54. たった一人の<精霊獣使い>
「……ピノ……?!」
光を放つピノを見上げ、私は目を見開く。
隣で、ウェイドも驚いたように見つめている。
ピノの小さな身体は、光の中で次第に膨らみ……
やがて、鷹よりもずっと大きな鳥へと変化した。
『テス! アタシ、思い出したわ!』
瑠璃色の翼を広げ、ピノが言う。
『アタシの本当の名は、リュピノーラ! かつてこの森に生きた、精霊獣の子孫よ!』
ピノが、精霊獣の子孫……?
驚く私に、ピノは翼を翻し、
『アタシは"水"を司る猛禽獣の末裔! "火"を司る蜥蜴獣とは相性がいいの! ほら、命じて!』
「えっ?!」
『テスはたった一人の<精霊獣使い>でしょ?! 精霊獣を操れるのは、アンタしかいないのよ!』
その言葉に、私はあの言葉を思い出す。
『ほら、パルエレミア様も言ってる! アンタが能力を宿したのには、ちゃんとした理由があるって!』
……そうか。
今、ようやくわかった。
私に宿った、<精霊獣使い>の力。
そして、ピノが持つ特別なオーラ。
――すべては今日、この時のために授かったものだったんだ。
「テスティア……!」
ウェイドが、後押しするように私を呼ぶ。
それに頷き、私はピノを見上げ、
「――精霊獣・リュピノーラ! お願い、この炎を消して!!」
<精霊獣使い>として、そう命じた。
するとピノは、高く舞い上がり――
広げた巨大な羽から、雨を降らせた。
私たちを取り囲む炎が、ジュウッと音を立てて消えてゆく。
すごい……これが、精霊獣の力……!
ピノが齎した雨により、森の延焼は食い止められた。
あとは、パルエレミア様を鎮めるだけ……!
「パルエレミア様!」
いまだ大樹に張り付く彼女に、私は呼びかける。
「私……ずっと逃げていました。傷付くことを恐れ、人と距離を置いて生きてきました。そのせいで、悪意のある人間につけ入られて……こうなったのは、すべて私の責任です」
パルエレミア様は動かない。
ピノの雨を浴びながら、ただじっと私の声を聞いている。
「でも……私、わかったんです。逃げているだけじゃ駄目だって。大切なものを護るには、傷付くことを恐れず戦わなくちゃいけない。この力を生かすのも殺すのも、すべて私次第……そのことに、ピノとウェイドが気付かせてくれました」
そして、私は胸に手を当て、叫ぶ。
「私はもう逃げません。<精霊獣使い>として、この森を……大切なみんなを護ります。だから、どうか……もう一度、チャンスをください!!」
パルエレミア様の魂が反応する。
彼女を支配する憎しみが、少しずつ浄化され始めていた。
あと少し……もう少しで、彼女の正気を取り戻せる。
(もう一度、声が枯れるまで、彼女に呼びかける……!)
降りかかる火の粉を払いながら、パルエレミア様に近付こうとする。と……
『ウェイド!』
ピノが雨を降らせながら、ウェイドの名を呼ぶ。
『パルエレミア様は大樹の痛みに囚われている! でも、アンタなら幹の亀裂を修復できるはずよ! テスの言葉が響いている今の内に、早く!!』
ウェイドが、大樹の傷を……?
私は戸惑いながらも、ピノの言葉を彼に伝える。
「パルエレミア様を鎮めるには、大樹の傷を修復する必要があります! あなたにならそれができると、ピノが言っています!」
ウェイドは驚くが……しかし、すぐに頷き、
「そうか。あの樹の内部には竜華結晶が眠っている。それに干渉すればいいんだな」
そう言って、ディオニスが斧を突き立てた箇所へと駆けた。
痛々しい亀裂が走る、大樹の幹……
そこに、ウェイドは手をかざし、目を閉じた。
「"竜"よ――千里を見通す悠久の主よ。我が呼びかけに応え、この傷を塞ぎたまえ」
竜華結晶は、かつて存在した竜の血液……その血に呼びかけるように、彼は祈りを捧げる。
すると、幹に走っていた亀裂が、紫色に輝いた。
これは……竜華結晶と同じ光。
(お願い……どうか塞がって……!)
私は手を組み、必死に祈る。
そうしている間にも、頭上ではパルエレミア様がもがき、口の中に炎を溜める。
その灼熱が、今にもこちらへ放たれそうになる……その直前。
――ぱぁあっ……!!
幹から、一際強い紫の光が溢れた。
そして、その光がおさまり……斧により付けられた傷が、消えていた。
やった……ウェイドが亀裂を塞いだんだ!
(パルエレミア様は……?!)
と、彼女の様子を窺うと――
『グゥゥ……』
パルエレミア様は小さく呻き、身体から淡い光を放ち始めた。
そして、その巨体をみるみる内に収縮させて……
ハカゲヤモリのような大きさにまで縮まると、大樹の幹からぽろっと落ちてしまった。
「…………! 危ない!!」
『おっと! ナイスキャッチ!』
小さくなったパルエレミア様は、舞い降りたピノの背中に無事受け止められた。




