表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/70

叶わなかった再会(ウェイド視点⑤)



 感情が……鼓動が揺れる感覚に、俺は言葉を失う。


 こんな気持ちになるのは初めてだ。

 彼女の笑顔が、言葉が、すべて愛おしくて……

 もっと近付きたいと思ってしまう。


(……テスティアのこと、もっと知りたい)


 俺は、声が震えそうになるのを堪えながら、


「ほ……他の動物も紹介してほしい。まだ時間はあるし……この森のこと、いろいろ教えてくれ」


 平静を装い、そう言った。



 ――テスティアは、俺の要望に応えるべく、森の動物たちを次々に紹介してくれた。

 先ほど逃げてしまったイタチやキツネやクマ。あと、ウサギやリス、トカゲやヘビまで。


 彼らと仲良くなるためのコツを、テスティアは丁寧に教えてくれて……

 それが上手くいき、思わず笑顔になる俺に、彼女は優しく微笑み返してくれた。


 こんなにも安らげる時間は、久しぶりだった。

 誰もが認める<星詠みの眼(へルシファー)>になるため日々勉強し、剣術の修行にも励む俺には、遊ぶ暇などなかった。


 ……いや、時間があったとしても、気持ちを緩めることができなかった。

 ラージウィング家のため、早く一人前になりたかったから。

 "眼無し"と嘲笑される自分を、一日も早く卒業したかったから。


 それなのに、こんなにも安らげる時間があることを知ってしまった。

 貴族社会の煩わしさを忘れ、静かで平和な森の中で、動物たちと戯れる。

 隣には、無邪気に笑うテスティア。

 彼女の心は、純粋そのもので……その瞳は、汚れを知らない宝石のように綺麗だった。


(このままずっと、彼女とこの森にいられたら……)


 なんて、らしくないことを考えてしまうくらいには……

 俺は、テスティアに惹かれていた。



 * * * *



 ――森での楽しいひと時は、あっという間に終わってしまった。


 日が暮れ、森が暗闇に包まれ始めた頃、使用人が迎えに来た。

 屋敷に戻り、身支度を整え……テスティアと別れる時間が訪れた。


「あ、あの……」


 馬車に乗り込む直前。

 俺は、見送りに来たテスティアに何か伝えようと、口を開いた。

 しかし、言葉に迷った。もう時間がない。けど、伝えたいことがたくさんある。


 一緒に遊べて、とても楽しかったこと。

 あの森で、また一緒に遊びたいこと。

 次はゲッコウミミズクを紹介してほしいこと。

 木の実を繋げるアクセサリー作りの続きがしたいこと。

 それが済んだら、俺の家にも遊びに来てほしいこと。

 そして……

 君のことが、好きになってしまったこと。

 

 様々な思いが頭の中を駆け巡り、俺の喉を詰まらせる。

 何かを言いかけたまま黙り込む俺に、テスティアは近付き……


「――楽しかったよ。また遊ぼうね!」


 そう言って、愛らしい笑みを浮かべた。

 俺は、胸がきゅっと締め付けられるのを感じながら、


「……あぁ。約束だ」


 しっかりと頷き、そう返した。




 ――また、彼女に会える。


 その日を楽しみに、俺は日常へと戻った。

 知識と教養を身に付け、『星詠みの儀』による予見の精度を上げ、剣術を一流へと近付ける……

 すべて、自分で決めた道。

 辞めたいと思ったことも、辛いと思ったこともない。


 けれど、『テスティアとの再会』という楽しみが、俺の信念をより強固なものにしていた。


 次に会うまでに、もっと強い男になっていよう。

 動物に関する知識をたくさん身に付け、もっとお喋りできるようにしよう。

 そして……あの時言えなかった言葉を、彼女に伝えよう。


(そういえば……あの時、ちゃんと自己紹介していなかったな。彼女、俺の名前を知らないんじゃないか? 次に会ったら、あらためて自己紹介しなきゃな)


 そんな前向きな意欲が、俺の成長を後押ししてくれた。




 ――そうして、数ヶ月が経ったある日。

 俺は、満を持して、父に尋ねた。


「父さん。次はいつ、アスティラルダ家に行ける?」


 俺の問いに、父は驚いたような顔をした。

 勉学と剣術にしか興味を示さない俺の口から、そのような言葉が出るとは思わなかったのだろう。


 しかし、父の表情は、すぐに残念そうなものへと変わった。


「それが……もう、行くことはできないかもしれない」

「え……」


 俺の口から、掠れた声が漏れる。

 父が悲痛な面持ちで続ける。


「テスティア嬢が<精霊獣使い(ファミリエル)>の発現者だということは、ウェイドも知っているね。その能力を使って、彼女は……遊びに来ていた友人たちを襲うよう、動物に命じたらしいんだ」


 テスティアが、人を襲うよう、動物に命じた……?


「そんなのウソだ……テスティアがそんなことをするはずがない!!」

 

 気付けば俺は、声を荒らげていた。

 そんな俺を落ち着かせるように、父は静かに首を振り、


「もちろん、私もそう思っている。だが、その噂が原因で、彼女は周辺の貴族から糾弾され……人と会うことを辞めてしまったらしい」

「そんな……」


 ……デタラメだ。

 テスティアの純粋さにつけ込んだ言いがかりに決まっている。

 ただでさえ彼女は、母親を亡くして塞ぎがちだったというのに……

 こんなくだらない噂のせいで、また独りになってしまうのか?


 怒りと悔しさに、歯を軋ませる。

 そんな俺を、父は悲しげに見つめ、


「特別な能力の有無に振り回されるのは、<星詠みの眼(へルシファー)>も<精霊獣使い(ファミリエル)>も同じなのかもしれない。可哀想だが、彼女が『人に会いたくない』と言っている以上、訪ねることはできないだろう」


 そう、言い聞かせるように言った。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