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世界的アイドル天音雫

「君に伝えるよ~私の覚悟を~~♪」


 歌が終わるとドーム中が歓声で溢れた。

今日は世界的アイドルである天音雫のライブの日だ。やっぱり天音雫の歌は最高だ。声が澄んでいて、それでいてかっこよさを持っている。天音雫はまさに天より舞い降りし天使、天女のような歌声にこの世の者とは思えない美しい銀髪、見るものを吸い込むような青色の瞳。高校生ながらまさに全人類のあこがれの的。

 もちろん私こと神崎葵も天音雫の大ファンだ。それはもう大ファンだ。デビュー当初からファンをやっていて今や天音雫で持ってないCDはほぼないといっても過言ではない。


「いや~最高のライブだったね~」


「すごくよかった!!葵に言われてきてみたけどまさかこんなにいいとは思わなかったよ!」


「でしょでしょ~!琴音ってば食わず嫌いが多いんだから~」


 今日のライブは無理言って友達の白川琴音と一緒に来ていた。琴音は中学校からの知り合いで高校でも同じクラスの一番の親友だ。


「葵はあんな感じのアイドルになりたいの?」


「もちろん!アイドルになるために今の学校にいるんだから」


 私の将来の夢はアイドルになることだ。

アイドルを目指し始めたきっかけは些細なことだった。ただ小さいころに見たアイドルがどうしよもなく格好よく見えただけ。でもきっかけはどうであれ熱意は誰にだって負けるつもりはない。私は今の学校を卒業してアイドルとして世界に羽ばたくと決めたのだ。


 

 天音雫のライブから一週間後、周りの人たちがライブの熱が完全に引いてる中、私だけはいまだに一週間前のライブの熱が一向になくなっていなかった。


「だからね~雫様といえばやっぱりあの歌声がいいんだよ。マジで私の一個上とは思えないよ」


「まったく葵は相変わらずだね…。話し出したら止まらないんだから」


「雫様のことなら何時間でも語れるよっ!」


「やめてやめて。流石に何時間も聞くのは勘弁…確かにこのライブはすごかったけど葵ほどの狂信者にはならないよ普通」


 いつものように琴音とアイドルについて語っているときだった。


「なになに~葵ちゃ~んまたアイドルの話してるの~」


「教えて教えて~私実はアイドルとかめっちゃ興味あるんだよね~~」


 クラスメイトのギャル二人が近づいてきた。この二人ははっきり言って苦手だ。ぱっと見はアイドルに興味がある仲間のようだが実は私のアイドル趣味を馬鹿にしてくる嫌な奴らである。


「なに?また私のこと馬鹿にするつもり?興味ないならどっか行って」


 私が攻撃的な言葉を放つとギャル二人は露骨に嫌そうな顔をした。


「なによ折角こっちが仲良くしてやろうってのになんなのその態度」


「ってか調子乗らないでくれる?あんたみたいなやつは私たちに逆らう権利ないと思うんだけど」


「ちょっといい加減にしてくれる?こうなったのは二人のせいでしょ?毎回毎回葵にひどいこと言って」


 ギャル二人に琴音が言い返してくれたことに喜びつつ何とか私はあふれ出てくる怒りを抑える。ここで怒ってはいけない。

ただでさえこんなオタク趣味を持っているのにここで変なことをしたらほんとにクラスでの私に対する目がとんでもないことになってしまう。


「大体アイドルなんて今時ばかばかしんだよ。あんなオタクどもをひっかるような商売をしてさ本当に気持ち悪いっ」


「は??」


「それな!どうせアイドルなんてオタクどもから搾り取った金で男侍らせてるんだよ、夢見てんじゃねえよ、そういうのはもう卒業しろっての」


「は????」


 そこまで言われて私の怒りゲージはマックスに達した。私の趣味をうだうだ言われるのはまだいい。だって私だって自覚があるから。だけども私の推しを馬鹿にするのは許さない。


