30. 遭遇、そして
「あ、怪しい人間……?!」
ゲッコウミミズクに、私は聞き返す。
ついに、竜華結晶を狙う犯人が現れた……?
イワウラツバメの巣が被害に遭う前に、絶対に捕まえなくては……!
「その人間は、今どこにいるの?」
『対岸。谷の向こうの森。ついて来て』
そう言うと、ゲッコウミミズクは銀色の羽を翻し、ログハウスの外へと飛んだ。
私はウェイドに「行きましょう!」と言って、駆け出した。
ウェイドが持つランタンの灯りを頼りに、先導するゲッコウミミズクを追う。
やがて森を抜け、視界が開け……私たちは、『竜の爪痕』の淵に辿り着いた。すぐ下には、遠くまで続く街道が見える。
『あそこ。あの辺りから、一人来る』
近くの木に留まり、ゲッコウミミズクが対岸に目をやる。
つられるようにそちらに注目すると……
真っ暗な森の向こう。月光に照らされ、私たちの目に映ったのは……
ズリズリとにじり寄る、大きな岩だった。
「…………へっ?」
思わず声を上げる私。
無機質な灰色の岩が、向かいの森の奥から、徐々に近付いて来ていた。
これは一体……どういうこと?
『あの岩、ニンゲンが押している。たぶん、崖から落とすつもり』
「なっ……!」
ゲッコウミミズクの言葉に、私はようやく理解する。
よく見ると岩の下には車輪の付いた台車が敷かれていて、何者かがそれを押しているようだった。
「ウェイド! あの岩、誰かが裏から押しています! 下に落として、街道を塞ごうとしているのかも!」
そう伝えるや否や、ウェイドは駆け出した。
段差を下り、街道を渡って対岸へ登るつもりのようだ。
気付かれたら、ウェイドに向かって岩を落とされ兼ねない。私は犯人の注意を引くため、すうっと息を吸い……
「こらーっ!! 岩なんか運んで、どうするつもりーっ?!」
と、力の限り叫んだ。
すると、岩の動きがピタリと止まり、奥で人影が動くのが見えた。私の声に驚き、逃げようとしているみたいだ。
そこで、ウェイドが下の街道に到達した。
彼は向かい側の岩壁に剣を突き立てると、そこを足場に跳躍し、あっという間に対岸の森へと上がった。
そのまま彼は、逃げた人影を追いかけてゆく。
私はゲッコウミミズクに「お願い、追って!」と叫んだ。
私はウェイドほど素早く対岸に上がれない。合流するまでは、ゲッコウミミズクに見守ってもらうしかなかった。
ゲッコウミミズクは羽音を立てずに飛び立ち、ウェイドの後を追ってくれた。
とにかく、向こうの森へ上がる道を探さなくては。
私は洞窟の横へと続く段差を下り、街道に踊り出た。
壁には、ウェイドの剣が突き立ったまま。彼は軽々と飛び上がっていたけれど、私には背伸びしたって届きそうになかった。
(早く追わなきゃ……犯人が武器を持っていたら、ウェイドが危ない……!)
辺りを見回し、対岸に上がれそうな場所がないか探す。
と……その時。
――ピィピィピィ!!
という、けたたましい鳴き声が、背後の廃坑から聞こえてきた。
これは……イワウラツバメの鳴き声だ。それに、人の足音も聞こえてくる。
それらの音は、こちらへ徐々に近付き……
真っ暗な洞窟の中からぶわっと溢れるように、数十羽のイワウラツバメと、それに追われる人間が飛び出して来た。
『出てけ! 出てけ!』
『帰れ! 巣に近付くな!』
ツバメたちは口々に言いながら、倒れ込んだ人間――黒い服に身を包んだ男性を攻撃する。
やがて、うずくまる男性の様子に満足したのか、ツバメたちはくるくると飛び回ったのち……
洞窟の奥へと、一斉に帰って行った。
「………………」
残され、倒れたままの男性を、私は警戒しながら見つめる。
よく見ると、その手にはツルハシが握られていた。恐らく、あの廃坑の奥を掘ろうとしていたのだろう。それで、ツバメたちの返り討ちに遭った。
ということは……
(この人が……竜華結晶を狙う犯人……?!)
心臓が、ドクドクと暴れ出す。
ウェイドはいない。
私が、この人を捕まえなくちゃ。
私は、ぐっと意を決し……
倒れたままのその人に、ゆっくりと近付こうとした。
すると、ちょうどその人が顔を上げ……
私と、目を合わせた。
「あ……? なんでこんなところに人が……」
低い声で、訝しげに言う。
フードを目深に被っているため、顔の上半分は見えないが、若い男であることはわかった。
男は立ち上がると、ツルハシを構え、
「どうして迷い込んだのかは知らねぇが……見られたからには放っておけねぇ。しっかりと口止めさせてもらうぜ」
そう、いやらしい笑みを浮かべながら……私の方に、近付いて来た。
笑みに歪む男の口と、鋭く光るツルハシの先。
背後は、高い岩の壁。逃げる場所はどこにもない。
「…………っ」
恐怖に、足が竦む。
身体が震えて動かない。
肩に留まるピノに(お願い、逃げて!)と念じるだけで精一杯だった。
立ち尽くす私に、男が迫り……
ツルハシを振り上げた…………その時。
――ザッ……!
獣が地面を蹴るような音がした。
見上げると、ウェイドが崖の上から跳躍していて……
飛び降りながら回転し、その勢いで壁に突き立った長剣を抜き去った。
そうして壁を蹴り、男との間合いを一気に詰めると……
横薙ぎに一閃。
男の胴を、素早く斬った。
「……がはっ……!」
男の脇腹から噴き出す鮮血。
男は呻き、膝を着くと……
ツルハシを落としながら、地面に倒れ込んだ。




