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「何言ってるのよ…それより……」
「弥生……親父さんの事、思い出した?」
ジーッと私の目を見て来斗君が言った
あ……また……私の心を…
「よんだの?」
「……詠んだ……でも……俺の記憶の方が先に入って来た……俺、弥生の親父さんの事知ってたんだな…だから本能的に弥生には思い出して欲しくなかったのかも」
「来斗君」
「大丈夫なのか?頭痛くないか?キモチ悪いとか……俺の事なんて後回しで良いのに」
ペタペタと体や頭を触って確かめてる
これが大人の体だったら立派なセクハラだ
「来斗君っ……大丈夫……頭も痛くないし混乱もしてない」
「そうか」
「でも、病院には行こうと思う。ただ記憶は封印しない……今の私ならちゃんと向き合っていけると思うから……それより思い出したんでしょ?自分の事」
「あぁ……」
「じゃあ……」
「行こうと思ったよ、弥生が居る病室に」
「うん」
「でも行けなかった」
行けなかった…?
それってどういう…
「そんな顔するなよ、頭を強く打ったのも思い出したし……記憶も思い出してる」
「じゃあ……」
「なんかさ、スッキリしなくて」
「当たり前でしょ?元に戻ってスッキリするんだよ」
「そりゃそうなんだけど」
「先生、急いで下さい!」
「はい」
売店から楓先生と看護師が早足で通り過ぎて行く
どうしたんだろ?
「千春だ……」
「え?」
千春ちゃん?また容態が悪化したの?
「俺が素直に元に戻れない心残りだよ」
「ちょ……来斗君!」
心残りって……
それって千春ちゃんの傍に居たいって事?
私は来斗君が消えた場所を暫く見つめていた




