白熱 親友大決戦!
第三試合は私VS琴音。レースゲームでは為すすべなくやられてしまったが、格ゲーは私の得意分野。つまりこれは負けられない戦いだ。
「随分と余裕そうな表情だね、琴音」
「当たり前じゃん。いままで葵に負けたことは一度だってないんだから」
琴音の挑発に私のボルテージはマックスになる。絶対に負けてたまるもんか、ここで勝利して見返してやるんだからっ!
そして第三試合は始まった。先制攻撃は私の一撃。琴音の使っているキャラは重量級のマッチョキャラだ。私のつかっている剣士キャラとの相性はこの上なく良い。だが、私がこのキャラを使い始めたのはつい最近のこと。まだまだ未熟だが、ここでの戦いを実際に活かせないかと思い使っている。
実際にこのゲームはリアルに作られているが故に剣の流れなど参考にすべき点は多い。
「次は私のターンだね、葵」
私のコンボが途切れ葵の反撃が始まった。
ムキムキの肉体から放たれる攻撃はたったの一撃が剣士キャラの短めのコンボ並の火力がでるほどだ。幸いモーション自体はそんなに強くないので、なんとかジャストガードなどで捌いているが、私は防戦一方でなかなか手が出せないでいた。
「あぁ〜もう、やめてってぇ〜〜」
私がそう言ってももちろん止まる気配はない。八舞さんのときのようにガード越しにジリジリと削られ、やがて為すすべなくやられてしまった。
「あぁ〜また負けたぁ〜本当にそのキャラおかしいって!」
「キャラのせいにしちゃだめだよ葵?」
「次のラウンドこそは勝つ!」
そうして始まる第二ラウンド。二人共必殺ゲージは2つ……今のところ状況的には五分五分だ。
私はキャラの特殊能力で一気に距離を詰めた。反応が遅れた琴音は対応できずに一撃を食らう。私はこのときのために準備をしてきた。きっともうこの不意打ちは通用しないだろう。だから今、この瞬間で決める必要がある!
「喰らえっ!」
私の大きな掛け声と共に始まったのは壁ハメコンボ。壁際で琴音のキャラは一方的に切りつけられ続けた。壁にあたって跳ね返ったところを同じ技でまた打ち付ける。徐々に高度が下がってきたら下段技で浮かせ…の繰り返し。
「あ、葵!汚いぞ!」
「神崎ッ!正々堂々と戦えッ!」
外野からのやじが飛んでくるが気にしない。汚い戦法だなんて百も承知だ。不意打ちだろうが壁ハメだろうがどんな手を使ってでも勝つって決めたんだ!
そうして第二ラウンドは私のパーフェクトで決着した。琴音は不敵な笑みを崩さないままコントローラーを握っている。もう不意打ちは決まらないだろう。つまりファイナルラウンドは己の実力で勝たなければならないということだ。
「今度こそは勝つ!」
「このままの勢いで勝ってやるっ!」
その言葉とともにファイナルラウンドの火蓋が切られた。
さて、どうしたものか。普通にやっても勝てるかどうかはわからない。それに現状必殺ゲージは満タン。下手に手を出せば、一気に体力が減るだろう。
そんなこんなで私はなかなか手を出せないでいた。私と琴音の間にある絶妙な間合いが緊張感を誘う。もし互いの領域にむやみに入れば待つのは死のみ。琴音もそれを分かっているのか、私の領域に入るか入らないかという所でステップし続けている。
そうしていると、時間が立ちついに琴音が私の領域に入り込んだ。あまりに無防備に歩いてくるものだ、間違いなく私を誘っているのだろう。
罠なのは分かっている。だがこのまま何もしないでいれば時間切れにより、体力の少ない私の負けになる。つまりここでの正しい選択肢は……、
「面白い!真正面から打ち破って見せるっ!」
正面突破。今できるのはそれだけだ。
私がジャンプ攻撃で飛ぶこむと琴音は待っていたかのように強烈なふっとばし攻撃を着地合わせて置いた。さすがは琴音。私の行動を完全に読み切っている。
「負けてたまるものかぁぁっ」
全力で着地地点をずらしたり、空中攻撃でタイミングをずらしてなんとかピンチを切り抜ける。たった一撃を回避しただけ。けれどその一撃はあまりにも重く、試合を決するには十分すぎた。それを避けられただけでも大きな進展だ。
そして琴音のキャラは攻撃力が高い代わりに後隙が長い。つまり私の着地地点的に大チャンス。壁は遠いが今の私には必殺ゲージがある。
「なっ……!?」
残された時間は十秒ほど。必殺技選びを間違えれば負けもありうる盤面。私が選んだ必殺技は切りつけた相手に無数の斬撃を送る技だった。普段はリーチが短くて使うことはないだろうが、まさかこんなところで役立つとは思わなかった。
その必殺技が終わる頃、ちょうど時間切れになった。
画面に映し出された文字はWINNERと私のキャラの名前だった。
「勝った……?勝てたっ!ねえカナリア司令!雫さん!私勝ったよ!」
「ま、負けた……葵に…?」
私が喜ぶ最中、琴音は信じられないと行った様子で呆然としていた。
「油断大敵、どんな状況でも諦めずに食らいついた私の執念が勝ったんだよ」
