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アンチェインド

 初めて星座の乙女人形が確認されてから一週間ほどたったある日。私達は星座の乙女人形が確認されたエリアH-2に向かっていた。


「ここからは市の危険が伴う。葵も雫も覚悟はできたな?」


 カナリア司令の小に私達に喝が入る。死ぬ覚悟なんてサラサラないが、いざという時は……。


「随分と重い顔をしているな神崎。アイギスを初めて身に纏った時の威勢はどこへ行ったんだ?」


「そ、そうですね……私も全身全霊、全てをぶつけます!」


 私が覚悟を決めると雫さんは「その意気だ」といい、再び走り出した。私達も続いて走り出す。やはり雫さんはいい指導者だと改めて思った。



 エリアH-2にたどり着くと、そこには赤色に光る弾を放ち暴れまわっているスコーピアスの姿が見えた。スコーピアスの腕には赤い液体が付着していた。腕だけではない。前に見たときにはなかった尻尾のようなものにも付着している。

 それが血だと判断するのに時間は要さなかった。


「随分遅えじゃねぇかアイギス。あんまり待たせるもんだから何人か星になったじゃねえか」


 見ると、スコーピアスの足元には身体を貫かれた人だったものが無数に転がっていた。一気に吐き気が押し寄せる。ここまで酷い死体を見るのは初めてだ。

 まさに悪逆非道。目の前にいるのは己の快楽のために人を殺すような悪魔だ。


「アロケルッ!」


 アイギスを身に纏うと先程までの不快感を払拭するように頭の中に歌が流れこんできた。


「ここで成敗してくれるッ」


 雫さんが突撃する。それに合わせるように私が剣を振りかざし、カナリア司令はなにかの準備を始めた。


「人は何故戦うのか。そう考えたことはないか?」


 スコーピアスは私達の猛攻を意に介さずにこちらに問いてきた。


「人を守るために!このアイギスを使って誰かを守るために戦うんです!」


 自分のためでもある。けれどウイングだってTriangleだって誰かを守るためにやっているんだ。

 けれど、そんな私にスコーピアスは想像もできなかった言葉を発した。


「違うな、お前も快楽のために争う……まさに私と同じタイプだ」


 スコーピアスのその言葉は私の胸を突き刺した。

 初めて私が戦ったときを思い出す。あのときの私は間違いなく己の快楽のために戦っていた。


「わた…私は……」


 目の前の景色がゆらゆらと揺れる。視界が安定しない。

 私はなんのために……、一体なんのために戦っているんだろう。自分のためじゃないと信じてきた。まだ戦い始めてそんなに日が経っているわけではない。そんな中でも私は誰かの明日を守るために努力してきたつもりだった。だけど違ったのかもしれない。私は戦闘を楽しんでいた……?

 そんな私には誰かを守ることなんて……。


「神崎ッ!思い出せッ!お前が戦う理由は己のためなどではなかったはずだッ」


 ──ッ!?

 そうだ。私は守れなかった命を、私に課せられた罪を償うために戦うと決めたはずだ。

 惑わされるな神崎葵!私はこの力で誰かを守る!


「雫さん!カナリア司令!ここは私に任せてくださいっ」


「許さんっ!お前が一人で戦っても勝てる相手ではない!」


 カナリア司令は許可をくれなかった。それもそうだ私はまだまだ未熟だ。

 だけど……それでも。


「それでも!私はこの場で過去の罪を少しでも償いたい!」


 気づけば私はスコーピアスと過去の私を重ねていた。過ちを犯してしまったあのときの私と似ているのだ。ああ、過去の私はどうしようもなく愚かだ。ここで正さなければ……。


「アロケェェェルッ!」


 私は再びその名を口にした。

 その時、私の声に反応するようにアロケルが輝き出した。


「あれは……?」


 見たことのない現象に渡しを除くその場に居た全員が困惑していた。

 私も初めての現象に最初は戸惑った。しかしやがて何が起こっているのかが頭に直接情報として流れてきた。


「アイギス・アンチェインドッ」


 私の言葉に呼応するように身体が輝き出した。この現象は変身するときのそれと似ていたが少し違っていた。普通の変身のアイドル衣装とは違い、まるでRPGの装備のような鎧が身に纏わりついた。


「なんなんだ?あの姿は……」


 アンチェインド、それはアイギスに仕込まれた機能の一つだ。

 アイギスに蓄積されたメロファージのセーブ機能を解除し、本来あるべき姿にする機能だ。


「ぐっ……っあぁッ…!?」


 苦しい、まるで身体の制御を奪われるような感覚だ。

 アンチェインドはセーブ機能を解除すると同時に鎖に繋がれたアイギスを解放する機能。つまり、それは半端なものが扱えばアイギスの持つ本来の力に飲み込まれるだろう。


「神崎!気を確かに持てッ!!」


 いや、むしろここはアロケルに身を任せるべきではないだろうか?私の技術なんてたかが知れている。だったらこの力の持ち主であるアロケルならばこの状況を打開できるかもしれない。


