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解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作


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37. 女神の伝説



「私たちが……メインイベントの主役……?!」



 驚きながら聞き返すと、守衛さんは頷き、


「あぁ。今夜、この広場で豊穣を願う儀式がおこなわれるんだ。それに、あんたたちに出てもらいたい」

「儀式、ですか……?」


 すっかり混乱する私に、守衛さんは前を指差し、


「ちょうど今、吟遊詩人が歌っている。ラグリスの街に伝わる、農夫と豊穣の女神の伝説――儀式は、それを模したものなんだ」


 そう言われ、私とウェイドは振り返り……

 吟遊詩人の歌に、耳を傾けた。



「川は枯れ 土は乾き

 黄土色の悲哀が ラグリスに漂う

 男 乾いた大地に芽吹く種を探し

 西の果ての森を目指さん

 迎え入れるは 青い小鳥

 導かれしままに進めば ひとりの乙女 (たわむ)れり

 男 乙女を連れ 郷に帰れば

 川は満ち 土は滾り

 ラグリスに 命 芽吹かん

 乙女 豊穣を司りし 女神なり

 男 これを妻とし

 ラグリスの地 永遠(とわ)に栄えん――」



 爪弾かれる琴の音色。

 演奏を終えた吟遊詩人は、観客の拍手を浴びながらお辞儀をした。

 私も思わず手を叩くと、守衛さんが再び口を開く。


「昔、街を流れる川が枯れ、大不作に陥ったことがあったらしい。その時、一人の農夫が乾いた土でも実る作物の種を探しに西の森へ旅に出た。そこで農夫は青い鳥に導かれ、乙女に出会う。彼女を連れて帰ると、途端に川が流れ、土も蘇った。その乙女は、豊穣の女神だったんだ。農夫は女神と結婚し、ラグリスに永遠の豊かさを齎した――と、そんな伝説だ」


 歌の内容を簡潔に説明すると、守衛さんは人差し指をぴっと立て、


「祭りではその伝説にあやかり、その年に結婚した新婚夫婦を旅へ送り出すんだ。西にある森に着いたら、伝説と同じく二人で街道を辿り、この街へ帰って来る。そして、祭りの夜に婚姻の祝詞(のりと)を上げる……それが祭りのメインイベント、『豊穣祈願の儀式』だ」


 それを聞き、私は納得する。伝説を真似することでその年の豊作を祈念する、という習わしのようだ。

 でも……同時に疑問が深まった。

 私は言葉を選びながら、守衛さんに尋ねる。


「儀式の由来はわかりました。ですが、何故それを私たちが……? ご存知の通り、私たちは他所から来た者で、この街の住民でも……ましてや、新婚夫婦でもありません」


 すると、守衛さんは弱り果てたように顔を歪ませ、


「それなんだが……実は数日前、例年通りこの街の新婚夫婦を旅に出したんだ。しかし、祭り当日の今日になっても帰って来ない……このままじゃ大事な儀式が中止になっちまう。そこで!」


 ――がしっ!

 と、守衛さんは私の両肩を掴み、


「お二人に、新婚夫婦の代わりを務めてもらいたいんだ! あんたら、西の方から街道を歩いて来ただろう? 伝説にあるのと同じルートだ! 頼むならあんたらしかいねぇ!」

「え……えぇぇぇっ?!」


 儀式の主役になるはずのご夫婦が帰って来ない……?

 まさか、落石の予見で街道が通行止めになっていたから、そのせいで帰って来られなかったんじゃ……


 などと予想していると、私の肩を掴む守衛さんの手をウェイドがパッと払い、


「儀式の日取りをずらすことはできないのか? その夫婦が戻って来てから、儀式だけおこなえばいいだろう」


 と、もっともな提案をする。

 しかし守衛さんは、ぶんぶんと首を横に振り、


「それが……祭りと儀式を早く済ませたい事情があるんだ」

「事情……?」

「予見だよ」


 言って、顔を青ざめさせる守衛さん。

 ……あれ? なんだか嫌な予感がする。


「街が人食いグマに襲われるっていう予見があったんだ。祭りの日にクマが出たんじゃたまったモンじゃねぇ。だから、一日でも早く祭りと儀式を終わらせて、クマの対策をしたいってわけだ」


 私は、ウェイドと顔を見合わせる。

 彼も嫌な予感を抱いているようで、低い声でこう尋ねた。


「……その予見は、誰が発令したものだ?」

「ベルジック家のディオニス様だよ。最近、予見を次々に的中させているっていう有名なお方だ。無視するわけにはいかねぇだろ?」


 や……やっぱりぃいっ!

 ここでもディオニスの名を聞くことになり、私は顔を引き攣らせる。隣で、ウェイドもわかりやすく顔を顰めていた。


「ちなみに、クマが出没する日時は具体的に予見されているのか?」

「いいや? 『近い内に』としか言われていないみたいだ」


 またしてもアバウトな……

 と思っていたら、ウェイドが小さく舌打ちをした。やっぱりディオニスのことを良く思っていないらしい。

 

「こういう事情なんだ。な? 頼むよ。あんたらお似合いのカップルだしさ。ひとつ協力してくれないか?」

「なっ……!」


 両手を合わせる守衛さんの言葉に、私は顔を火照らせる。


「わ、私たちカップルじゃありません! 目的があって一緒に旅をしているだけで……!」

「あーもうこの際カップルじゃなくてもいい! 西から来た若い男女! そして……」


 ――ビシッ!

 と、守衛さんは私の肩に留まるピノを指差し、


「なんと言っても、その青い鳥! 伝説にある、農夫を導いた鳥にそっくりだ! あんたらほど儀式に相応しい二人はいないんだよ! 頼む! この通り!!」


 そう言って、腰を折り、深々と頭を下げた。

 ここまで言われたら……さすがに断れない。

 苦笑する私の横で、ウェイドがじっとピノを見つめる。その視線に、ピノは後退りし、


『え……? ナニ?! もしかして、アタシのせい?!』


 狼狽えながら、そう叫んだ。



 

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