表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/70

57. 君と共に輝く



『――では、私はそろそろ行くわ』



 抱き合う私たちを見上げ、パルエレミア様が言う。


「パルエレミア様、どこへ……?」

『大樹の中に戻るのよ。このヤモリの身体は借り物なの。私は魂だけの存在だから。いつか再び訪れる"怨恨の決壊"に備えて、力を蓄えないとね』


 ……そうか。

 精霊獣たちの……動物たちの憎しみは消えない。

 私たち人間が、動物たちの側に生きる限り。


『その時はきっとまた、あなたたちの子孫が力を貸してくれるでしょう。再び会えることを楽しみにしているわ』


 そうして、パルエレミア様の声が薄れていく。

 大樹の中に戻れば、私はその声を聞くことができなくなる。

 だから、


「……パルエレミア様!」


 最後の言葉を伝えようと、私は彼女に呼びかける。


「私、頑張ります! 動物と人間が、穏やかに暮らせるよう……この能力(ちから)で、みんなを護っていきます! だから、どうか今は……ゆっくりと、お休みください」


 パルエレミア様の目覚めが、ずっとずっと先の未来になるように。

 私が、みんなを護るから。


 その決意を瞳に込め、真っ直ぐに見つめると……

 パルエレミア様は、静かに頷いて、



『……ありがとう、テスティア。たとえ声が届かなくとも、私はずっと、あなたを見守っているわ――』



 ――その言葉を最後に。

 パルエレミア様の魂は、大樹の中へと還っていった。


 借り物だったハカゲヤモリは、ハッと我に返ると……

 慌てた様子で、茂みの奥に逃げて行った。




 * * * *




 ――その後、気絶したままのディオニスを連れ、私たちは屋敷へと戻った。


 お父様と使用人たちは皆、一つの部屋に閉じ込められていた。大樹を狙うディオニスが、森に入るために監禁したらしい。

 逃げ出していたアンシアともう一人の男もすぐに捕えられ、ディオニス共々お役人さんに連行された。



 数日後、ディオニスの悪行はすべて白日の下に晒された。ウェイドの予想通り、金で雇った男たちを使って嘘の予見が的中したように見せかける偽装工作を繰り返していたのだ。

 これにより、ベルジック家は爵位を剥奪。<星詠みの眼(へルシファー)>としても永久に追放され、自らの予見通り破滅の道へと堕ちていった。

 それもこれも、ネイファさんが早急に動いてくれたお陰だ。お借りしていたフウガハクバを帰す際、私は彼女に何度もお礼を伝えた。


 アンシアも、ディオニスの甘言に騙されていたとはいえ、欲に目が眩んで彼の悪行に加担した罰として、国への罰金が命じられた。叔父のアドワーズはすっかり意気消沈し、私やお父様から地位を奪う気力もなくなったようだ。


 当然、ディオニスとの婚約は解消されたわけだけれど……





(――まさか……私とウェイドと婚約することになるなんて……!)



 さらに数日後。

 私は、ウェイドと共に……王宮を訪れていた。



 ……王宮。

 言わずもがな、国王様がいらっしゃる宮殿のことである。


 何故、私がここにいるのかと言うと……私が精霊獣の暴走を鎮め、火災の危機から国を救ったのだと、ウェイドが国王様に伝えてくれたから。

 国王様は私の活躍を認め、<精霊獣使い(ファミリエル)>の末裔であるアスティラルダ家の役割を今一度見直し……伯爵から侯爵へと、お父様の地位を陞爵してくださったのだ。

 その授与式に、これから参列するというわけである。



(だ、大丈夫かな……この格好、変じゃないかな……?)


 王宮の控え室にて。

 着慣れないドレスと付け慣れないアクセサリーを鏡で眺め、私はドキドキと緊張を高める。


『大丈夫よ、テス。とっても綺麗だわ。自信を持って!』

「うぅ……でも、こないだまで引きこもりだったし、いきなり国王様と謁見だなんて……」

『まーだそんなこと言ってんの? アンタは森を救った英雄なのよ? もっと堂々としなさい! でないと、パルエレミア様が悲しむわ!』


 ピノにそう言われ、私は反省する。

 そうだよね……もう逃げないって決めたんだ。

 自分に誇りを持って、堂々と胸を張らなきゃ。

 人と動物との秩序を護る、ただ一人の<精霊獣使い(ファミリエル)>として。


「ありがとう、ピノ。私、胸を張っていくよ!」

『その意気よ、テス! じゃあ、さっそく笑顔の練習! ほら、にっこり笑って!』

「こ、こう?」

『ダメダメ、まだカタイ! もっと口角を上げて!』

「こ……こう、かな?」


 にこっ、と渾身の笑顔を浮かべた……その時。



 ――ガチャッ。



 控え室のドアが開き……

 ウェイドと、目が合った。



 ……う、


「うわぁぁああっ、ウェイド! どうしてここに?!」

「すまない、一応ノックをしたのだが……まだ支度中だったか?」

「い、いえ、もう終わりました! 大丈夫です!」


 み、見られたっ……あんな満面の笑みを見られるなんて、恥ずかしすぎる……っ!!


 羞恥心に耐え切れず、顔を背け、目を泳がせていると……

 ウェイドが、私の顔をずいっと覗き込み、


「……もう、してくれないのか?」

「へ……何が?」

「先ほどの笑顔だ。とても魅力的で……可愛かった」

「かっ……!」


 ぼっ、と私の頬から熱が上がる。

 しかしウェイドは、お構いなしにジロジロ眺め、


「ふむ……いつもの気取らない装いも良いが、こうして着飾ると麗しさがより際立つな……他の者に見せるのが惜しいくらいだ」

『そうそう! わかってるじゃない、ウェイド!』

「なっ……?!」


 過分な言葉で褒めるウェイドに、囃し立てるピノ。

 私はますます顔を熱くし、慌てて二人を止める。


「そ、そんなことより! ウェイドは何か用があってここに来たのではないですか?!」

「あぁ、そうだった。式が始まる前に……君に渡したいものがあるんだ」


 私に、渡したいもの……?

 首を傾げて見つめ返すと、彼はタキシードのポケットから何かを取り出す。

 それは……小さな箱だった。


「……これを君に、受け取ってほしい」


 彼は、箱をぱかっと開け……

 紫色の宝石が付いた指輪を、私に差し出した。


「これって……」

「竜華結晶で作った宝石だ。結婚指輪はまだ先だが……婚約指輪として、着けていてほしい」


 そう言うと、彼は私の手を取り……

 その美しい指輪を、左手の薬指に嵌めてくれた。


 キラキラと発光する、大粒の結晶。

 夜空の色にも似たその輝きに、私は彼と見たイワウラツバメの洞窟を思い出し、目を細める。


「綺麗……」

「……知っての通り、その石は、<星詠みの眼(へルシファー)>が側にいないと輝かない」


 言いながら、ウェイドは……私の腰を、ぐっと抱き寄せる。


「とりわけ、俺は竜華結晶との共鳴力が強い。つまり、その宝石を最も美しく輝かせるには、俺の側にいる必要がある」


 淡々とした、いつもの口調。

 でも……知っている。

 その冷静な瞳の奥に、誰よりも熱い情熱と、計り知れない愛が秘められていることを。


『コイツ……「ずっと側にいてくれ」って素直に言えばいいのに』


 肩に留まるピノが、呆れたように言う。

 その呟きに、私はくすりと笑い、


「もう……宝石で釣らなくても、離れるつもりなんてないですよ?」

「わからないだろう? もしかすると、他の"竜"に唆されるかもしれない」

「まさか。私が夢中なのは……あなただけです」


 ……そう。

 無口で、無愛想で、時短重視の効率主義者で……

 憧れていたジーク様にそっくり。


 けれど本当は、優しくて、誠実で、愛情深い……

 どこまでも解釈違いな人。


 私は、心からの笑みを浮かべて、



「――ありがとうございます、ウェイド。あなたの気持ちがこもった贈り物、とっても嬉しいです。生涯、この指に着けて大切にするので……ずっと側で、輝かせてくださいね」



 ありったけの想いを込めて、そう伝えた。


 私の言葉に、ウェイドは面食らったように息を飲むと……


「……テスティア」


 私の名を、小さく呼んで――



 ――唇にそっと、キスをした。



 柔らかに重なる体温。

 ふわりと香る、彼の匂い。


 横で、ピノが『ひゅー』と盛り上がるけれど……私は、目を見開いて固まった。

 だって、ウェイドってば婚約したもののまったく触れる様子がないから、夫婦らしいことはきちんと籍を入れてからする主義なのかと……!!


 ぷるぷる震える私に、ウェイドは照れ臭そうな顔で言う。


「……すまん。我慢できなかった」

「が、我慢していたんですか?!」

「当たり前だろう。俺は……楽しみはとっておく主義だからな」


 ……そして。

 ウェイドは、私の頬をそっと撫で、



「……予約した(もの)は確かにいただいた。次は、君のすべてをもらう。この指輪は……その"予約"だ」



 ……と、低く甘い声で、囁いた。


 それは、あのお祭りの晩、おでこにキスされた時に言われたセリフをなぞらえたもので……

 あの時のときめきも相まって、私はキュンキュンに押し潰されそうになり、必死に胸を押さえる。


「くぅっ……どこまで解釈違いなの……? こんなこと、ジーク様なら絶対に言わないのに……っ」


 なんて、聞こえないように悶えていると……



「ほう……やはり、無口で無愛想な男の方がいいか?」



 ……ウェイドが、冷ややかな口調で言うので。

 私の心臓が、ドッと止まる。


「な……ウェイド、ジーク様のコトを知って……?!」


 声を掠れさせながら尋ねると、彼はニヤリと意地悪に笑い、


「ちょうど、君に紹介したい人間がいる。今日の式典に参加する内の一人なのだが……」


 ……と、彼が言いかけた、その時。



「やっほー! お姉ちゃんが来たよー! わぁ、あなたがテスティアちゃんね! あはっ、ようやく会えたぁーっ! 夢で見たより可愛いー!」



 バンッ! と扉を開け、綺麗な女の人が入って来た。

 長い黒髪を靡かせながら、ぶんぶんと私に握手してくる。


「う、ウェイド……? こちらの方は……?」


 女性の勢いに困惑していると、ウェイドは「はぁ」とため息をつき、



「ソフィア・アマーリエ・ラージウィング……俺の実の姉だ」

「そしてそして、『アイテール幻想記』の作者でーすっ! いつもお手紙ありがとうね、『まるぴの』ちゃん!!」



 ……その、聞き覚えのありすきるペンネームに、思考がカチンと停止する。



 ……待って。

 ウェイドのお姉様が、『アイテール幻想記』の、作者様……????



「ぇ…………えぇぇえええええっ??!!」



 私の大絶叫が、王宮中にこだました……



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