表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/70

28. 大切な人



 ――少しもしない内に、木々の向こうに建物が見えてきた。

 丸太を組み合わせて造られた、小さなログハウスだ。イワウラツバメが言っていた『人間の巣』は、これのことだろう。


「君はここにいろ。中の様子を見てくる」


 そう言うと、ウェイドは私の手を離し、ログハウスの窓から中を覗いた。

 しばらく観察したのち、「来ていいぞ」と言ってくれた。私はピノを肩に乗せ、彼の元へ駆け寄った。


「採掘道具が僅かに残されているだけで、人が住んでいる様子はない。やはり、採掘の作業員の休憩小屋だったのだろう」


 言いながら、彼はドアに手をかける。ギィという錆び付いた音を立てながら、扉が開いた。

 二人でそっと中を覗くと、質素な小屋の全貌が見えた。テーブルに椅子、簡易的なベッド、壁に立てかけられたツルハシやハンマー……どれも埃を被っており、長年使われていないことがわかった。


「……人が来た形跡はないな」


 床に降り積もった埃を見て、ウェイドが言う。確かに、人が立ち入った際に付くであろう足跡は見られなかった。


「……これから、どうします?」


 ウェイドを見上げ、私が問う。

 犯人たちを先回りすることには成功したけれど、ここから先どう動けばいいのか、具体的には考えていなかった。


 犯人たちは、あの坑道で竜華結晶の残りを探すつもりなのかもしれない。

 もし、アンブルウルフの時のように爆薬を使われたら……落石が起こるだけではなく、イワウラツバメたちの巣も塞がれてしまうだろう。それだけは、なんとしても避けたい。


 私の問いに、ウェイドは暫し考え込み、


「これだけ森が広いと、犯人たちがどこから現れるのか予測するのは難しい。可能であれば、動物たちの目を借りて、奴らの出現をいち早く察知したいところだ」

「なるほど……鳥やリスにお願いして、不審な人間を見つけ次第、(しら)せてもらえばいいんですね」

「そうだ。頼めるか?」

「もちろんです! ピノも……」

『わかってるわよ。そこいらを飛び回っている連中に声をかけてくるわ』


 言うが早いか、ピノは肩から飛び立ち、木々の向こうへと消えていった。



 ――私はウェイドと共に森を歩き、動物たちに声をかけて回った。

 そして、犯人たちが現れたらすぐに報せを受けられるよう、ログハウスで待機した。

 中にあった椅子を外に出して座っていると、ピノが帰って来た。全員が揃ったところで、私たちはお昼ご飯を食べた。



 数時間後――

 太陽が西に傾き始めた頃。

 動物たちからの報せを待ち、無言で座っていたウェイドが、突然口を開いた。


「……行こう」

「へっ? 行くって、どこに?」

「次の街だ。もう日が暮れる。君は宿に泊まって休め。君を送った後、俺はこの場所に戻り、見張りを続ける」


 あまりに急で一方的な提案に、私は立ち上がって抗議する。


「だ、駄目ですよ。私も残ります!」

「いや、君は安全な場所で休め。昨晩もロクに眠れていないだろう」

「それを言うならウェイドだって、一睡もしていないじゃないですか! それに、私がいなきゃ動物からの報せを聞き取ることができないんですよ?!」

「しかし、例の犯人たちが暴力的な手段を講じないとも限らない。昼ならまだしも、夜になるとより危険だ。君に危害が及ばないよう、ここは別行動を取った方が……」

「だったらなおのこと、ウェイドを一人になんかできないですよ! あなたにもしものことがあったら、私どうしたらいいか……!」


 ……と、私が言いかけると、ウェイドは珍しく驚いたように目を開く。


「……俺に危険が及ぶと、君に何か不利益が生じるのか?」

「利害の問題じゃありません! 心配しているんです!」

「心配? 何故?」

「そんなの……ウェイドのことが大切だからに決まっているじゃないですか!!」


 という、自分の声にハッとなり……

 私は、慌てて口を噤んだ。


 なんか今、勢いに任せてすごく恥ずかしいことを言っちゃった気がする……!


 かぁっと顔を熱くする私の正面で、ウェイドは……

 まるで、時が止まったように、固まっていた。


 ど、どうしよう……

 急に変なことを言ったから、反応に困っているのかも……!!


「そのっ、変な意味じゃなくて……! ウェイドは私のこと、いつも助けてくれるじゃないですか! だから私も、お返ししたいというか……少しでも力になりたいというか!」


 言いながら、どんどん目が回っていく。


 私ってば、さっきから何を口走っているのだろう?

 こんなまとまらない言い訳をするよりも、いま一番伝えたいことは……!

 

「とにかくっ、ウェイドが危険な目に遭うのは嫌なんです! 私一人で街の宿屋に泊まっても、心配で絶対に眠れません! 私を寝不足にしたくないのなら、一緒にいさせてください!!」


 目をぎゅっと瞑り、ヤケクソ気味に叫んだ。

 

 ……って、結局おかしなこと言ってない?!

 どうしよう……また困らせたかな……?


 と、目を瞑ったまま、ウェイドの反応を待っていると……


「……そうか。では、交代で眠れるよう、ベッドの埃を払ってくる」


 そう、淡々と言って。

 彼はログハウスの中へ、スタスタと去って行った。


 ……あ、あれ?

 私がここに残ること、あっさり許してくれた……?


 拍子抜けな反応に、目を点にして呆けていると……肩の上で一部始終を見届けていたピノが一言、こう言った。


『……アイツ、顔が真っ赤になってたわよ』

「えっ、なんで?!」

『さぁ? 直接聞いてみたら?』

「む、無理だよ、そんなの!」

 

 揶揄うようなピノの言葉に、慌てて手を振る。

 空には、夜の訪れを告げる星が輝き始めていた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