58. 一年後
パルエレミア様が大樹に還ってから、もうすぐ一年――
私とウェイドは正式に結婚し、幸せに暮らしていた。
だけど、私たちは夫婦である前に、森を護る<精霊獣使い>であり、国王に仕える<星詠みの眼>だ。
だから、それぞれの使命のため、数日離れて過ごすことが時々あった。
ちょうど、今みたいに。
「――よし。ここも問題なし」
谷あいの街道、『竜の爪痕』。
その途中にある廃坑の最奥に、私の声が響いた。
以前ウェイドと共に訪れた、イワウラツバメの巣があるあの洞窟だ。
古の時代に姿を消した、精霊獣。
彼らは竜の助力で動物に姿を変え、生を紡いできた。
そんな彼らの魔力と憎しみを封じているのが、竜華結晶。
私は各地に残る竜華結晶とその近辺に棲む動物たちに異常がないかを、こうして定期的に観察していた。
ここへ来る前は、あのアンブルウルフたちの縄張りを見て回った。生憎、彼らに会うことはできなかったけれど……変わらぬ森の様子と、彼らの生活の痕跡を見つけられたので、ひとまず安心できた。
私はランタンを掲げ、頭上を見上げる。
イワウラツバメたちは今日も忙しなく飛び回り、巣にいる子供にせっせとエサを運んでいる。
(そういえば……ウェイドへの想いに気付いたのも、この場所だったっけ)
ふと、私は一年前のことを思い出す。
あの時ウェイドと見た、星のような竜華結晶の光は、今は見られない。
当たり前だ。だって、この石は……彼がいなきゃ、輝かないのだから。
……と、私は左手に視線を落とす。
薬指に嵌めた、結婚指輪と――
もう一つ。竜華結晶の宝石が付いた、婚約指輪。
ウェイドは今、国政に関わる『星詠みの儀』をおこなうため、ウーテア山へ赴いている。
出発したのは五日前。そこから私もこの調査に出たため、会えていない。
……彼に出会うまでは、独りが当たり前だったのに。
たった五日、この指輪が光らないだけで……こんなにも寂しくなるなんて。
一年前の、あの最悪な誕生日まで、私は人との関わりを避けて生きてきた。
あの頃はあの頃で、寂しかったけれど……
ウェイドの愛情と温もりを知ってしまった今の方が、一人でいる寂しさはずっと強かった。
それに……今は、ピノもいない。
この調査に出発した直後、
『ちょっと寄りたいトコロがあるから、先に行くわね。ラグリスの街で落ち合いましょ!』
そう言って、引き留める間もなく飛んで行ってしまったのだ。
ピノが私から離れるなんて珍しいけれど……彼女は彼女で、精霊獣の先祖返りとしてやるべきことがあるのかもしれない。
(この辺りの調査は終わったし、早くピノに会いにラグリスの街へ行こう。明日にはウェイドとも合流できる予定だしね)
ウェイドの仕事が順調に終われば、明日ウーテア山からラグリスの街へ下りて来ることになっていた。
だから、この寂しさも、もう一日だけの辛抱だ。
私はツバメたちに別れを告げ、廃坑を出ると、乗ってきた馬に跨った。
馬車での移動は安全だけれど、どうしても時間がかかってしまう。私もウェイドも、最近は専ら馬に乗って行動していた。
(……って、私、いつの間にかウェイドの効率主義が移っている……?)
なんて苦笑いしながら、私はラグリスの街へと馬を走らせた。




