33. 護りたいから
備え付けられたお風呂に順番に入り、パジャマに着替え……
私は、部屋の中央に佇むダブルベッドの前で、立ち尽くしていた。
ピノはコート掛けのフックに留まり、すぐに静かになった。夜行性ではないのに夜中まで起きていたから、眠くて仕方なかったのだろう。
私も、仮眠しかできていないから眠いはずなのだけれど……
(またウェイドと一緒に寝ることになるなんて……眠気なんて吹き飛んじゃうよ!!)
と、ちょうど背後の洗面所からウェイドが出てくる音がし、私は硬直する。
……今から、彼と一緒に、このベッドへ入る。
昨日までは何もなかったけれど……
今日、間違いが起こらないとは限らない。
(どうしよ……彼のことは好きだけど……でも……!)
頭の中が沸騰しそうで、胸の前でぎゅっと拳を握りしめた……その時。
――ギシッ。
……と、何かが軋む音がした。
ハッとなって振り返ると……
ウェイドが、部屋の隅にあるソファーの上に、寝そべっていた。
あ……
「あれ……? ウェイド?」
「なんだ」
「その……ソファーでお休みになるのですか?」
「あぁ。俺はここで寝る。君はベッドを使え」
う……
うわぁぁあああっ! 恥ずかしい!!
完っ全にベッドで一緒に寝るものだと思い込んでいた!!
そうだよね……ウェイドは、あくまで護衛のために同室にしたんだもん。
昨晩みたいに私が怯えているわけでもないし、わざわざ添い寝する理由はないわけで……
目を閉じ、眠ろうとするウェイドに、私は声を裏返しながら言う。
「そ、そんなの申し訳ないです! ここ数日、ウェイドは私より眠れていないのですから、ウェイドがベッドで寝てください!」
「断る。女性からベッドを奪うほど落ちぶれてはいない。俺を"眼無し"以下のろくでなしにしたいのか?」
「う……でも、ソファーから足はみ出てるしっ! そんなんじゃ熟睡できないでしょう?!」
「少なくとも、君と添い寝するよりは眠れる自信がある」
「なんでですか?!」
「さぁな。自分で考えてみろ」
瞼を閉じたまま、そっけなく答えるウェイド。
うぅ……やっぱり私の寝相がひどいから、添い寝したら眠れないってこと?
ソファーから動くつもりのなさそうな彼を前に、私はため息をつき……
部屋の灯りを落とし、大人しくベッドに入った。
そうして、暗い天井を見つめながら、何度かまばたきをした後……
彼に、こう投げかけた。
「……すみません。私、さっきは本当にぼーっとしていて……部屋に空きがないのなら、他の宿を探すよう提案するべきでした。そうすればウェイドも、別室でゆっくり眠れたのに……」
本当に、彼には迷惑をかけてばかりだ。
彼のことが好きで、大切なのに……私が頼りないせいで、いつも気を遣わせている。
この謝罪にだって、何の意味もない。罪悪感に駆られてこぼれ出た、ただの言い訳なのだから。
情けなさに押し潰されそうで、口元まで毛布を被ると……
「……いや。他に部屋が空いていたとしても、俺は同室にしていた」
という、ウェイドの返事が聞こえた。
私は思わず「え……?」と聞き返す。
ウェイドは、少し間を空けてから……静かな声で、こう続けた。
「君が狙われるのは、いつも俺が離れた時だ。昨日の晩も、そして先ほども……正直、生きた心地がしなかった。だから……君を安心させる以上に、俺が安心したいから、同じ部屋にしたかった」
……その言葉に。
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「……どうして」
わからない。
だから私は、掠れた声で尋ねる。
「どうして、そこまで……私を護ろうとしてくれるのですか?」
……そう。
私は、ウーテア山に向かうまでの単なる同行者であるはず。
なのに……どうして、そんなに優しいの?
私の問いにウェイドは……
躊躇うように、息を吐いた後、
「……君と同じ理由だ」
「私と、同じ?」
「あぁ。俺も…………君のことが、大切だからに決まっている」
――ドクンッ。
心臓の高鳴りと共に、私は思い出す。
あのログハウスの前で、私が言った言葉……
『そんなの……ウェイドのことが大切だからに決まっているじゃないですか!!』
つまり、ウェイドも……
私と、同じ気持ちだってこと……?
「っ…………」
ドクン、ドクンと、全身を駆け抜ける心音。
そんなこと、あり得ないって。
ただ、優しいから護ってくれているだけだって、わかっているのに……
ウェイドと、想い合えている可能性を、考えてしまって。
「…………っ」
私は、バサッと毛布を捲り……
ベッドを降りて、彼のいるソファーに近付く。
「……ウェイド」
「……どうした」
「そんなに狭いソファーじゃ、ゆっくり眠れないはずです。どうか……こっちに来て、ベッドで寝てください」
「言っただろう。君の寝床を奪うつもりは……」
「だったら……!」
煩いくらいに脈打つ鼓動。
馬鹿なことをしているってわかっている。けど……
「だったら……一緒に寝てください。私だって、大切な人をソファーで寝かせられるほど……無神経じゃありません」
私は、声を震わせながら――
彼に、そう伝えた。
はしたないと思われたかもしれない。
でも……
『大切だ』と言われたことが、苦しいくらいに嬉しくて。
私も大切に思っているってことを、行動で示したくて……
「わ、私の寝相が問題なら、ベッドの端っこに寄りますから! お互い端と端で寝れば、ゆっくり休めるのではないかと……」
どうにかしてウェイドをベッドで休ませたくて、私は必死に説得する。
すると、ウェイドはむくりと起き上がり……
私の前に立ち上がったかと思うと、
「……きゃっ……!」
気付けば、私は……
ベッドの上に、押し倒されていた。




