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解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作


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51. 森の母



「きっ……きゃぁああああっ!」



 アンシアの悲鳴が響く。

 ディオニスは腰を抜かし、その手から子ウサギを取りこぼした。



 私も悲鳴を上げそうだった。

 だって、大樹の上から見下ろすそれは……


 ざらりとした質感の皮膚に、しなやかな身体。

 縦長の瞳孔を持つ眼に、長い舌。

 太い幹に張り付いた吸盤状の指と、巻き付く細長い尾。


 ……爬虫類。

 それはまるで、ハカゲヤモリが巨大化したような姿をしていたから。


 伝承で聞いたのとは、少し違うけれど……



(まさか、これが……予見に示された『竜』?! 本当に存在していたなんて……!!)



 ピノを抱いたまま座り込む私に、ウェイドが駆け寄る。

 一同が見上げる中、『竜』は長い舌をチロチロと動かし、



『――邪心に満ちた愚かなニンゲンよ……この森から今すぐに立ち去れ……』



 そう、気高さを感じさせる声で告げた。

 しかしディオニスは、後退りしながら立ち上がり、


「あ、現れたな、悪竜め……やはり僕の予見は正しかった!」


 と、恐怖と興奮を混在させながら叫ぶ。


「ディ、ディオニス様、逃げましょう! ここにいたら食べられてしまいますわ!!」

「うるさい! 竜華結晶の塊が目の前にあるというのに、引き下がってたまるか!」


 縋り付くアンシアを振り解き、ディオニスは前進する。

 そして、放心している男から斧を奪い取ると、


「貸せ、僕がやる! おい、悪竜! お前の狙いはテスティアだろう?! お望み通り嫁にくれてやる! さっさと攫って、そこから失せろ!!」


 私を指差しながらディオニスが言う。

 しかし、『竜』は動かない。再び舌を動かし、『去れ……』と警告する。

 ディオニスは痺れを切らしたように舌打ちをし、


「チッ、邪魔くさい……退かないというのなら――お前ごと斬り倒してやる!!」


 そう叫びながら……大樹の幹に、斧を振り下ろした。



 ――ガッ!!



 鈍い音を立てて食い込む、鋭利な刃。

 太い幹に、亀裂が走る。


 大樹が……みんなの心の拠り所が……!!


「や……やめてぇえっ!!」


 私の声が、森に響き渡った……直後。



 ――ぶわっ!!



『竜』から、禍々しい殺気が溢れた。

 見えない圧力を感じ、私は目を瞑る。



『ニンゲン……許さない……ユルサナイ……!!』



 頭に響く、怒りに満ちた声。

『竜』の魂が、みるみる内に黒く濁っていくのがわかる。


(これは……アンブルウルフやメイプルグマの時と同じ……人間への憎しみに、魂が染まっている……!!)


「ひ、ひぃぃっ!」

「くそっ……やってられるか!」


 その凄まじい殺気を感じたのか、アンシアと男は逃げ出した。

 一人残されたディオニスは、尻もちをついて『竜』を見上げる。


「なっ、なんだ……? お前の目的は、テスティアじゃないのか?!」

『憎い……ニンゲン、ニクイ……!!』


『竜』は、低く唸りながら息を吸い込みむ。

 そして――



 ――ゴォォオッ!!



 その口から、青い炎を吹き出した。


 離れていても、チリチリとした熱を肌に感じる。

 その熱から護るように、ウェイドが私とピノを抱き締めた。


「ぐあぁああっ! 熱い……熱い……!!」


 服に火が着き、のたうち回るディオニス。

『竜』は尚も火を吐き出そうとしている。


「テスティア、逃げるぞ!」


 私を立ち上がらせながら、ウェイドが言う。

 しかし、私は足を留める。


「でも、このままじゃ森が燃えてしまう! あの『竜』を宥めなきゃ!」

「待て! テスティア!!」


 ウェイドの制止を振り切り、私は大樹へと駆け出した。

 吐き出された炎により周囲の草花がメラメラと燃えているが、お構いなしに近付く。


「お願い! 悪い人間を連れて去るから! これ以上森を燃やさないで!!」

『グルル……』


 駄目だ。憎しみに囚われ、完全に正気を失っている……!


「くそっ……クソッ……!!」


 と、服に着いた火が消えたのか、ディオニスが立ち上がり、再び斧を振りかざした。

 今さら後に引けないのだろう。何としてでも大樹の中の竜華結晶を手に入れようと、自暴自棄になっているようだ。


「…………! ディオニス、だめぇっ!!」


 叫んだ刹那、ウェイドが素早く駆けた。

 そして、ディオニスの背後から斧の柄を掴んで取り上げると……彼の腹に、掌底を叩き込んだ。

 ディオニスは「うっ」と小さく呻き、気を失った。


 よかった……これで大樹に危害を加えられることはなくなった。

 あとは、『竜』の怒りをどうにかして鎮めないと……この様子では、私たちが去ったとしても人間への憎しみは消えないだろう。森を燃やし尽くし、人里を襲いに来るかもしれない。


(ここで絶対に止めて、『竜』を住み処に帰さなくちゃ……! でも……この『竜』は、どこから現れたのだろう?)


 炎の熱が揺らめく中、私は『竜』を見上げ、考える。


(『竜』が現れたのは、大樹を斬られそうになった時……そして、「森から出て行け」と警告した……予見と違い、私を妻にすることが目的ではなさそう……)


 ……その時。

 私の脳裏に、一つの仮説が浮かぶ。


「テスティア! ディオニスは捕えた! 俺たちも早く逃げるぞ!!」


 ディオニスを肩に担ぎながら、ウェイドが言う。

 しかし、


「待って!」


 私は叫び、彼を止める。


 予見と、この姿のせいで、『竜』だと思い込んでいたけれど……

 ()()は、邪悪な『竜』なんかじゃない。


 大樹に眠る、森の生き物たちの母たる存在――



「精霊獣の(おさ)――パルエレミア様……?」



 私は、確かめるように、そう呼びかけた。



 

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