52. 親友との出会い
そうだ……彼女は、パルエレミア様だ。
大樹に魂を宿す、古の時代の精霊獣。
この樹に危機が迫っていることを察知し、姿を現したのだ。
「……ウェイド!」
私は、彼に呼びかける。
「彼女は『悪竜』じゃない! この樹に宿る、精霊獣の長よ!」
「なっ……」
「パルエレミア様! お願い、目を覚まして!!」
憎しみに我を忘れているけれど、彼女だって森を燃やしたくはないはず。
もう脅威は去ったのだと、早く伝えなければ。
「大樹を傷付ける人間はもういない! 森が脅かされることはないの! だから、どうか怒りを鎮めて!!」
喉が潰れてしまいそうなほどに、私は叫ぶ。
けれど、パルエレミア様は応えない。それどころか、こちらに向けて業火を吐いてきた。
「きゃあっ!」
「テスティア!!」
炎の勢いに吹き飛ばされ、地面を転がる。
肌を焼く熱と、打ち付けられた痛みが全身を駆けるけれど、ピノだけは傷付けぬようしっかりと胸に抱く。
「テスティア、大丈夫か?!」
ウェイドが駆け寄り、私を覗き込む。
彼の顔も煤で汚れ、服があちこち焼け焦げていた。
私は痛みを堪えながら、手のひらを開き、ピノの無事を確かめる。
まだ目を覚ましていない。けれど、小さな鼓動を手の中に感じた。
(ピノ、ごめん……あなたは、私を助けてくれたのに……このままじゃ、あなたの大切な故郷が……燃えてしまう……)
無力感に押し潰され、目に涙を滲ませながら――
私の脳裏に、ピノと初めて出会った日のことが蘇った。
♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎
あれは、十二歳になったばかりの頃。
従姉妹のアンシアの誕生日に、私はウサギのぬいぐるみをプレゼントした。
幼い頃、まだ仲が良かった時に、「ウサギが好きだ」と言っていたのを覚えていたから。
けれどアンシアは、私が贈ったぬいぐるみを手に屋敷へやって来て、
「これはどういう嫌がらせですの、お姉様?!」
恐ろしい形相で、そう叫んだ。
私は驚き、身体を竦ませながら聞き返す。
「嫌がらせ……? でも、アンシアはウサギが好きなんじゃ……」
「お姉様と一緒にしないで! わたくしは獣なんかこれっぽっちも好きじゃないわ!!」
バシッ、と床に叩きつけられるぬいぐるみ。
見れば、耳は引きちぎられ、中の綿もズタズタに引きずり出されていた。
「お姉様がご令嬢たちの間で何と呼ばれているかご存知?! 『獣に魅入られた野蛮な野生児』よ! そんな人間が親戚だなんて……わたくし、恥ずかしくてたまらないわ!!」
そう捲し立てると、アンシアは背を向けて、
「こんなもの、もう二度と贈らないでちょうだい……お姉様には"人間"の気持ちなんてわかりっこないんだわ!」
吐き捨てるように言うと、私の部屋から去って行った。
――ぼろぼろになったウサギのぬいぐるみを抱き上げて、私はアンテローズの森へ向かった。
そして、土の柔らかな場所をスコップで掘り……ぬいぐるみを埋めてあげた。
もちろん、ぬいぐるみだから、生きてはいない。
けれど、生き物の形をしている以上、こうしてお墓を作ってあげなければ気が済まなかった。
(……なんて、こんな行動も、「気味が悪い」と思われちゃうんだろうなぁ)
そんなことを考えながら、アンシアに言われた言葉を思い出し……
目尻にじわっと涙を浮かべた、その時。
『――アンタ、こんなところで何してんの?』
ピチチ、という可愛らしい鳴き声と共に、一羽の鳥が肩に留まった。
マルツグミだ。瑠璃色の羽と、丸い形が特徴。警戒心が強く、人間にはあまり懐かない鳥だけれど……
『あらっ。もしかして泣いているの? ニンゲンって本当に涙が出るのねぇ。アタシ、初めて見たわ』
このマルツグミは怖いもの知らずなのか、ぺちゃくちゃと喋りながら、私の顔をまじまじと覗き込んできた。
「あなた……人間が怖くないの?」
『あんたはこの森じゃ有名だからね。クマやらイタチやらと遊んでいるところを、前からよく見かけていたもの』
「そっか……私のこと、知っていたんだ」
『まぁね。でも、こんなに悲しそうにしているのは初めて見たわ。あんたはいつも、楽しそうに笑ってた。だから……ずっと、話してみたいって思っていたのよ』
そう言われて、私は驚く。
マルツグミは、私の肩から飛び上がると、
『ね、こんなところで泣いていないでさ。パルエレミア様のところに行ってみない?』
「え……?」
『あのおっきな樹のところよ。森の住民は、みんな悲しいことがあるとあそこへ行くの。あんたの気持ちも、ちょっとは楽になるかもよ?』
そう言って、森の奥へと飛んで行くので……
私は戸惑いながらも、その後に続いた。




