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解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作


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46. 霊峰ウーテアの祭殿


 

 ――冷え込みが一層厳しくなった頃、私たちを乗せた馬車は停車した。


 馬車を降りた瞬間、白い息が舞った。

 冷たい空気に目を細めながら見回すと……そこは、一面の銀世界だった。

 背の高い針葉樹と、でこぼこした岩に積もる真っ白な雪。

 ウーテア山の麓――祭殿へと続く山道の入口だ。



 ここから先は馬車で進むことができないため、自らの足で登るしかない。

 ここまで連れて来てくれた御者さんと馬たちに別れを告げ、私はウェイドに手を引かれながら、雪の積もる階段を登り始めた。


 冬になれば、アンテローズの森にも雪が降ることはある。

 けれど、これほどまでに深い雪を見るのは初めてで、私は白い息を吐きながら、その美しい景色を眺めた。


 ウーテア山は、フィンブルグ王国内で最も標高の高い山。天気が良ければ、国内のどこからでもその白い頂が見える。

 遠くから眺めるだけではわからなかったが、東西にいくつもの峠が連なっている。縦だけではなく、横にも大きな山であるらしかった。


(儀式をおこなう祭殿は、どれくらい登った先にあるのかな……)


 階段を登りながら、果てしなく高い山肌を見上げていると、


「祭殿はもう少し登った先にある。それほど過酷な道ではないから安心するといい」


 行き先を案じていることが悟られたのか、ウェイドがそう言ってくれた。

 ほっとする私の上着の中で、ピノも『それは朗報だわ……』と、寒さに声を震わせながら言った。




 ――ウェイドの言葉通り、階段はしばらく登った先で途絶えた。

 そこからは、石畳みの道が真っ直ぐに続いていた。両脇には松明の火が等間隔に焚かれており、神聖な雰囲気を醸し出している。


 パキパキと燃える薪の音を聞きながら道を進むと……山肌に、巨大な扉が見えてきた。

 重々しい鉄の扉だ。見たことのない不思議な紋様が描かれている。


 その扉を、ウェイドが「ゴン、ゴン」と叩いた。

 返事はない。しかし、少し待っていると、内側から扉が開いた。


 扉の向こうにいたのは、目を閉じた一人の女性。

 二十代半ばほどだろうか。銀色の長髪を一つに結い、白を基調とした古風なワンピースを身に纏っていた。


 女性は静かに頭を下げると、目を閉じたまま微笑み、


「お待ちしておりました、ウェイド様。そして、テスティア様。どうぞ中へ」


 そう言って、私たちを招き入れた。




 ――扉の先は、大きな洞窟だった。

 鍾乳洞、と言うべきか。イワウラツバメの巣だったあの廃坑を何十倍も広くしたような空間が広がっていて……

 壁面には、紫色に輝く巨大な結晶がいくつも()り出していた。


(これ……ぜんぶ竜華結晶? すごい大きさ……)


 その神秘的な空間を見回すと、奥に祭壇のようなものが見えてきた。

 金色に輝く十二芒星の像と、その両端に置かれた銀色の(さかずき)(つるぎ)

 そして、地面には方陣のようなものが描かれた巨大な絨毯が敷かれていた。


「ここが、『星詠みの儀』をおこなう祭殿だ。<星詠みの眼(へルシファー)>とその関係者しか入ることが許されない」

「あの……あちらの女性は、どうして私の名を? ここへの訪問は急遽決まったことだし、ウェイドが手紙を送る時間もなかったと思うのですが……」


 こそっとウェイドに尋ねると、先頭を歩く女性が振り返り、


「ふふ……わたくしは<星詠みの眼(へルシファー)>です。この祭殿へいつ、誰が、どのような目的でお越しになるのか、すべて予見にて把握済みでございます」


 と、やはり目を閉じたまま、楽しげに言った。

 言われてみれば、確かに愚問だったかもしれない。彼らには、未来を見通す眼があるのだから。

 

「申し遅れました。わたくしはネイファ。この祭殿を管理する者です」

「こちらこそ、自己紹介が遅れました。テスティア・アイリス・アスティラルダと申します。ご存知かとは思いますが、<精霊獣使い(ファミリエル)>の能力者です」

「もちろん、存じ上げております。道中ご苦労様でございました。本日の『星詠みの儀』にはわたくしもお力添えさせていただきますので、よろしくお願い致します」

「え……『星詠みの儀』って、一人ではできないものなのですか?」


 てっきりウェイドだけでおこなうものだと思い込んでいた私は、疑問をそのまま投げかける。

 すると、隣を歩くウェイドがこう解説した。


「以前話したように、予見というのは未来を示す要素が抽象的な"印象"のまま脳裏に降ってくるものだ。つまり、その解釈は受け手によって変わる可能性がある。そのため、『星詠みの儀』では二人以上の<星詠みの眼(へルシファー)>が予見をおこない、それぞれの解釈を擦り合わせる。そうして確定した予見内容が、正式な証書として発行されるんだ」


 それを聞き、私は納得する。

 ウェイドがディオニスに請求した『証書』というのは、そのような形で発行されるものだったのだ。

 確かに、偶発的に降ってくる『降眼(こうげん)の声』に比べれば、その正当性は段違いと言えよう。

 

「ウェイド様は<星詠みの眼(へルシファー)>の中で最も竜華結晶との共鳴力が強く、予見の分析と言語化に優れたお方です。わたくしも祭殿の管理者として数多の儀式を経験して参りました。わたくしたちが星を詠めば、必ずや正しき未来が導き出されるでしょう」


 ネイファさんの言葉に、私は信頼を抱くと共に、緊張を新たにする。


(私に課せられた予見の真実が……いよいよ明らかになる)


 ごくっと喉を鳴らすのと同時に、私たちは祭殿の最奥――儀式をおこなう祭壇の前へと辿り着いた。



 

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