初恋(ウェイド視点④)
――宣言した通り、テスティアは草陰に隠れるポルックギツネを見つけた。
そして、俺を連れて近付こうとするが、レンガイタチの時同様、すぐに逃げられてしまった。
続けて、樹の洞に隠れていたメイプルグマにも呼びかけるが、俺を見るなりあからさまに威嚇をしたので、仕方なく離れることにした。
「もう……みんなどうしちゃったんだろう? 私がいるのに怖がるなんて」
首を捻り、困ったように言うテスティア。
別に動物と仲良くなりたかったわけではないが……あまりの嫌われっぷりに、流石の俺も悲しくなってきた。
なんて少し落ち込んでいると、俺たちの頭上を一羽の小鳥が通過した。
瑠璃色の綺麗な鳥だった。あれは……
「あっ、マルツグミだ! 私、ちょっと行ってくる!」
そう言って、テスティアは鳥を追い、ものすごい速さで森の奥へと駆けて行った。
「ま……待ってくれ! こんなところに置いていかれたら……!」
帰り道などわかりはしないし、何より、すぐ側には警戒心丸出しのクマがいる。
俺はゾッとしながら、慌ててテスティアの後を追った。
木々の間を抜け、切り株を飛び越え、草の中を潜り……
必死に追いかけた先で、ようやくテスティアの姿を捉えた。
そして……彼女がいるその場所の景色に、俺は息を飲み、足を止めた。
一本の、巨大な樹が生えていた。
幹の太さは、大人が十人がかりで囲んでも足りないくらい。そして、その高さは……てっぺんが見えない程に、空へと枝を伸ばしていた。
(こんな大きな樹、見たことがない。それに……なんだか不思議な感じがする。まるでウーテア山の祭殿のような、神聖な雰囲気だ)
その樹の下にある、ボコボコとした根っこの一部に、テスティアは座っていた。
彼女が掲げる指の先には、マルツグミが一羽、留まっている。
俺がゆっくり近付くと、彼女が気付いて声を上げた。
「あっ、来た来た。いま、この子に君のことを話したから。近付いても大丈夫だよ」
どうやら、マルツグミに俺の安全性を説いていたらしい。
俺はマルツグミが飛んで行かぬよう、最大限に足音を殺し……テスティアの隣に、そっと座った。
彼女の指先に留まるマルツグミは、その名の通り丸く、ふわふわした鳥だった。近くで見ると、瑠璃色なのは背から羽にかけてで、腹の方は真っ白であることがわかる。
「マルツグミは、くちばしの下を撫でられるのが好きなんだよ。やってみて」
そう言って、テスティアは小鳥を俺に近付ける。
(そんな、いきなり触れるだなんて……また逃げてしまうんじゃないか?)
ゴクッと唾を飲み、人差し指を伸ばし……
俺は、恐る恐る、マルツグミに触れた。
指先に当たる、もふりとした羽毛。
その奥に、微かな体温を感じる。
俺は、極力優しく、緩慢な動きで、くちばしの下をくすぐった。
めったなことでは緊張しないはずなのに、妙にドキドキしていた。
(どうか、逃げないでくれ。どうか……)
そう祈りながら、撫で続けていると……
マルツグミは、首をくるりと回し、俺の指に頭を擦り付けてきた。
まるで、「もっと撫でて」とせがむように。
その瞬間、俺はテスティアの方を向いて、
「お……俺の指に擦り寄ってきた! 喜んでくれたみたいだ!」
なんて、声を上げていた。
こんなにはしゃいだ声を出すのは久しぶりだった。俺は無性に恥ずかしくなり、慌てて口を噤む。
するとテスティアは、俺の顔をじーっと見つめ……
嬉しそうに笑い、こう言った。
「やっと笑ってくれた。真面目な顔もいいけど……笑った顔のあなたは、もっと素敵だよ」
その笑顔を見た瞬間、俺は――
(あ…………)
――生まれて初めて、恋に落ちた。




