17. 想いを念じて
――翌日から、私はベツラムの街で調査を始めた。
馬に乗った、二人組の男……彼らの素性を調べるには、二つの線から追う必要がある。
一つは、他所からやってきた旅人の線。
そしてもう一つは、この街の住民である線だ。
一つ目の可能性について、私は宿屋を中心に聞き込みをした。
しかし、ここ数日の宿泊記録を見る限り、怪しい人物はいなかった。
次に、二つ目の可能性。
これについて、私は街にいる馬たちに声をかけた。
もし、犯人がこの街の住民なら、使用した馬もこの街にいるはず。
そして、馬は嘘をつかない。
狼たちの縄張りに行ったことがあるかどうか、手当たり次第に聞いて回った。
が、こちらも空振り。
同じく街中で聞き込みをしてくれたお役人さんたちの方も、有益な情報は得られなかったようだ。
せっかく滞在期間を伸ばしたのに、犯人の手がかりがまるで掴めず、私はウェイドへの申し訳なさでいっぱいになった。
聞き込みのため、あちこち駆け回る私に、彼は何も言わずに付き合ってくれた。
相変わらず無口で無表情だけれど……きっと文句の一つも胸に抱えているはずだ。
「………………」
夕食の時間。
私は、向かいに座るウェイドをじっと見つめた。
その視線に気付き、彼はステーキを切る手を止める。
「……何だ。言いたいことがあるのなら言え」
「…………ごめんなさい」
「何が」
「だって、せっかく延泊したのに、何の成果も得られなかった……ウェイドの時間を奪っているのに、申し訳ないです」
肩を落とし、俯く私。
すると、ウェイドは、
「……テスティア」
と、私の名を呼んだ。
その声にあらたまった雰囲気を感じ、顔を上げると……
彼は、私の瞳を、射抜くように見つめていた。
「え……な、何か……?」
真っ直ぐすぎる視線に戸惑いながら尋ねるが……彼は無言。
名前を呼んだきり、黙ってしまった。
「………………」
「……ウェイド? どうかしましたか?」
「………………」
「あの……もしもーし?」
「………………」
「……ちょっと、ウェイド! お願いだから何か言ってください!!」
堪らず声を上げると、ウェイドは表情を変えないまま、ようやく口を開く。
「ふむ、やはり伝わらないか」
「な、何がですか?」
「人間も動物の一種だろう? そこの鳥や昼間の馬のように、俺の考えも君に伝わるのではないかと思って」
「無理ですよ、そんなの!」
『っていうか、いい加減アタシの名前覚えなさいよ!!』
私に続き、ピノまでが「ピィーッ!」とツッコむ。
「それで……ウェイドは私に、何を伝えようとしていたのですか?」
仕切り直すように尋ねると、彼は……少しだけ間を置いて、
「『ここの肉は美味いな』、だ」
「……は?」
「ここで出される食事はどれも美味い。毎日食べても飽きないくらいだ」
「はぁ……」
「だから……滞在が延びるのは一向に構わない。ここにいれば、毎日この肉が食えるからな」
言って、フォークに刺したステーキ肉をぱくっと頬張った。
言葉だけを聞けば、ただの食いしん坊な人のセリフだけれど……
(ひょっとして……「気にするな」って言ってくれている?)
そうだ。滞在を伸ばすことに罪悪感を抱かなくていいと、遠回しに言ってくれているのだ。
そのことに気付いた途端、私の鼓動が加速する。
ウェイドは……不思議な人だ。
無口で無愛想。空気を読んだり、体面を気にしたりしない人。
だけど……
本当は、すごく思いやりのある、優しい人。
でなきゃ、亡くなった狼たちのために岩を退かそうとなんて、絶対にしない。
最初は、推しのジーク様に似ているからって浮かれていたけれど……
知れば知る程、ジーク様との違いに気付かされる。
だから、余計に困ってしまう。
彼は小説の中のキャラクターで、私なんかとは交わることのない、次元の違う人。
そう思えていたら楽だったのに……
彼の優しさに触れる度、同じ次元を生きる人なんだって、思い知らされる。
(もう……時短重視の効率主義者なはずなのに、どうして私に付き合ってくれるの?)
その疑問を、投げかけたくて。
私は、お返しと言わんばかりに、彼を見つめる。
なんで、そんなに優しいの?
そう念じながら、彼の琥珀の瞳に視線を送ると……
彼は、何度か瞬きをした後に、こう言った。
「……食べないのか? なら、その肉は俺がもらうが」
「た、食べますよ! もうっ!!」
(この人……やっぱりただの食いしん坊かもしれない!)
悔しいような、恥ずかしいような気持ちを抱えながら、私は冷めかけたお肉に、がぶりと食らい付いた。




