56. 秘められた真実
ウェイドが、目を見開きながら聞き返す。
「俺たちの起源が、竜……?」
『そう。竜は人に紛れ、未来を詠みながら、平和な道へと人類を導いた。その中で人と交わり、子孫を残し、次第に竜であった事実を忘れていったけれど……あなたたちは確かに竜の子孫。「竜華結晶」と共鳴できるのが何よりの証拠よ』
『なるほど。それでミョーな威圧感があったのね。コワモテなせいじゃなかったんだわ』
ピノが腑に落ちたように言う。
ウェイドが竜の子孫だなんて驚きだけれど……私以上に、彼自身が驚いているようだった。
『精霊獣が人間に対して抱いた憎しみは、魔力と共に「竜華結晶」に封じられた。けれど、決して消えたわけではない。動物に姿を変えた精霊獣が再び人間を憎むことがあれば、結晶の封印はやがて解け、暴走してしまう……そうならないよう、私は竜と協力し、憎しみを集約する装置を創った。それが、この大樹の中にある特別な「竜華結晶」よ』
その言葉に、私は大樹を見上げる。
この樹が、動物たちの憎しみを集める役割を果たしていただなんて……
『樹の根は大地に繋がっている。大地は、この国に棲むあらゆる生物の足元に繋がっている。動物に姿を変えた同胞たちの憎しみを集め、浄化し続けるため、私はこの樹に魂を宿すことに決めたの。そして、この樹を護る役目を――テスティア。あなたの祖先であるアスティラルダに託したのよ』
「え……?」
パルエレミア様は、懐かしむような声でこう続ける。
『アスティラルダは、最も心の清らかな<精霊獣使い>だった。戦争が熾烈を極めてもなお、彼女だけは精霊獣の尊厳を尊重し、人間の驕りをあらためるべきだと訴え続けた。彼女は、私の一番の親友で……私が最も理想とする人間の象徴だった。だから、この森の番人に選んだの』
私のご先祖様が、パルエレミア様の親友だったなんて……
もしかして、私とピノみたいな関係だったのかな?
私はピノを見下ろしながら、お話の続きに耳を傾ける。
『戦争が終わり、精霊獣が姿を消しても、この樹に憎しみは集まり続けた……無理もないわ。人と動物が共にある限り、互いに憎み、争う機会は無限にあるもの。いつかは、この装置にも限界が訪れる。その「いつか」が、まさに今日だったのよ』
「ディオニスが起こした事件と、この樹に負わせた傷が引き金になって、溜め込んだ憎しみが一気に溢れた……そうしてパルエレミア様があのような姿になったのですね」
『そう。でも、それは既に予見されたことだった。いつか訪れる"怨恨"の決壊……それを鎮めるために生まれたのが、現世で唯一の<精霊獣使い>であるあなたと、精霊獣の<先祖返り>であるピノなのよ』
そうか……ようやく理解した。
私が、この能力を持って生まれた理由。
すべて今日、この時のためだったんだ。
私とピノに告げた後、パルエレミア様はウェイドを見上げる。
『そして……あなたもよ。特別な<星詠みの眼>であるウェイド』
「俺も……?」
『えぇ。あなたは「竜華結晶」との共鳴力が誰よりも優れている。それも、この危機を乗り越えるために備わった力よ。代償として、「降眼の声」を受けられない体質になってしまったみたいだけれど……でも、そんなものは、あなたには必要なかったみたいね』
「……どうして、そう思う?」
『だって、あなたは――運命の啓示がなくとも、自ら未来を切り拓ける人間だもの。そうでしょう?』
少しいたずらな、パルエレミア様の声。
それに、ウェイドは小さく笑みを浮かべて、
「……あぁ、そうだな」
と、誇らしげに答えた。
そして、パルエレミア様は明るい声音で続ける。
『もうわかったでしょう? あなたたちが受けた予見の、本当の意味が』
「予見の……」
「本当の意味?」
『竜に唆され、竜の妻となる――今ここに、竜は一人しかいないわ』
まさか……
その竜って…………ウェイドのこと……?!
私は顔を熱くしながら、ウェイドを見つめる。
彼も、緊張したように頬を赤らめ……やがて、覚悟を決めたように咳払いをし、
「……テスティア」
「は、はい……っ」
「……十三年前、俺は……ここに来たことがある。君は覚えていないかもしれないが……君と一緒に、この森で遊んだんだ」
それって……
忘れかけていた記憶の中にある、あの男の子のこと?
「その時から、俺は…………君に、恋をしていた。十三年間、ずっと想い続けていた」
うそ……
ウェイドが、そんなに前から私のことを……?
信じられない気持ちと高鳴る鼓動に、何も言えずにいると――
ウェイドは、私の前に跪き、
「――君を、愛している。
どうか、俺と……一緒になってほしい」
その琥珀色の瞳で、真っ直ぐに見つめ。
低く、切ない声で……そう言った。
……こんなこと、誰が予想できただろう?
婚約破棄と共に突き付けられたあの予見が、こんな形で実現するなんて。
確かに私は、唆された。
この、優しくて誠実な、たった一人の"竜"に。
私は……夢でも見ているみたいで。
ウェイドを想う気持ちが、涙になって溢れ出して。
「――はいっ……。
私も、あなたを……愛しています……っ」
秘めていた想いを、振り絞るように伝えながら……
彼の胸に、飛び込んだ。




