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解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作


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独りよがりな片想い(ウェイド視点⑨)



『――そ、そうですね。頼りがいのある、優しいお兄ちゃんって感じかも』



 先ほどのテスティアの言葉が、脳裏にこだまし――

 俺は眠れないまま、ソファーの上で寝返りを打った。


 九歳のあの日――アンテローズの森で出会って以来、テスティアのことを想い続けてきた。

 このような形で共に旅をすることとなり、彼女の素直さと純真さに触れる度にますます惹かれているわけだが……


 彼女への恋心を募らせれば募らせるほど、二律背反な現状が俺を苦しめた。

 それは――テスティアは、無愛想で無関心な(キャラ)が好きだということ。


 テスティアが推している『ジーク』は、姉のソフィアが俺をモデルにして作り上げたキャラクターだ。

 確かに、他の者から見た俺は"他人に関心のない冷徹な効率主義者"なのだろう。

 ジークは、俺のそういう性格を凝縮したような人物だ。


 しかし、実際の俺は、それがすべてではない。

 想い人には思いやりをもって接したいし、力になれることはないかと常に関心を寄せてしまう。

 何なら、「可愛い」と思った瞬間に抱き締めたくなるし、歩く時は手を繋いでいたいし、同じベッドで眠りたいと、今も考えている。


 要するに、テスティアを前にした俺は、ジークと真逆の性格になってしまうのだ。


 だからこそ俺は、ベタベタと甘やかし、目いっぱい愛情表現をしたい衝動を抑え、極力冷たく接してきた。

 足早に歩き、口数を減らし、他の者に接する時のような淡々とした口調で会話することに徹した。


 ……それなのに。


『だから、えぇと……私が言いたいのは……ウェイドって、すごく優しい人ですよねってことで……』

 

 あの晩。彼女に、そう言われてしまった。

 "優しい人"……

 これでは、彼女の理想とするジークとは程遠い。

 

 それに、俺の優しさは純粋なものではない。

 本当は、テスティアと恋仲になることを望んでいる。

 そんな下心を知らずに、彼女は俺を善良な人間だと無邪気に信じ込んでいる。


 だから、訂正した。

 勘違いするな、俺は優しくなんてない、と。


 だが、その言葉には、恐らく説得力がなかった。

 何故ならその後も、俺は我慢できずにテスティアに構い続けたから。


 怯える彼女と添い寝し、洞窟では手を繋ぎ、上着を羽織らせ……

 およそジークがするはずのない言動を繰り返してしまった。

 仕方がない。惚れた女が困っているのに、無関心でいる方が無理がある。


 ……その結果。

 俺に下された評価は……『優しいお兄ちゃん』。


『兄』という、異性の中でも恋愛対象になるはずのない存在だと認定されたのだ。



「………………」


 暗い部屋の中、俺はソファーに寝たまま、ベッドへと視線を向ける。

 テスティアは毛布の中に潜っているが、上下する呼吸の周期は安定している。どうやら眠ったようだ。


 ……すぐそこにある、愛しい(ひと)の気配。

 それを感じるだけで、胸が苦しいくらいに締め付けられ……

『兄のようだ』と言われた事実が、俺の心を蝕んだ。


 ……そうか。『兄』か。

 ならば、きっと……

 日暮れ前、あのログハウスで言われたあの言葉も……


『そんなの……ウェイドのことが大切だからに決まっているじゃないですか!!』

 

 ……あの言葉を聞いた時。

 身体中が沸騰しそうなくらいに、嬉しくなった。

 この短い期間で、テスティアの『大切な存在』になれたのだと、内心浮かれていた。


 しかし、それは……『兄のような存在』という意味だったらしい。


 くそ……どうすればいい?

 やはり、ジークのように無関心で冷たい男を演じるべきか?

 それとも、いっそ……ストレートに想いを伝えるべきか?


 ……何にせよ、テスティアに"異性"として意識してもらわないことには始まらない。

 明日――正確には今日、この街では祭りが催されるらしい。

 連日襲撃され、テスティアは精神的にも疲れているはずだ。目覚めたら、祭りに出かけないかと誘ってみよう。


(そうと決まれば……いい加減、俺も眠らなくては)


 水を一杯飲んで、眠ることにしよう。

 そう思い、俺は静かにソファーを離れる。

 テーブルに置かれた水差しからコップに水を注ぎ、一気に飲み干した。


 そして、ベッドの方を振り返ると……

 毛布の端から目だけを覗かせたテスティアが、眠っていた。


 閉じられた瞼は動かない。

 すやすやと、愛らしい寝息を立てている。


 俺は、少しだけ近付いて……

 彼女の寝顔を、じっと見つめた。


 ……先ほどは、本当に危なかった。

 まさかテスティアの方から「同じベッドで眠ろう」と誘ってくるとは……

 彼女の気持ちを確かめようと、押し倒して覗き込んだ瞳には――「そんなつもりはなかった」という、無垢な戸惑いが浮かんでいた。


 当たり前だ。

 彼女は、純粋な親切心で共寝を誘ってきただけ。

 こんなに想っているのは、俺だけなのだから。


 テスティアは、十二年前のことを覚えていない。

 ……いや、覚えていたとしても、あの日森で遊んだ少年が俺だということを認識していないのだろう。

 これは、俺の……長くて、独りよがりな片想いだ。


(こんな俺の内心を知ったら……君は、どんな顔をするだろう? 初恋を拗らせた気味の悪い男だと……そう思われるだろうか?)


 この旅が終わって、また離れ離れになった後。

 テスティアが、他の誰かのものになるのなら……


 いっそ、ここで――俺のものにしてしまおうか?


 ……などという(よこしま)な考えが、一瞬だけ(よぎ)るが。

 そんな自分を戒めるように拳を握り、爪を手のひらに食い込ませる。


 テスティアを傷付ける者は、誰であろうと許さない。

 例えそれが……俺自身であっても。


「………………」


 ふぅ……と、俺は小さく息を吐き。

 彼女に背を向け、ソファーへ戻ろうとした。


 ふと顔を上げると、コート掛けのフックに留まる鳥と目が合った。

 静かなので寝ているものだと思っていたが……起きていたらしい。


 鳥は、俺の顔を見下ろすと……

 首を左右に振り、憐れむような目を向けてきた。


『やれやれ。意気地のないオトコね』


 ……という声が聞こえてくるような気がして。


(……そんな目で俺を見るな)


 そう、胸の内で念じてから。

 俺は狭いソファーに沈み込むように、身体を横たえた。



 

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