アンテローズの森(ウェイド視点③)
そして、テスティアはくるっと背を向け……
すぅっと息を吸い込んだかと思うと、
「みんなぁー! この人、怖くないよー! 一緒に遊んでくれるってー!!」
……と、口の横に両手を添え、森に向かって叫んだ。
俺はますます困惑し、尋ねる。
「その、さっきから言ってる『みんな』って……一体誰のことなんだ?」
すると、テスティアはくるっと振り返り、髪を靡かせながら答えた。
「え? 森のお友達だよ?」
「お友達?」
「うんっ。今日はね、ポルックギツネとレンガイタチとメイプルグマと、マルツグミと遊んでたんだ!」
満面の笑みで列挙されたのは、図鑑でしか見たことのない動物の名。
俺は、ぱちくりと目を瞬かせる。
「それが、君の友達?」
「そう! みんな優しくていい子だよ?」
「もしかして、君は……動物と心を通わせることができるのか?」
半信半疑に問うと、テスティアは……けろっとした顔をして、
「あれ? お父様から聞いてない? 私、数百年ぶりに生まれた<精霊獣使い>の能力者らしいの」
首を傾げながら、あっけらかんと答えた。
それを聞き、俺は愕然とする。
(<精霊獣使い>の能力者……?! 精霊獣と共にその能力も失われたと聞いていたが……父さん、俺を驚かせるためにわざと黙っていたな?)
父の目論みを悟る俺をよそに、テスティアは再び森の方を眺め、
「うーん、みんな帰って来ないなぁ。しかたない。行こっか」
そう言って、俺の手をきゅっと握り、森の中へと歩き始めた。
女の子と手を繋ぐのなんて初めてで、俺は思わずぎょっとする。
「な……行くってどこに?」
「みんなを探しに行くの。だって、大勢で遊んだ方が楽しいでしょ?」
と、さも当たり前のように言ってのけるテスティア。
どうやら彼女にとって、人間も動物も同じ「お友達」という認識らしい。
もちろん、俺には「動物と仲良くなりたい」という願望はない。移動手段である馬の扱いがわかれば良いと思っているくらいだ。
しかし、そんなことはお構いなしに彼女は進んで行く。
ぐいぐい手を引かれながら、俺は目を細め、
(まぁ……彼女から動物の知識が得られれば、予見に役立つ見識が広がる。ここは勉強だと思って、彼女に付き合うとしよう)
そう自分に言い聞かせながら……
握られた手の感触を意識しないよう、前を向いて歩いた。
――テスティアは、勝手知ったるという足取りで森の中を進んだ。
俺からすれば、右も左も同じような木が続いているだけだが、彼女にはきちんと"道"に見えているらしい。
やがて、テスティアが木の上にイタチを見つけた。
彼女が「おいで」と呼びかけるが、イタチはすぐに別の木へ飛び移り、姿を消した。
「えぇー? そんなことないのにぃ」
「あのイタチは何て言っていたんだ?」
「あなたが怖くて近寄れないって。そんなことないのにねぇ?」
そう言って、俺の顔を覗き込む彼女。
無遠慮に近付いてくる瞳に、俺はドキッとしながら身を引く。
「な……なに?」
「うーん……この真面目そうな顔が怖いのかなぁ。ねぇ、笑ってみてよ」
「は?! や、やだよ」
「なんで? にこにこしていた方が、みんなと仲良くなれるかもよ?」
テスティアが、首を傾げながら言うが……
俺は、彼女の手を離し、俯く。
……愛想を良くしたところで、誰とも仲良くなんてなれなかった。
俺は、ラージウィング家に生まれた"眼無し"。
その事実だけで、同じ<星詠みの眼>の血族からは白い目で見られてきた。
当然、友人などできない。
だったら……
ヘラヘラと愛想なんか振り撒かず、揺るぎない実力と威厳を身に付け、周囲を認めさせるしかない。
そう思って、生きてきた。
「………………」
黙り込む俺の顔を、テスティアが下から覗き込む。
そして、その無邪気な瞳を何度か瞬かせて、
「……そっか。ごめんね」
「え……?」
「無理に笑ったって意味がないよね。あなたが本当に笑いたいと思わなきゃ、ウソの笑顔になっちゃう。それは動物たちにも見抜かれるし……私も、イヤだな」
そう、申し訳なさそうに言った。
そんな言葉をかけられるとは思わず、俺はパッと顔を上げる。
テスティアは、にこっと微笑んで、
「大丈夫。笑顔じゃなくても、あなたは優しくていい人だよ。私、そういうのわかるんだ。行こう。次はポルックギツネを紹介するよ」
一度解いた俺の手を取り、再び歩き始めた。




