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解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作


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31. 琥珀の月



「ウェイド……」



 やっとのことで、喉から声を絞り出す。


 来てくれた……また、私を助けてくれた。


 安心した途端に力が抜け、その場にへたり込んだ。

 それに気付き、ウェイドは酷く焦った様子で駆け寄って来る。


「テスティア! 大丈夫か? 怪我は?」

「平気です……ウェイドが助けてくれたから……ありがとうございます」


 まだ震えているけれど、精一杯笑ってみせる。

 ウェイドは私の背を支えながら、心配そうに顔を覗き込む。そして、私の手に包まれたピノに気付き、


「鳥も、怪我はないか?」

『だからピノだってば! ヘーキよ! ありがと!!』


 ピィ! という鳴き声で無事を察したのか、彼はほっと息を吐いた。


「ミミズクが引き返すよう誘導してくれた。本当に、間に合ってよかった」


 言いながら、彼は頭上を見上げる。

 つられて上を見ると、先ほどのゲッコウミミズクが崖の上の木に静かに留まっていた。

 きっと、ツバメたちの鳴き声を聞いてウェイドを誘導してくれたのだろう。

 私が「ありがとう」と伝えると、ミミズクは羽音を立てずに森の中へと帰って行った。


 その様を見届けた後、私はウェイドに尋ねる。


「岩を落とそうとしていた人は、どうなりましたか?」

「見失った。途中で馬に乗って逃げられた」

「馬……では、やはりこの人たちが……」

「あぁ。狼たちの巣穴を荒らした犯人と同一とみて間違いないだろう」


 ウェイドの言葉に、私は斬り伏せられた男に目を向ける。


 ウェイドの予想通り、彼らは竜華結晶のあるところに現れた。

 でも、どうにも腑に落ちない点がある。

 彼らの狙いが竜華結晶を掘り起こすことなら、二人で洞窟を探ればいいはずなのに……

 何故、一人の男は、わざわざ街道に岩を落とそうとしたのだろう?


(落石は、採掘による二次災害じゃなくて……彼ら自身が、故意に起こそうとしていた……?)


 疑問が拭えないまま、私はウェイドを見上げる。


「この人……死んでしまったのですか?」

「いや、致命傷は避けているから、まだ生きているはずだ。殺してしまえば尋問もできないからな」


 淡々と答えるウェイド。あの一瞬でそんな手加減までしていたなんて……やはり彼は、剣士としても一流なようだ。


 ウェイドに支えられながら、私は立ち上がる。身体の震えはなんとかおさまっていた。

 ウェイドは、倒れた男の身体を肩に担ぎ、


「通行を止めていた役人がまだいるはずだ。こいつの身柄を引き渡そう」


 そう言って、昼間来た道を引き返すように歩き始めた。



 * * * *



 その後、通行止め区域を守っていたお役人さんたちに、例の男を引き渡した。

 落石を起こそうとしていたもう一人が逃走中であることを伝えると、近辺の警備を強化するようすぐに伝達を走らせてくれた。


 犯人の目的や意図が気になるところだけれど……今は男の怪我の治療と、その後の取り調べを待つしかなさそうだ。

 私たちはウーテア山からの帰りに取り調べ結果を聞かせて欲しいことを伝え、お役人さんたちと別れた。



 まだ、夜は明けていない。

 このままここにいても仕方がないので、私たちは歩いて次の街を目指すことにした。

 と、その前に……


「イワウラツバメたちの巣が心配です。爆破はされなかったけれど、ツルハシで荒らそうとしていたみたいだし……少しだけ、様子を見てもいいですか?」


 私が遠慮がちに言うと、ウェイドは「あぁ」とすぐに答えてくれた。




 ――昼間でさえ暗かった洞窟の中は、夜を迎え、真の暗闇に満ちていた。


 ウェイドはランタンを掲げ、もう片方の手で私の手を握る。何も言わず、当たり前のように手を繋がれたことに、私は何度目かわからない胸の高鳴りを覚えた。


 慎重に歩みを進めると、例の封鎖された突き当たりに行き着いた。

 が、昼間とは様子が違った。積み上げられていた岩が崩れ、人が通れるくらいの穴が空いていたのだ。


「これは……あの男の仕業でしょうか?」

「あぁ。やはりこの奥で竜華結晶を探そうとしていたのだろう。念のため、中の状況を見てみるか?」


 ウェイドの問いかけに、私は迷いなく「はい」と答えた。


 岩壁に空いた穴を潜り、私はウェイドと共に洞窟の奥へと進む。

 と、しばらく進んだ先で、足音が高く響いた。ドーム状の、広い空間に出たのだ。


「ここが……坑道の最奥?」

「そのようだな。その証拠に……ほら」


 言って、ウェイドが壁を見上げた。

 すると……壁の一部に、紫色の小さな光が灯った。


「あれは……?」

「竜華結晶の欠片だ。小さすぎるため、採掘されずに岩の中に残っていたのだろう。何故なら――」


 ウェイドが言いかけた、その時。

 私の瞳に――数え切れない程の光が映った。


 天井と壁に散らばる、紫色の光の粒たち。

 一斉に輝きを放つそれは、まるで夜空に浮かぶ宝石(アメジスト)の星のようで……

 あまりの美しさに、私は「わぁ……」と感嘆を漏らした。


「竜華結晶は、一見すると普通の石と変わらない。しかし、俺たち<星詠みの眼(へルシファー)>が近付いた時のみ、共鳴するように光を放つ……だから常人には採掘が難しく、宝石としての価値もないんだ」


 ウェイドの声を聞きながら夢中で見上げていると、天井の至る所にイワウラツバメの巣があるのを見つけた。

 私たちに無事を知らせるように、数羽の成鳥が光の中を旋回する。その幻想的な光景に、私は心を震わせた。


「よかった……ツバメたちの巣は無事だったみたい」

「あぁ……そうだな」


 そう答えてくれるウェイドの声が、とても優しくて。

 思わず私は、彼を見上げる。

 すると、彼も私を見下ろし……目を細め、こんなことを口にした。


「儀式の場で、幾度となく竜華結晶を目にしてきたが……美しいと感じたのは、これが初めてだ」

「そう、なんですか……?」

「あぁ。見慣れた光のはずなのに……どうしてだろうな」


 そう言って、ウェイドは……

 私の頬を、そっと撫でて。

 


「――君の瞳にも、光が宿っている……とても綺麗だ」



 まるで、大切な宝物を愛でるように。

 小さく微笑みながら、囁いた。


 その言葉に、優しい眼差しに、頬を撫でる手の温もりに、きゅっと切なくなって……

 私は、息を止める。



 ……どうしよう。

 もう、誤魔化せない。


 この胸の高鳴りは、小説の中の推しに対するものじゃない。

 目の前にいる、実在の男性(ひと)――ウェイドに対するものだ。


 

 ……嗚呼、そうか。


 私――ウェイドに、恋をしている。

 彼のことが、好きになってしまったんだ。



 とうとう認めてしまった自分の気持ちに、身体中が熱くなるのを感じて。

 私は、唇を震わせながら、

 

「……ウェイドの瞳も、すごく綺麗です。まるで、星空に浮かぶ琥珀の月みたいで……」


 ……見つめていると、吸い込まれてしまいそうです。


 という言葉は、口にはできなくて。

 夢の中にいるような浮遊感を覚えながら、私は静かに、彼と見つめ合うのだった。



 

 

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