「黙って聞いてたらあることないこと言いやがって!」


 ため込んでた何かがあふれ出る。すべてを放出してすっきりすることを脳が求めている。


「大体なお前らだって好きなことぐらいあるだろ!お前らはそれを馬鹿にされてうれしいのか!」


「あ、葵??どうしたの?なんだか怖いんだけど……?」


「自分が何を好きになろうが勝手じゃねえか!ましてやその対象を馬鹿にしやがってさぁ!いい加減卒業するべきなのはお前らのそういう舐め腐った根性だろ!!」


 言い切った……。自分の言いたいことを全て吐き出した。


「え、えぇ……なんかごめん。私らが悪かったよ」


 豹変した私を見て恐怖したのか、ただ単に気持ち悪くて引いたのかは定かではないが二人は何とも言えない顔のまま自分の席に戻っていった。


 その日からクラスの人の私を見る目は少しずつ変わっていった。今まで向けられていた目は軽蔑などの目。それが最近は受け入れられ始めているような気がした。

それもこれもあの二人を追い返したからなのだろう。


「にしてもなんだか不思議だね~」


「どうしたの葵?」


「いやなんだかさ、変だなって思って」


「何が変なの?」


「正直私あの時みんなから引かれるかなって思ってたんだよ。なのに……なんていうかさ、なんでか皆私に冷たくないっていうか…むしろみんな仲良くしてくれるじゃん?」


「う~ん、葵は顔は整ってるしあの二人からのロックオンが外されたからみんな話せるようになったとかじゃない?」


「そうなのかな?ってか顔が整ってるとか言わないで~照れるやいっ!」


 正直顔の良さで言ったら琴音には遠く及ばないと思う。それだけ琴音という人間は可愛いのだ。


「まあ何でもいいや、よ~し今日は雫様の新曲が公開されるから早く帰って聞くぞぉ~」


「葵は相変わらずだね~今度またライブ連れてってね」


「もちろん!またいつでも呼ぶね!!」



 その日の放課後のことだった。琴音とも分かれて一人で道を歩いてる時だった。

新曲を買ってうきうきしている私の前を見覚えの人が通っていった。


「あれは、雫様??」


 毎日見ている姿を見間違えるはずがない。アイドルだというのに変装もせずに堂々と歩いていた。

追いかければそれはストーカー行為になるかもしれない。それは犯罪になるのはわかっている。それでも私は好奇心を抑えれなかった。


 雫様を追いかける。雫様は私に気づいてないのか立ち止まることなく街を歩き続けた。町の人たちは何故か雫様を見もしない。世界的アイドルだというのになぜだれも見向きもしないのだろうか。

 

 しばらく追いかけて私は異変に気付いた。何故か雫様は路地裏に入っていったのだ。


「路地裏??なんで雫様がこんなところに」


 とりあえず何も考えずそのまま進んでいった。路地裏は光が届かず、外の音もどんどん聞こえなくなってる。なんだか犯罪者とか幽霊とかがでそうで怖くなってきた。


 完全に外の音が聞こえなくなった時だった。


「さっきから私を付けてるのは何者だ」


 雫様の声が聞こえてきた。だけど聞いたこともない声。普段のかっこいい声と違い怒気をはらんだ恐ろしい声だった。


「ご、ごめんなさいっ!!つい出来心でついてきちゃったんです!!」


「なんだそんなことだったのか。てっきり奴らかと思ってしまってな。すまなかった」


「いえいえ!全部私が悪いんです。……勝手についてきてこんなこと聞くのは申し訳ないんですけど奴らって何なんですか?それになんでこんなところに?」


「すまないがまだそれは話せない。もし君にその覚悟があるなら追って話すとしよう。すでに君にはその資格があるからな」


 覚悟?資格?私には雫様が何を言っているのか全く理解できなかった。話を聞いてみたらわかるのだろうか。


「私聞きたいです!何が何だかよくわからないけど私にもできることならやってみたいです!!」


 私がそう言った瞬間だった。


「舐めるなッ!!」


 普段テレビで見ている雫様からは到底想像できないほどの怒号がその口から放たれた。


「え……?」


「軽い気持ちで言うんじゃないッ!私たちはこの仕事に命を懸けているんだ!一度首を突っ込めば二度と戻ることはできない。命の保証なんて全くない危険な世界なんだッ!」


「………すみません」


 軽い気持ちで行ってしまったばかりに怒られてしまった。雫様のいる世界には何が起こってるというのだろう。とても気になるがきっと生半可な覚悟じゃ聞くことすら許されないのだろう。


「こちらこそすまない。少々熱くなりすぎてしまった」


「ぜんぜんっ!悪いのは私ですから……あははは……」


「そうか、気を使わせてしまって悪いな。ところで君、名前は何だ?」


「神崎葵です。私立幸兼高校の一年生です」


「かっこいい名前だな。知っているかわからないが私の名前は天音雫。アイドルをやっているものだ」


「も、もちろん知ってます!大ファンです!!」


 名前を聞いて実感が一気に押し寄せてきた。今私の前にいるのはあの憧れの雫様だと、世界的なアイドルであると。


「これも何かの縁だ。もしよかったらこの後カフェにでも───」


 雫様が何かを言いかけた時だった。

 突然雫様のスマホらしきものからけたたましい音が鳴った。


「すまない。急用が入ったようだ、もう一度どこかで会うことがあればその時は声をかけてくれ」


「分かりました。今日は会えてうれしかったです」


「そうだな、私も君のような人間に会えてよかった。またどこかで会えることを祈っている」


 それだけ言うと雫様は足早に去っていった。

いまだに信じられない、あの雫様に会えたことももう一度会いたいと言ってくれたことが。

 

 「生で見るとすごい綺麗でかっこよかったな……」


 私はしばらくその余韻に浸り続けるのだった。

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