11. 狼たちの急襲
――馬車は、ベツラムの街を目指し順調に進んでいた。
途中、馬車の中でお昼ご飯を食べた。
うちの屋敷の料理長が作って持たせてくれた、ハムと野菜のサンドイッチだ。
「ピノのご飯はいつもの"つぶつぶ"ね」
『えー、また種ー? アタシにもそっちのパンをちょうだいよ』
「そう言うと思って……ほら。料理長からパンくずもらってあるよ。あんま食べ過ぎると太るから、"つぶつぶ"も食べてね」
『さっすがテス! あたしのコトわかってるぅー!』
などと私とピノがやり取りしている間も、ウェイド様……否、ウェイドは無言でサンドイッチを頬張り、たったの二口で平らげてしまった。
私が食べ終わると、馬車は再び静かになった。
車輪の転がるガタゴトという音と、ピノがパンくずを啄む音しか聞こえない。
(……さっきまでの会話って、もしかして、私の妄想だった……?)
と思ってしまうくらいに、ウェイドは無口、無表情、無関心。とにかく"無"を貫いていた。
でも、それでよかった。彼が本当は優しい人だということは、もうわかったから。
(グイグイ話しかけられても逆に困るしね。さて、お腹もこなれたし、ジーク様似のウェイドを眺めながら、ジーク様のご活躍を拝読しよーっと)
と、荷物の中から『アイテール幻想記』の最新刊を取り出し、いそいそとページを開いた……その時。
――ヒヒィインッ!
馬の嘶きと共に、馬車が急停車した。
『ちょっと! 一体ナニゴトよ?!』
お食事タイムを妨げられたピノが、怒り気味に叫ぶ。
馬車を引く馬に、何かあったのだろうか?
私が腰を上げる前に、ウェイドが動いていた。
「見てくる。君は中にいろ」
そう言って、彼は傍らに置いていた長剣を持ち、馬車を降りた。
でも、私も何が起きたのか気になっていた。
先ほどの馬の鳴き声からは、恐怖と戸惑いが感じられたから。
私は窓から顔を出し、外の状況を確認した。
土を固めた平らな街道。左右には鬱蒼と茂る森が広がっている。
その街道の先――馬車の進行方向を見て、私は馬が停止した理由を悟った。
銀色の毛並みに、琥珀色の眼。
鋭い牙の間から漏れる、低い唸り声。
四頭のアンブルウルフが、行く手を遮るように、こちらを威嚇していた。
「オオカミ……?」
「森の中から突然飛び出して来たんです! 馬を避けるどころか、飛びかかって来て……!」
ウェイドの呟きに、御者さんが答えるのが聞こえる。
おかしい。アンブルウルフは賢い動物だから、むやみに人を襲ったりしないはずだ。
ましてや、馬車に向かって飛び出してくるなんて……そんな無謀なこと、するはずがない。
きっと、何が理由があるんだ。
私は馬車を降り、ウェイドの側に駆け寄った。
「テスティア。中にいろと……」
「大丈夫です。彼らに、話を聞いてみます」
私は、敵意を剥き出しにするアンブルウルフたちを見つめ、一歩前に踏み出した。
「――気高きアンブルウルフたち。どうして馬車を止めるの?」
胸に手を当て、敵意がないことを示しながら、私は尋ねる。
すると、四頭の内、一際大きなオスが唸りながら答えた。
『ニンゲンは、俺たちの敵……馬に乗って近付き、俺たちの家を壊し、家族を殺した。縄張りに近付く者は、すべて排除する……!』
私は、「え……?」と声を上げる。
人間に家を壊され、家族を殺された……?
アンブルウルフは、人里から離れた森の奥深くに棲んでいる。彼らの話が本当なら、一体誰がそんなことを……
「そう……人間に酷いことをされたから警戒しているのね。その時のこと、詳しく聞かせて? 私なら、あなたたちの力になれるかもしれない」
誰かが通る度に襲いかかっていては、行き交う人が危ないのはもちろん、アンブルウルフたちも害獣として駆除されかねない。
とにかく今は彼らの怒りを鎮め、人間全員が悪ではないことを伝えなくては。
理解を得たい一心で、私は彼らを見つめるが……
アンブルウルフは、姿勢を低くし、
『ニンゲンの言うことなど信じられるか! ここから先へは行かせない!!』
激しく吠えながら、四頭が一斉に飛びかかって来た。




