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解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作


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40. 不穏な足跡



 守衛さんの言葉に、聴衆から悲鳴が上がる。

 私の思考が、夢から起こされたように一気に覚醒する。


(クマが街に……またディオニスの予見が的中してしまったの……?! とにかく、今はみんなを落ち着かせないと……!)


「だ、大丈夫です、みなさん! 私がクマを説得しに……!」


 舞台の上から声をかけるけれど、集まった人々は完全にパニックに陥っていて届かない。

 どうしよう。このまま混乱が広がれば、怪我人が出てしまう……!


 ……と、私が再び声を上げようとすると、



「静まれ! ここには子供や老人もいる! 冷静さを失えば、無用な被害が出るぞ!」



 ウェイドが、吠えるように言った。

 その力強い声に、狼狽えていた聴衆は我に返り、一斉に口を閉ざした。

 

「……まずは状況の確認だ。守衛、クマはどこに現れた?」


 今度は落ち着いた声音で問うウェイド。

 守衛さんは、息を整えながら、


「ま、街の西門だ……森の向こうからもの凄い勢いで駆けて来た。あの辺りには作物の貯蔵庫があるから、今ごろ食い荒らされているかも……」


 そう答えた。

 それを聞き、私とウェイドは頷き合う。


「みなさん。落ち着いて、東門の方へ移動してください。建物の鍵を閉め、上層階に避難すれば、ひとまずは安全なはずです。クマがみなさんの方へ近付く前に、私が止めます」


 胸に手を当て、私が言う。

 すると、舞台上にいた司祭様が、


「止める、って……一体どうなさるおつもりですか?」


 と、心配げに尋ねるので、私は振り返り、


「もちろん、クマを説得するのです。私は<精霊獣使い(ファミリエル)>の末裔――動物と心を通わせることのできる能力者です」


 そう、堂々と答えた。

 聴衆から、どよめきが起こる。しかし、それに構っている暇はなかった。


「ウェイド」

「あぁ、俺が先陣を切る。クマが人を襲う前に止めよう」


 迷いなく答えてくれるウェイドに、私は「ありがとうございます」と返した。


「俺たちは西門へ向かう! 皆、東へ避難しろ!」


 聴衆にそう伝えると、ウェイドは駆け出した。

 私もドレスの裾を持ち上げ、それに続いた。




 ――西門は、昨晩私たちが街へ入る時に通った場所だ。

 道を知っていたから、すぐに辿り着くことができたけれど……門の近くにクマの姿はなかった。


「どうしよう……一体どこに……」

『テス、あっち!』


 と、ピノが頭上高く飛びながら私に言う。


『あっちの民家の庭よ! ついてきて!』


 そう言って飛んで行くので、私はウェイドに目配せし、ピノの後を追った。


 やがて見えて来たのは、街の外れにある小さな民家。

 その庭で、黒くて大きな影が、ゆらゆらと動いていた。


 間違いない、メイプルグマだ。

 でも、彼らは基本的に樹液や木の実を食べて生活している。人間の食べ物や、人間自体を襲って食べることなどしないはずなのに……


 私はウェイドと共に、クマにそっと近付く。

 すると、私たちの気配に気付いたクマが、警戒しながら振り返った。


「落ち着いて。あなたを傷付けるつもりはない。少しだけ、話がしたいの」


 冷静に語りかけるが、クマは唸り声を上げるのみ。どうやら心を閉ざしているようだ。


「どうして人間の街に来たの? 道に迷ったのなら森へ案内するから、一緒に帰ろう? 大丈夫。私も彼も、あなたの味方だから」


 私は両手を広げ、敵意がないことを示す。

 メイプルグマは、なおも唸りながら……


『……ぼうや……』


 と、短く言った。


「坊や……?」

『そう……私の可愛い子……馬に乗ったニンゲンが森から連れ去った……この近くにいるはず……』


 その言葉と共に燃えるような怒りを感じ取り、私は「え……?」と声を漏らす。


「クマは何と言っている?」

「子供を連れ去られたそうです……馬に乗った人間に」

「馬に乗った……? まさか……」


 ウェイドも同じことを考えたのだろう。

 アンブルウルフたちを傷付け、街道で落石事故を起こそうとした犯人……

 馬で逃亡している例の男の仕業なのではないか、と。


『返せ……私の坊やを返せ……! 憎い……ニンゲンが憎い……!!』


 頭を振り、怒りを露わにする母グマ。

 その魂に、どろりとした濁りのようなものを感じ……私は戦慄する。


(これは……アンブルウルフたちの時と同じ……? 人間への憎しみに支配され、我を忘れかけている……!)


「お母さん、落ち着いて! あなたの子供はこの近くにいるんでしょう? においを辿ってここまで来たのよね?」

『グルル……』

「なら、私たちも一緒に探す! あなたの力になりたいの!」


 必死に訴えかけるが、母グマの怒りは収まらない。

 無理もない、子供を連れ去られたのだ。人間だって同じ目に遭ったら、誘拐犯を憎み、怒りに狂うだろう。


(とにかく子グマを探して、このお母さんに返してあげないと……さすがににおいはわからないけれど、何か手がかりがあれば……)


 と、暗がりの中、目を凝らすと……


「テスティア。見ろ、足跡だ」


 ウェイドが、庭に広がる野菜畑を指差した。

 見ると、そこにはまだ新しい人間の足跡があった。大きさからして、男の足跡……盛られた土を踏みしめるように、庭の奥へと続いていた。


「お母さん、手がかりを見つけたかもしれない。においが続いていないか、確かめてくれる?」


 お願い……届いて。

 そんな願いを込めながら、母グマに伝えると……


『………………』


 母グマは何も言わずに、足跡をふんふん嗅ぎながら、辿るように歩き出した。



 

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