼を伝えたくなって」
「うん?」
きょとんとする教皇猊下。
私にお礼を言ってくれるヴァイオレットに、そっと耳打ち。
「幸せにおなり」
「…はい!」
「ヴァイオレット?」
「な、なんでもないです」
「今日の君は忙しいな?」
「ふふ、ごめんなさい」
「そんな君も愛してるぜ」
幸せそうな二人を見守ってから、私は天に昇った。
最後に素敵な経験ができてよかったと、若い二人にエールを送りながら。
ヴァイオレットはこれから、教皇猊下と幸せな日々を送ります。
おばあちゃんはこれから、転生して再び平凡で幸せな日々を送ります。
ちなみに色々感想をいただいて思ったことですが、教皇は「中の人」を愛してたんであって「ヴァイオレット」を愛していたわけではないとのご意見を頂戴しますが、それで行くと「中の人」を愛していたわけではなく「〝中の人の演じる〟ヴァイオレット」を愛していたわけで、中の人を愛したわけでもヴァイオレットを愛していたわけでもなく「存在しない人の幻想」を愛していたことになると思うのです。
であれば幻想に一番近いヴァイオレットとくっつくのが一番円満…それにきっかけはどうあれ真実二人は愛し合い幸せなので、知らぬが仏、ということで…。
少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
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『悪役令嬢として捨てられる予定ですが、それまで人生楽しみます!』
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