「まったく、昔っからしつこさだけは変わらないんだから……」
「えへへ〜、そこは諦めないと言ってほしいなぁ〜」
熱い試合を終えた私達は暑い握手を交わして、コントローラを次の人達に渡した。気分は大会の決勝戦を終えた後のよう。次の二人組みも気まずそうにコントローラーを握った。
その後もパーティーは大いに盛り上がった。格ゲー大会の優勝者はまさかの八舞さん。決勝戦で対決した私も文字通り手も足も出ずに惨敗した。そしていい戦いが起こるたびにカナリア司令はうるうると私の方を見てきた。
パーティーが終わり翌日になった。あの後パーティーは深夜まで続き皆本部に寝泊まりしたのだ。
「ふあぁ〜眠いですよぉ……」
私がそんな事を言っている中、カナリア司令と雫さんと琴音は深刻そうな顔をしていた。
「おぉ神崎か、ちょうどよかった。今少しばかり面倒な事になっていてだな……」
雫さんがそう言うと、モニターにはでかでかと街の様子が映し出された。
「な、なにこれ……」
見るとモニターにはヴァーグを従えているあの時の星座の乙女人形の様子が映し出されていた。たしか奴らはスコーピアスと呼んでいたはずだ。
「この映像は今朝方撮影されたものだ。既に現場は壊滅、幸い人的被害はないが建物がいくつか破壊されてしまっている」
「これって……」
「あぁ、そういうことだ。星座の乙女人形とヴァーグには何らかの関わりがあるということだ」
「確かにどっちも宇宙由来っぽいですしね」
きっと私達に姿を表したから表立って動けるのだろう。あのときの星座の乙女人形の強さはヴァーグの比ではなかった。もし仮に星座の乙女人形がヴァーグを従えていたとしても何ら不思議ではないだろう。
「早急に手を打たねばなるまい。このまま野放しにしていればいずれ日本、いや地球そのものが危ないだろう」
雫さんの見解には私も同意だ。相手は宇宙の遥か彼方から来た相手、惑星一つ破壊できてもおかしくないというのは誰から見ても分かるだろう。
「とりあえずこの情報はラボに回すとしようか。私達にできることはヴァーグや星座の乙女人形を止めることだけだ」
──東京都某所。
星座の乙女人形は円卓を囲むように座っていた。
「あぁ最高だぜぇ……ずっと抑えていた衝動、欲求。全てを開放できるこの時をどれだけ待ってたか!」
スコーピアスは恍惚の表情を浮かべる。そんなスコーピアスにリオはドン引きしていた。
「……戦いなんて面倒。なのにそんなに喜べるなんて…気持ち悪い……」
「そうですよスコーピアス。あなたは陽動係なんですからあまり暴れすぎないでください」
ライブラもリオの意見に同調した。ライブラの手にはパソコンではなく書物が握られている。
「陽動ってんなら暴れたほうが気を引けるだろうが!……というか何なんだその本は?真面目ぶってんならやめたほうがいいぜ」
「まったく、どうしてあなたはそんなこともわからないのですか?これだから脳筋バカは……」
スコーピアスは「んだとぉ!?」といってライブラに詰め寄った。ライブラはそんなスコーピアスに怖気づくことなく無表情を崩さない。
「魔術書第三号書物のメイリックですよ。このくらい魔道士であれば知っていて当然ですけど?」
「うっせぇ!俺は肉体強化しか使わねえんだよ!そんな誰が作ったか分からん魔術使わねえに決まってんだろ!」
「メイリックですよ。魔術書の名前はその魔法を記したものの名前になると何度行ったら分かるんですか?いい加減覚えたらどうです?」
ライブラは呆れたようにスコーピアスを突き放した。
「あらあら、あなた達?そろそろ始まりの日は近いのよ。いつまでも争っていたらアイギスに負けてしまうわよ」
扉から大人びた雰囲気を纏った女性がはいる。三人はそれを確認するとすぐに争いをやめて椅子に座った。彼女は三人から母親と呼ばれ親しまれていた。しかし厳密に言えば親しまれると同時に恐れられていたのだ。
「アイギスは一個人の力を利用する装置、星座の乙女人形が負けるはずはありえません」
ライブラの発言に大人びた女性は紫色をした長髪をヘアゴムで縛りながら鋭い眼光を飛ばした。
「ひっ……」
ライブラは怯えるように顔目線をそらした。大人びた女性の放つ眼光は彼女を恐怖させるなにかがあったのだ。
「油断大敵、日頃そう言っているでしょう。絶対なんてありはしないわ。とくにアイギスなんて可能性の塊よ、メロファージさえあれば無限に力を作り出すことだって可能なのだから」
大人びた女性は「それに…」と前置いて言い出した。
「新しく装者になった神崎葵とかいう女は危険よ。まだ本人も気づいてないようだけど気付いてしまえばカナリア・アルバドルよりも危険な存在になりかねないわ」
「あの女が?」
葵と一度対峙したライブラは疑問に思った。なぜならそれはライブラにとって葵はあの中でも一番弱い存在だと認識していたからだ。
「まだまだ見る目が無いようね。……まあいいわ。どうせすぐに分かるようになるわ」
そう言うと大人びた女性は部屋を後にした。