43. 囁かれた宣戦布告
――『豊穣祈願の儀式』が終わった後、私たちは豪勢な夕食をいただきながら、広場の舞台で披露される歌や踊りを楽しんだ。
クマの脅威が去り、人々は安堵と喜びに包まれていた。
その楽しげな笑顔を見渡しながら、今ごろメイプルグマの親子は穏やかに眠っているだろうかと思いを馳せた。
そして……私は隣で料理を食べているウェイドにちらりと目を遣る。
腕の怪我はきちんと処置済みだ。その傷を回復するかのようにお肉をもりもり食べているけれど……
(さっきのおでこのキス、『予約』って言っていたけれど……いつか正式なキスをする、って意味なのかな……?)
と、触れた唇の感触を思い出し、胸を熱くする。
そういえば……彼と添い寝をした時、私のおでこに竜がキスをする夢を見たんだっけ。
今思うと、さっきのキスと感触が似ていたような……
もしかしてあの晩も、寝ている間にキスをされていた、とか……?
(いや……まさかね)
都合の良い考えを振り払うように、首を小さく振っていると、
「――テスティア」
ふと、ウェイドに名前を呼ばれた。
私はドキッとして彼と目を合わせる。
「な……なんですか?」
「……口を開けろ」
く、口を? なんで?!
今まさにキスのことを考えていた私は、図星を突かれたように動揺する。
「は……はい」
戸惑いながらも、私は言われるがままに口を開けた。
すると……
――ぎゅむっ。
……と、フォークに刺した何かを、口の中に突っ込まれた。
反射的に噛むと、ほっぺに染み渡る甘酸っぱい味。
これは……
「ルビーベリーだ。君の好物だろう? 俺の分も食べるといい」
そう言って、彼は自分の皿にあったもう一粒もフォークに刺し、私に差し出した。
……あれ? 私がルビーベリーを好きだってこと、ウェイドに話したっけ?
……いや。ていうか、そんなことよりも……
(これって……完全に「あーん」だよね?! しかも、私の好きなものをわざわざ食べさせてくれるだなんて……あ、甘すぎる……ッ!!)
「……どうした? 食べないのか?」
首を傾げるウェイドに、私は「いえっ」と手を振り、
「ありがとうございます……いただきます」
ひゃーっ! と脳内で暴れながら、もう一度口を開け……彼に差し出されたルビーベリーをぱくっと食べた。
「美味いか?」
「はい……おいひいでふ」
「そうか。よかった」
満足げに言って、食事を再開するウェイド。
その横顔を見上げ、私は……
ルビーベリーの甘酸っぱさにつられるように、きゅんと胸が切なくなり。
「や……優しい方が、いいです……っ」
咄嗟に、そんなことを口走っていた。
慌てて口を閉ざすも、ウェイドに「ん?」と聞き返される。
「あ、いや、えっと……昨日、言っていたじゃないですか。『もっと冷たくて無関心な男の方が良いか?』って」
私、いきなり何を話しているのだろう?
そう自問するけれど……彼を想う気持ちが止まらなくて。
「私、クールで無愛想な人に憧れていたはずなのに……ウェイドに優しくされると、胸がきゅっとなって、すごく嬉しくなるんです。だから……優しい方が、いいです」
舞台の上の音楽に掻き消されそうな程の、小さな声。
でも、彼の耳には伝わったようで……
ウェイドは、私の頭の後ろに手を回し――
――ぐいっ……。
と抱き寄せると、耳元に唇を寄せて、
「そうか。なら――もう、我慢する必要はないな」
そんなことを、囁いた。
我慢……? それって、どういう……?
目を見開き、離れてから、彼を見つめ返すけれど……
私の視線の問いかけには答えないまま、彼はくすりと、優しく笑った。




