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解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作


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秘密の口付け(ウェイド視点⑧)



 ――しかし、ソフィアのその予見は、どうやら外れたらしい。


 ひと月後。

 テスティアが、ベルジック公爵家の次男・ディオニスと婚約したとの報せが入った。



 ベルジック家といえば、近ごろ予見を次々に言い当て、自らが治める領地の危機を未然に防いでいると噂の一族だ。

 その評判は当然、国王の耳にも入っている。

 要するに、王付きの<星詠み>であるラージウィング家の好敵手。

 ……いや、"眼無し"の跡取りしかいないうちより、ずっと有望な一族と言えよう。


 そんな公爵家の次男が、数百年ぶりに現れた<精霊獣使い(ファミリエル)>の能力者であるテスティアと婚約した。

 恐らく、彼女の能力を一族に取り込み、ベルジック家の力をより強固なものにすることが目的だろう。

 近年名を上げているベルジック家からの申し出だ。貴族社会で腫れ物扱いされているアスティラルダ家に断る理由はない。


 これは……完全に先を越された。

 俺がもっと早く<星詠みの眼(へルシファー)>の中での地位を高めていれば……

 彼女を、迎えに行けたのに。


「………………」


 テスティアの十八歳の誕生日パーティーの招待状を眺め、俺は息を吐く。

 九歳の頃に一度だけ遊びに訪れた縁で、アスティラルダ伯爵が送ってくれたのだ。テスティアとディオニスの婚約発表も兼ねたパーティーらしい。

 

 ……後悔をしても仕方がない。

 実力をつけ、アスティラルダ家を救済しようとしていたのは、俺が決めた勝手な目標だ。

 こうして有望な公爵家に見初められたのだから、テスティアの立場も救われるはず。それは、心から喜ばしいことだ。


(……この気持ちに区切りをつけるためにも、彼女に会いに行こう。そして……「おめでとう」と伝えなければ)


 あの日以来、彼女には一度も会っていない。

 結局、名前すら名乗らず終いだったし、彼女はまだ六歳だった。俺のことなど、覚えていないだろう。


 でも……それでも。

 彼女に会って、直接祝福したい。

 俺は、彼女に救われたから。

 あの森で過ごした温かなひと時が……ずっと、俺の支えになっていたから。


 彼女に「おめでとう」を。

 そして、「ありがとう」を伝えなければ。


 そう、考えていたのだが――




「テスティア・アイリス・アスティラルダ! <星詠みの眼(へルシファー)>である僕の予見によれば、君は竜に唆され、竜の妻となる! そして、我がベルジック家を破滅へと導く存在になる! よって、君との婚約は今日をもって破棄する!」




 ――テスティアの誕生日パーティーの日。

 広間に響き渡るディオニスの声を聞き、俺は……こめかみを引き攣らせた。


 テスティアが、竜の妻に?

 そして、ベルジック家を破滅させる?

 あまりに突拍子のない、非現実的な予見だ。


 それに、ディオニスが傍らに抱いている女……テスティアとの婚約を解消する前から、他の女と関係を持つとは。

 ……なんて、不誠実極まりない。


 ……気付けば、俺は。

 悲痛な面持ちで俯くテスティアの横に立ち、



「――その予見に、信憑性はあるのか?」


 

 そう、声を上げていた。




 * * * *




 ――そうして俺は、「正式な儀式で予見をやり直す」という名目の元、テスティアとウーテア山を目指す旅に出ることになった。

 

 まさかこのような展開になろうとは……それこそ、予見のできない未来であったが――

 十二年ぶりの彼女との再会に、俺の心は終始舞い上がっていた。


 テスティアは、想像以上に美しく成長していた。

 艶やかな栗色の髪。森と同じ深い緑を(たた)えた瞳。

 あの頃に比べ、暗い表情を浮かべることが多く、自信なさげな弱々しい雰囲気だが……

 動物と接する時の眩しい笑顔と、何かを決断する時の強い眼差しは、あの頃と少しも変わっていなかった。


 目の前でコロコロと表情を変える彼女が、あまりに可愛らしくて……気を緩めると、すぐに「好きだ」と言ってしまいそうで。

 俺は密かに歯を食いしばり、なんとか無言と無表情を繕った。

 

 彼女の前で、軟弱な態度を取るわけにはいかない。

 何故なら、彼女は……

 クールで無愛想なジークというキャラを推しているから。


 

 ――せっかくこのような機会が得られたのだ。

 ディオニスの元になど、返してやるものか。

 この旅で、俺はジークを演じ、テスティアの心を奪う。

 そして……すべてが片付いたら、婚約を申し込むのだ。


 

 ……だが。


「………………」


 ……今、俺の腕の中で眠るテスティアの寝顔に。

 俺の理性は、早くも決壊寸前だった。


(強盗に襲われ、怯える彼女を安心させようと共寝を提案したが……ジークらしくない行動だったか?)


 もはや、ジークとしての正解がわからなくなりつつある。

 こんなことならば、ソフィアから小説を借りておくのだった。


「………………」


 同じベッドの上。

 俺の胸で、無防備に眠るテスティア。

 触れる肌は温かく柔らかで、漂う香りはふわりと甘い。

 

 ……本当に、危機感がなさすぎる。

 俺に狙われているとも知らずに、ここまで気を許すとは……


『だから、えぇと……私が言いたいのは……ウェイドって、すごく優しい人ですよねってことで……』


 強盗に襲われる前。

 彼女に言われたセリフを思い出す。


 ジークらしい冷たい態度を取っているはずなのに、彼女は俺を信頼し、肯定してくれている。

 喜ばしいことだが……どうにも複雑な気持ちだ。


(そんなに"ジーク"のことが好きなのか? それとも……"俺"だから、心を許してくれている?)


 そう、彼女に問いかけたくて。

 でも、聞くことなど、できるはずもなくて。



 切なく竦む胸の感覚に、突き動かされるように――


 俺は、彼女の額にそっと、口付けをした。




 

お読みいただき、ありがとうございます。

ジーク視点は一旦ここまで。

次回からテスティア視点に戻り、旅が再開します。


少しでもお楽しみいただけましたら、↓の★印にて評価をぜひお願い致します。

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