 意識がだんだんと深い信念に飲み込まれてゆく。目の前の景色もだんだんとフェードアウトしていった。そうして私は完全にアロケルに意識を委ねた。




 雫は驚愕していた。目の前に映る状況を予想できなかったからだ。


「神崎……なのか?」


 雫の目には神崎葵の姿をした別人のように感じれた。


「ったく、何が悪魔だよ。テメェのほうが悪魔してるじゃねえかよッ!」


 スコーピアスは様子の変わった葵にひるまずに突撃した。葵の眼前に迫り、その尻尾で葵を貫こうとする。


「避けろ神崎ッ!」


 雫の言葉を聞くまでもなく、葵は持っていた剣で尻尾をはたき落とした。尻尾に全体重を乗っけていたスコーピアスはいとも容易くバランスを崩す。

 それに合わせるように葵は剣で何度も何度も切りつけた。


「……ッ」


 あまりにむごい光景に、カナリア司令も雫も思わず顔を引きつっていた。

 切りつけられ始めて数秒が立ち、やがてスコーピアスは言葉を発さぬ文字通り人形と化した。


 スコーピアスが敗れることで戦闘が終わると、葵はその場に倒れ込んだ。


「神崎ッ!」




 私はそこで目を覚ました。

 目の前には天井が映し出されている。


「あれ……私はたしか………」


 記憶は曖昧で意識も朦朧としている。

 たしか私はスコーピアスと戦っていて、それで……。

 思えばそこからの記憶は何もなかった。


「やっと目を覚ましましたか」


 ふと、部屋の入口の方から声が聞こえた。聞こえた声はパーティーの時に聞いたことがある。おそらくウイングの関係者なのだろう。


「あなたが眠ってから丸一日が経過しています。おそらくアンチェインドのせいで身体へ高負荷がかかったんでしょうね」


 声の主は私のところに向かってやってきて、道具の準備を始めた。

 茶髪のたなびく美しい女性だ。


「あなたは……?」


「私はウイングの医療部のリーダーの正院叶。気軽にかなえさんとでも読んでください」


 叶と名乗る女性は何やら難しそうな顔をしていた。


「かなえさん?どうかしたんですか?」


「いえ、何でもありません。今日の晩ごはんについて考えてました。カレーにするかパスタにするか……どっち街と思います?」


 なんだか面白い人だと思った。


「カレーがいいと思います!私も好きですし!」


 その後、少し会話をすると、かなえさんは部屋を去ってしまった。



 そして少しの時間が経ち、再び救護室の扉が開いた。


「琴音っ!?」


 見ると、来たのはかなえさんではなく琴音たちだった。


「もぉ〜葵…心配したんだから!」


「あはは、ごめんって」


 琴音が腕を掴んでブンブン振ってくる。


「ちょ、ちょっと!腕!腕もげちゃうから!」


 私がそう言っても琴音は止まらなかった。よほど嬉しかったのだろう。私は死ぬかもだなんて考えることもできなかったが、きっと皆はそうではなかったのだろう。


「神崎が無事で何よりだ」


 雫さんも琴音同じように心配してくれていた。


「全然!問題なんてないですよっ!元気ピンピンですから!」


 実際のところすでに朦朧としていた意識ははっきりとして、体調は普段と大差なかった。


「病み上がり早々悪いのだが、司令から招集がかかっている」


「げぇっ……全く、カナリア司令も人が悪いなぁ……」


 体調は治ったが、丸一日眠っていたともなれば起き上がるのがだるくなるのは必然で、私は起き上がるのを拒んだ。


「嫌だっ!私はもう少しここでゆっくりするんだっ!」


「琴音、頼んだぞ」


 雫さんの言葉で琴音は私を無理やり起こそうとする。

 私の抵抗も虚しく、私は琴音によってベッドから引きずり落とされてしまった。



 司令室に行くと、八舞さんとカナリア司令が待っていた。


「まずは葵が元気なようで何よりだ」


 カナリア司令はいつになく真剣そうに話していた。


「本題に入るが、エリアH-2でのことは把握しているな?」


「カナリア司令!私は記憶がないのでわかりません!」


 カナリア司令はめんどくさそうにため息を吐く。


「簡単に話すと、星座の乙女人形であるスコーピアスを葵がアンチェインドというものを使って倒したという話だ」


 なるほど、と納得する。いや待て。となると私はあのスコーピアスを倒したということになる。そんな事があるのだろうか。思い出そうとしても記憶にロックが掛かったように思い出させてくれない。覚えているところはアンチェインドを発動したところまでだった。


「そのアンチェインドのことだ。八舞、説明を頼む」


「わかりました。まずはアンチェインドについて調べるうえで、寝ていた神崎さんを調べさせてもらったことを謝らせてください」


 私が寝ている間にそんなことをされていたのか。まあ別に構わないわけだが……。


「アンチェインドはアイギスの本来の力を鎧として顕現させるものです。これはメロファージのセーブ機能を解除するものだと考えています」


「合ってると思います」


 あのとき私の頭には何故かアンチェインドについての情報が流れていた。だから八舞さんの見解が正しいということも分かった。


「葵さんも感じていたようですね。しかしアンチェインドは体への負荷が高く、そして何よりも未知な部分が多いです。発動条件もわからなければ、明確な代償もわからない状態です」


 つまりは仮に発動できるような予感があっても使ってはいけないということか。


「しかしアンチェインドがあの鎧というのならば神崎の暴走は関係しているのですか?」


「葵さんの暴走状態についてはアンチェインド以上にまだわからないことが多いんです。分かっていることはアンチェインドによって引き起こされる多量メロファージ反応により体の制御が失われてしまったということだけです」


 それって……。つまりはそういうことなんじゃないだろうか。


「アイギスによるメロファージ増幅で暴走状態が引き起こされるのであれば……」


「……アイギスを使うこと自体が危険ってこと!?」


 

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