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解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作


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25. 差し出された手


 白い岩肌が続く、谷あいの街道――

 通称、『竜の爪痕』。


 遠い昔、ここは平らな台地だったらしい。

 しかし、『竜魔戦争』の折、精霊獣と竜がこの地で激しい争いを繰り広げ……

 その時、竜の爪による一撃で台地が削れ、この谷ができたのだと言い伝えられている。

 街道の上の台地は木々が茂る森だ。人々は森を切り拓くのではなく、この爪痕を道として利用し、現代まで続いている、というわけだ。


 そんなお伽話のような伝説をもつ街道の先に、一人の男性が立っていた。

 格好からして、お役人さんのようだ。彼は私たちを見るなり、手のひらを向けてこう言った。


「すみません。ここから先は通行止めです。名高い<星詠みの眼(へルシファー)>様から『落石がある』との予見が出ていまして……」


 やはり、ここで通行人を止める係の人らしい。

 事情を説明しようとすると、私より早くウェイドが前に出て、こう切り出した。


「俺も<星詠みの眼(へルシファー)>の一人だ。ウェイド・レオーネ・ラージウィングという。その予見について調査に来た」

「ラージウィング、って……あの王付きの<星詠み>の?!」


 身体を仰け反らせ、慄くお役人さん。ラージウィング家の名はこういう場面で効果抜群だと、あらためて思う。


「落石の予見は、ベルジック家のディオニスによるものだな? 随分と広い範囲を封鎖しているようだが、落石の詳細な発生地点は指示されているのか?」

「いえ。この『竜の爪痕』一帯と言われているだけで、細かな地点までは何も……」

「では、発生日時は? 数日前から封鎖していると聞いたが、落石はいつ起こると言われている?」

「それについても断定的な指示はありません。漠然と、『近々起こる』という予見だったようで……」

「チッ……やはり『降眼(こうげん)の声』による私的な予見か。あまりに無責任でお粗末な内容だ」


 と、珍しく声に苛立ちを滲ませるウェイド。

 

("眼無し"って言われたことは気にしていないって言っていたけれど……ディオニスのこと、あまり良くは思っていないんだろうな)


 小さく苦笑する私の前で、ウェイドが続ける。


「予見された落石は、自然現象ではなく、人為的に引き起こされるものである可能性が浮上した。俺たちはそれを止めに来た」

「人為的……? それは本当ですか?!」

「あぁ。ベツラムのはずれで、洞窟が爆破される事件が起きた。犯人はとある鉱石を狙っていると見られる。次はこの近辺での採掘を計画しているのではないかと予想している」

「なるほど……鉱石を掘り当てるため、この辺りを爆破する。それにより落石が発生する、というわけですね?」

「その通りだ。犯人は馬に乗った二人組の男なのだが……見覚えはあるか?」

「いえ、ないですね。ここに来るのは馬車か、徒歩での旅人ばかりでしたので」


 犯人たちは、まだここに来ていない。

 なら、考えられる可能性は……


「これから来るのか……それとも、森の中を迂回して、台地の上を進んでいるのでしょうか?」

「あり得るな。奴らは森の中でも馬を巧みに操れるようだ。人目を避け、谷の上から採掘地を物色しているのかもしれない」


 私の呟きに、ウェイドが頷く。

 続けて、お役人さんにこう尋ねる。


「この辺りに採掘場の跡地があると聞いた。どこにあるか知っているか?」

「あぁ、それでしたら……この先をしばらく進むと、左手に坑道の入口が見えてきます。何百年も前に封鎖されて、今は使われていませんが……」

「わかった。俺たちはそこへ向かう。他に誰も通すな」

「だ、大丈夫ですか? その……お気をつけて!」


 お役人さんの言葉を無視して、スタスタと進むウェイド。

 心配そうに見つめるお役人さんにぺこっと頭を下げ、私は小走りでウェイドを追いかけた。



 ――無言のまま先を行くウェイドに、私は早歩きでついて行く。


『まったく、せっかちなヤツね。レディーに合わせてゆっくり歩きなさいよ!』


 なんて、肩の上でピノが怒るが……私はむしろ、喜んでいた。


(目的のために淡々と駒を進めるこの感じ……やっぱりウェイドってジーク様っぽいっ……! 私の歩調なんか気にせず歩くところも最高に推せる……!)


 と、広い背中を見つめ、密かに悶える。

 

 昨日は思いがけない襲撃を受けたせいで、ウェイドも優しくしてくれたのだろうけど……

 やっぱり、これくらいの冷め切った感じが、彼の本来の距離感なのだろう。

「優しいと思うな」って、面と向かって言われちゃったしね。


(いやー、むしろこれくらいの方が助かるなぁ。私なんかに優しくしてくれるとか解釈違いだし……『小説のキャラクター』だと思わせてくれた方が、変に意識せずにいられるしね)


 そんなことを考えていると、ピノに『なにニヤニヤしてんのよ』と怪しまれた。

 私が「なんでもないよ」と答えた、直後――ウェイドが、足を止めた。


 私も立ち止まり、彼の視線の先を見る。

 高く聳える街道の壁面……その一部に、奥へと続く横穴があった。

 天井や壁を木材で補強した、人工の洞窟だ。入口には木の板で作ったバリケードが設置されている。


「ここが……竜華結晶の採掘地?」

「あぁ。結晶自体はとうの昔に掘り尽くされたはずだが……採りこぼしが少しでも残っていることを、奴らは期待しているのかもしれない」


 洞窟は、切り立った崖の下にぽっかりと開いている。

 この中で爆薬を使ったら……確かに崖が崩れて落石を起こしそうだ。


 ウェイドがバリケードをひらりと飛び越え洞窟に近付くので、私はバリケードの下を潜ってそれに続く。

 入口から眺める洞窟の中は、光の届かない真っ暗闇。じめじめした土と、冷たい石のにおいが漂っている。


「……行くぞ」

「へっ?」

「中に入って、侵入者の形跡がないか調べる。既に犯人共が採掘を試みた可能性もゼロではないからな」


 平然と言うウェイドに、私は躊躇う。

 森の中ならいくらでも歩き回れるが……こういう閉鎖的な空間は、少し苦手だった。

 なんだか……心まで閉塞してゆくようで。


 何も言えずに立ち尽くしていると、ウェイドが私の前に立ち、


「……手」

「……え?」

「怖いなら、俺の手を握れ。安心しろ。君が転ばないよう、ゆっくり歩く」


 と……

 私に、右手を差し出してきた。


 目の前に掲げられた、大きな手。

 私を気遣う、柔らかな言葉。

 その思いがけない申し出に、私は一気に鼓動を速め……


(だからっ……不意打ちで優しくするの、反則っ!!)


 顔を火照らせながら、胸の内で叫んだ。



 

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