47. 星詠みの儀
「それでは、テスティア様。こちらに」
ネイファさんに誘導され、私は方陣が描かれた絨毯の中央に立つ。
「通常、特定の人物に関する予見をおこなう際には、その者に関連する物をこちらへ置き、媒体とします。今回はご本人様に直々にお越しいただきましたので、より正確な予見が見出せるはずです」
ネイファさんに言われ、私はウェイドにここへ連れて来られた意味を理解した。
私に纏わる予見をするには、私自身が儀式の媒体になることが最良なようだ。
「儀式の間は、足元の円から出ないよう気を付けてくれ。媒体になるからといって、君に痛みや不快感が生じることはない。落ち着いて、そこに立っていてくれるだけでいい」
私の右隣に立ちながら、ウェイドが言う。
ネイファさんは反対に、私の左側へ立った。
「わかりました……よろしくお願いします」
「ん。では――これより、『星詠みの儀』を始める」
ウェイドのその声をきっかけに、儀式が始まった。
ウェイドは祭壇に置かれた剣を、ネイファさんは杯を、それぞれ手に取る。
そしてネイファさんは、同じく祭壇に置かれていた皿の上の砂を右手で掴み、左手の杯の中へサラサラと注いだ。
すると、真っ白だった砂が、美しい紫色に輝き始めた。
(あの砂、もしかして……竜華結晶を細かく砕いたもの?)
その時、隣でシュルリという音がした。
見ればウェイドが、腕の包帯を外している。
そして、昨日負った傷に剣を当て……自身の血液を、刃に滴らせた。
「……! ウェイド!!」
「大丈夫だ。そこを動くな」
彼に止められ、私はその場に踏み留まる。
出血の量は多くないが、血が出ていることに変わりはない。私が「でも……」と声を震わせると、ウェイドは傷から剣を離し、
「<星詠みの眼>の血を使い、竜華結晶の力を最大限に引き出す――これが最も正確な予見をする方法なんだ。昨日怪我をしたのは、ある意味好都合だったな」
と、いつもの淡々とした調子で言う。
私を安心させるためにそう言っているのだろうけれど、正直、気が気でなかった。予見のために血を流すことになるなんて……ウェイドに申し訳なくて、胸が痛い。
これ以上ウェイドが傷付かないようにと祈りながら儀式を見守っていると、私の正面にネイファさんとウェイドが歩み寄り、向き合った。
そして、ネイファさんの掲げる杯に、ウェイドが剣の先を入れ……自らの血を注いだ。
直後、杯の中が眩く輝く。
ウェイドの血液に竜華結晶が反応しているのだろう。紫から様々な色へ変わり、虹色の光を放っている。
その杯を、ネイファさんは祭壇の中央――十二芒星の前に置く。
そこで一礼すると、ウェイドと共に元の位置へ戻った。
「――千里を見通す運命の主よ。我ら、ここに血と祈りを捧げたてまつらん」
ウェイドとネイファさんの力ある声が一つに重なり、祭殿内に響く。
「月の満ち欠け、星々の盛衰、そして、日輪の不変……その下に芽ぐみし人の子の運命を、今、星詠みの眼を以て、我らが前に示したまえ」
杯が、一際強く光を放つ。
それに呼応するように、祭殿を覆う巨大な竜華結晶が一斉に輝いた。
(すごい……まるで、生きているみたい)
ウェイドとネイファさんは、目を閉じたまま手を合わせている。
今まさに、私の運命に纏わる予見を見ているのだろう。
(……お願いします。どうか、どうか……ディオニスの予見が、間違いでありますように……)
二人を真似るように、私も手を合わせ、十二芒星に向けて祈りを捧げた。
――やがて、杯と、祭殿中の竜華結晶の光が収まり……
ウェイドとネイファさんは、合わせていた手を解いて、顔を上げた。
『星詠みの儀』が、終わったのだろう。
しかし、二人は何も言わず、俯いたままだった。
その横顔が、困惑しているようにも見えて……
「う……ウェイド……?」
緊張に鼓動を高ぶらせながら、私が尋ねる。
彼は、ゆっくりと私の方を見ると……言葉を探すように沈黙した後、
「……テスティア。落ち着いて聞いてくれ」
「は、はい」
「結論から言えば…………ディオニスの予見は、当たっていた」
「…………え……」
複雑な表情で告げられた言葉に、私は耳を疑う。
すると、背後でネイファさんが、
「――竜に唆され、竜の妻となる……」
そう、呟くのが聞こえる。
振り返ると、彼女は顔を上げ、
「そして、ベルジック家に破滅を齎す――わたくしの眼にも、そのような未来が映りました」
静かな声音で、そう言った。




