59. 胸に残る言葉
ウーテア山を臨む街、ラグリス。
私とウェイドが古井戸から子グマを救出し、『豊穣祈願の儀式』をおこなった、あの街だ。
私は一年前と同じように西門から街へ入る。
と、あの時と同じ守衛さんが「久しぶり!」と声をかけてくれた。あれ以来、この街には何度も立ち寄っている。もうすっかり顔馴染みだった。
馬を降り、私は街の教会へ向かった。
その間にも、街の人が次々に挨拶してくれる。あの一件で、なんだか有名人になってしまったらしい。
ラグリスの街だけじゃない。アンブルウルフの縄張りに程近いベツラムの街の人々も、行く度に私に声をかけ、親切にしてくれる。
他の街や王都にも、お友達がたくさんできた。
一年前までの私は、『獣に魅入られた野生児令嬢』だと指差され、逃げるように引きこもっていたのに……今では慕ってくれる人が大勢いる。
こんな未来が訪れるだなんて、あの時は思いもしなかった。
街の人たちと笑顔を交わしながら、温かな気持ちで大通りを進み……
私は、通い慣れた教会へと辿り着いた。
ちょうどその時、教会の門が開き、上品な老婦人――司祭様が出ていらした。
そして、その肩に留まっていたピノが、私に気付くなりピューッと飛んで来た。
『テスーッ! 思ったより早かったわね!』
「うん。ピノに会いたくて、急いで来ちゃった」
『もー、テスってば寂しがりやさんなんだから!』
そんな言葉を交わしながら、私は司祭様に近付き、ご挨拶をする。
「お久しぶりです、司祭様。お元気でしたか?」
「えぇ。テスティア様も、お元気そうで何よりです」
「お祭りの準備、順調みたいですね。街がとても賑わっていました」
言って、私は歩いて来た大通りを振り返る。
花やリボンで飾り付けをする人、出店の準備をする人に溢れ、みんな楽しそうだった。
私の言葉に、司祭様は頷き、
「今年も無事に祭りを迎えられるのは、テスティア様とウェイド様、そしてピノ様のお陰です。一年前、クマの脅威からみなさんが救ってくださらなかったら、街も祭りもどうなっていたことか……」
「いえいえ。こうしてお祭りができるのは、街のみなさんのお力ですよ。これは豊作を祝うお祭り……農家や商人のみなさんがこの一年頑張ってくださったから開催できているのです。私たちはたった一日、たまたまお手伝いをしただけで、他は何もしていません」
そう答える私を……司祭様は、優美な微笑みで見つめる。
「テスティア様には、お会いする度に驚かされます」
「えっ? な、何がですか?」
「初めてお会いした時から、謙虚でお優しい方でしたが……今はそこに、自信と誇りが感じられる。この一年、あなた様もきっと、頑張ってこられたのでしょう」
穏やかな声で、そう言われ……
私は、畏れ多いと思いつつも、嬉しくなる。
……確かに、一年前までの弱気で引きこもりな私は、もういない。
でも、私が変われたのは、私一人の力じゃなくて。
ウェイドとピノ、そして、あの旅をきっかけに出会えたすべての人々と動物たちのお陰。
みんなが、私に温かな言葉をくれたから――
『――あなたは素晴らしいお方です。その誠実さと勇気があれば、何があってもきっと大丈夫。この先の旅路も、どうかご武運があらんことを……』
……一年前、司祭様にいただいたお言葉。
今でもはっきりと、この胸に残っている。
私は顔を上げ、司祭様を真っ直ぐに見つめ、
「……ありがとうございます。私が頑張れたのは、みなさんのお陰です。司祭様のお言葉は、ずっと……私のお守りになっています」
微笑みながら、そう伝えた。
司祭様は笑みを深め、優しく頷いてくれた。
「こちらこそ。テスティア様にはいつも元気をもらっていますよ。今年もお祭りには参加していかれるのですか?」
「はい。そのつもりでウェイドとも明日、ここで落ち合う約束をしています。そういえば……ピノがここにいるってことは、言っていた用事は済んだの?」
と、私は肩に留まるピノに尋ねる。
すると、彼女はパタパタと飛び上がり、
『済んだっていうか、これから済ませる、ってカンジかしら』
「……どういうこと?」
『ふふん。テスに見てほしいものがあるの。アタシについて来て!』
言うなり、通りの向こうへ飛んで行ってしまうので……
私は司祭様に別れを告げ、急いでピノを追った。




