22. 高鳴る胸に抱かれて
「は……はぁ?! いいい、一緒に寝るぅ?!」
「そうだ」
「ナゼ?!」
「君を狙っている輩が一人だけとは限らない。もしまた襲撃されるようなことがあれば、別室からここへ駆けつけるのは時間がかかる。護衛のための、時短措置だ」
「で、ででで、でも……!」
「それに……まだ顔色が悪い。恐怖で身体が冷えたのだろう。人肌があった方が温まり、よく眠れるはずだ」
う……確かにさっきから寒気が止まらないし、一緒にいてくれた方が安心できるけれど……
仮にも、若い男女なんだよ?!
同じベッドで眠るのは、さすがに問題でしょ!
万が一にでも間違いが起きたりしたら……!!
……と、パニックを起こしかけるが。
(……いや、ウェイドに限ってそれはないか。私、色気とか皆無だし)
なんて、我ながら悲しすぎる理由で、すんと冷静さを取り戻すのであった。
「そ、それじゃあ……お言葉に甘えて」
部屋のドアを閉め、そろりとベッドに近付き……
私は、意を決して、ウェイドが捲ってくれた毛布に入った。
もちろん、ウェイドの方など見れるはずもない。
仰向けでピシッと固まったまま、ぎゅっと目を閉じる。
(うぅ……ウェイドとの距離感を改めるって誓ったばかりなのに……ビジネスライクどころか、いきなり男女の距離感だよ……!)
なんて、内心冷や汗をかいていると……私の横で、ウェイドが呆れたように息を吐いた。
「君は……アンブルウルフの爪の垢を煎じて飲んだ方がいいな」
「えっ? ど、どういう意味ですか?!」
「もっと警戒心を持て、という意味だ。こんなに容易く言いくるめられ、ほいほい同衾するようでは、悪い男に騙されるぞ?」
「で、でも……ウェイドは『悪い男』じゃないでしょう?」
「……俺の記憶が確かなら、つい数時間前に『俺を優しいと思うな』と忠告したはずだが?」
「っ……! じゃあ、出て行きます!」
「それは駄目だ」
――ぎゅ……っ。
……と、ウェイドは、逃げようとする私を、胸に抱き寄せた。
枕元でピノが、『わお』と他人事のように言う。
「……安心しろ。俺は優しくはないが……手を出すタイミングは弁えている。怯える君を襲ったりはしない。俺のことはクマだと思って、目を閉じるといい」
低く、柔らかな声。
それが、彼の胸に押し当てた額から、響いて聞こえる。
何これ……何これ何これ、ナニコレ?!
私、初めて男の人に、抱き締められてる……!?
しかも、ベッドの上で……!!
厚い胸板に、逞しい腕……女の私と体格が違いすぎるっ……
確かにサイズ感はクマみたいだけれど……こんなの、落ち着けるはずがない……っ!
っていうか……
(『手を出すタイミングは弁えている』って……然るべきタイミングと相手ならちゃんと手を出す、ってこと?! うきゃーっ! なんかすごい……オトナーっ!!)
ドクン、ドクンと鼓膜を叩く、心臓の音。
呼吸の仕方もわからなくなり、ただ固まることしかできない。
全身を包む、彼の体温。
鼻腔をくすぐる彼の匂い。
そして……
私と同じくらいに速い、彼の心音。
(……え……?)
私は、思わず目を開ける。
(もしかして、ウェイドも……この状況に、ドキドキしている……?)
そんな、ありえない。
だって、彼はいつも冷静で、淡々としていて……
私相手に、鼓動を乱す理由なんて、ないはずなのに。
(ウェイドの心臓、すごく響いている……どうして……?)
私は、彼がどんな顔をしているのか知りたくて……
腕の中で、彼を見上げた。
するとウェイドは、真顔のまま私を見下ろし――
琥珀色の瞳を光らせ、こう囁いた。
「――なんだ。喰われたいのか?」
獲物を捕らえるような眼と、お腹に響く低い声に、私はゾクッと身体を震わせる。
首をブンブン横に振り、全力で「ノー」を伝えると、彼は「なら寝ろ」と、再び私を抱き寄せた。
……身体が熱い。
息が上手くできない。
心臓が、口から飛び出してしまいそう。
(違う……こんなの違うっ……ジーク様はこんなことしないし、こんなセリフを言うわけ……!)
……と、そこまで考えて。
私は、気付いてしまう。
ウェイドは、私の推しであるジーク様にそっくり。
だから私は、ジーク様を投影してドキドキしているのだと、そう思っていた。
けれど……
(私……ウェイドの、ジーク様とは違う部分を知る度にドキドキしている……それってつまり、ジーク様じゃなくて……ウェイドだからときめいている、ってこと……?)
――ぼっ。
顔が、一気に熱くなる。
どうしよう……なんか、気付いちゃいけないことに気付いちゃった気がする……!
(だ、だめだめ! 私たちは目的が同じなだけの一時的な協力関係! これは護衛の一貫として添い寝してくれているだけ! 変に意識するな……彼はクマ……彼はクマ……!!)
身体を強張らせ、そう念じていると……ウェイドが枕元に目を向け、
「鳥。こっちへ来い。君が側にいた方が、彼女の緊張も解けるだろう」
と、ピノに手を差し伸べた。
『だぁかぁらぁ、鳥じゃなくてピノだってば!』
そう怒りながらも、ピノはウェイドの手のひらにちょんと乗る。
そうしてウェイドは、彼と私の間にピノをそっと置き、
「想像しろ……ここは、君が過ごしたあの森だ。ここにいるのは君の友人だけ。誰も君を傷付けたりしない」
私を優しく抱きながら、子守唄を聞かせるように、囁いた。
その声と、ピノのふわふわなぬくもりに、私は……
アンテローズの森で過ごした、幼い日を思い出す。
――木々の間から漏れる柔らかな日差し。
聞こえるのは葉を揺らす風の音と、鳥の囀りだけ。
私は、森の奥にある木の洞で、大きなクマの腕に抱かれる。
その内、イタチやウサギや小鳥まで寄って来て……
お日さまの匂いに包まれながら、ぬくぬくと眠るのだ。
(あったかい……このままずっと……この優しい世界に、浸っていたい……)
――気付けば、私は……
森の中を夢見ながら、心地よい眠りに落ちていた。
そして。
森に、一匹の竜が現れ……
眠る私の額に、優しくキスをする夢を見た。
お読みいただきありがとうございます。
次回からウェイド視点のお話が8話続きます。
彼の胸の内が明らかになるので、お楽しみいただけたらさいわいです。
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完結まで途切れることなく更新がんばりますので、応援の程、よろしくお願いします……!




