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解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作


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18. 戸惑いの鼓動



 ――翌日もベツラムの街で聞き込みをしたものの、犯人特定に繋がるような情報は得られなかった。


 しかし、一つだけ。

 北から来た商人から、気になる話を聞いた。


「岩の崩落と言えば……ここへ来る途中、妙な噂を聞きました」

「妙な噂?」

「はい。なんでも『近々、落石がある』という予見が出たらしく、街道の一部が通行止めになっていたんです。お陰で森の中を迂回したから、もうクタクタですよ」


 ため息をつく商人の言葉に、私とウェイドは顔を見合わせる。


「もしかして、その予見って……」

「ベルジック家のディオニス様が出された予見だそうです。あのお方の予見はよく当たるので、すぐに通行止めの措置が取られたみたいですよ」


 って、またあの人の予見かー!

 できれば思い出したくもないのに、こう何度も名前を聞くことになるとは……


「街道で落石……確かに気になるな」


 低く呟くウェイドに、私は「え?」と聞き返す。

 彼は私に目を向け、こう答えた。


「あの狼たちの巣穴について、仮説を立てていたんだ。あそこには、犯人たちにとって価値のある鉱石が埋まっていたのではないか、と」

「鉱石……?」

「あぁ。爆発の規模から見るに、奴らが使用した爆薬は鉱石を採掘するためのものである可能性が高い。もし奴らが、この近辺で鉱石を集めているとしたら……」


 彼が言わんとしていることを悟り、私はハッとなる。


「予見された『街道の落石』も、奴らの爆薬によるもの……?!」

「かもしれないな。ここから北へ向かう街道は岩壁に挟まれた谷で、廃坑もあると聞く。奴らが採掘を目論んでいてもおかしくはない」


 私は、ゴクッと喉を鳴らす。

 この予想が的中するならば……犯人たちは、落石が予見された街道付近に現れるはず。


「……明日、通行止めになっている区域へ行きましょう。犯人を先回りすれば、落石を阻止できるかもしれません」


 私の言葉に、ウェイドは頷いてくれた。


 ディオニスの予見を信じて動くのは癪だけれど……今はこれが最も有力な推測だ。ちょうどウーテア山に向かう方角だし、行くしかない。


 私は情報をくれた商人にお礼を伝え、宿泊施設へと戻った。



 * * * *



「――ふぅ……」


 夕食を摂り、お風呂を済ませ、私は宿泊部屋のベッドに腰掛けた。

 調査に協力してくれていたお役人さんにも、落石に纏わる推測を伝えた。今後、北へ向かう旅人たちに注意喚起してくれるそうだ。


(ここ数日は夢中で駆け回っていたけれど……我ながら、少し前までの引きこもり生活が嘘みたいに活動的だったな)


 なんて、一人苦笑いをする。


 思えば、誕生日パーティーのあの日から、何もかもが変わってしまった。

 人との関わりを避け、屋敷の中で本を読むことと、森の中で動物たちと話すことしかしない生活だったのに……

 人々が行き交う街の中で、自ら声をかけて回ることになるなんて。


 ……思い返せば私は、元々人と関わるのが嫌いではなかった。

 動物と同じくらい、人間のことが大好きだった。

 この能力のせいで怖がらせてしまうからと、無理やり独りになっていただけ。


 けれど、今は……

 この能力のお陰で、人と関わることができている。


 この能力があったから、アンブルウルフが人間を襲うことを阻止できた。

 そして、彼らが受けた被害を人々に伝えることができた。

 アンブルウルフと街の人たち、両方の生活を護ろうと働きかけて……たくさん感謝してもらえた。


 ……そっか。

 きっと、私次第だったんだ。

 この能力を良いものとして生かすのも、悪いものとして殺すのも、すべて私次第。


 今までの私は、傷付くことを恐れて引きこもっていただけ。

 この能力をもっと何かに役立てることができていれば……私を恐れる人たちからも、理解が得られていたのかもしれない。

 そんなことに、今さら気付くなんて。


(……ううん。今気付けただけで充分。きっかけは散々だったけれど……この旅に出て、本当によかったな)


 これもすべて、ウェイドのお陰だ。

 彼がこの旅に連れ出してくれなければ、今ごろ私は『ベルジック家に破滅を齎す者』として追放され、不幸のすべてをこの能力のせいにし、独り絶望していただろう。


 最初は、赤の他人と旅に出るなんて絶対に無理! なんて思っていたけれど……

 人見知りな私でも心を開いてしまうくらい彼が親切だったから、当初の不安はすっかり消えてなくなっていた。


(ウェイドって、無表情だけど機嫌が悪いわけではないし……むしろ、精神がすごく安定している人なんだよね。だから、頼れるというか、一緒にいて安心するというか……)


 と、彼の精悍で無感情な顔を思い浮かべ……

 ……そういえば。と、思い出す。


 普段、滅多に感情を表に出さないはずの彼なのに……

 私がボウガンの矢で負傷した時には、すごく必死な表情になって……

「大丈夫か?」って、何度も心配してくれたっけ。


「っ……」


 それを思い出した途端。

 心臓が、トクンと高鳴った。

 苦しいような、切ないようなその感覚に、私は胸を押さえる。


『ん……? どうしたの、テス? どこか具合でも悪いの?』


 窓際で眠りかけていたピノが、異変に気付き声をかけてくる。

 

「いや……なんか最近、心臓がヘンに跳ねることが増えた気がして……」

『アンタ、それ…………心臓の病気じゃない?』

「えっ?! どどどどうしよう! やっぱ慣れないことしたから、ストレスが心臓に来てるのかな?!」

『あはは。やーねぇ、冗談よ』

「で、でも、本当に心臓が……!」


 などと、オロオロし始めた……その時。



 ――コンコン。



 誰かが、部屋をノックした。

 私はビクッと身体を震わせ、立ち上がる。


「は、はい……?」


 誰だろうかと、そっとドアを開けると……

 部屋の前に、ウェイドが立っていた。



 

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