拗らせショタ王太子に「お前を愛することはない」と言われたので、推し活をはじめました
「ディートリンデ。本日、俺とお前は夫婦となったが、俺はお前を愛することはない」
国を挙げた結婚式が終わり、初夜を迎えるはずだった寝室で、夫となったこの国の王太子であるジークフリード様はそうおっしゃった。あどけなさの残るパッチリとした二重に囲われた大きな瞳が、冷ややかに私を見つめている。
ああ、ジークフリード様。睨みつけてくる様も、なんて愛らしい……などと、悠長に考えている場合ではない。
結婚式を挙げて早々、私たちは夫婦としての危機を迎えようとしていた。
思えば、こうやって真正面からジークフリード様と相対するのは初めてだった。
王家の証であるサラサラのプラチナブロンドに、宝石のような紫の瞳。それを囲む長いまつ毛に、陶器のようなきめの細かい肌。そして、私より少し目線の低い、可愛らしい背格好。
結婚式の時ですら不機嫌を露わにして、視線を交わそうとされずにひたすら避けられていたから、こんなに近くで、それも真正面から相対するのはとても新鮮だ。
ようやく向かい合うことのできたジークフリード様のお姿を、瞬きを忘れ、穴が開くほどにじっと見つめる。
うん。やはり、女の子のようで大変お可愛らしい。これで私と同じ十八歳というのだから、ジークフリード様を造形あそばした神に感謝しなければ。
しかも、今はいつものよそ行きとは違う、就寝前のラフな格好。こんなレアなお姿を拝見できるのも、ジークフリード様と晴れて夫婦となったからで……ただ、聞き間違いでなければ、ジークフリード様は先ほど私に向かって「愛することはない」とおっしゃった。
「それは……一体、どういうことでしょうか?」
煩悩と理性がせめぎ合う頭で、努めて冷静に精一杯言葉の意味を理解しようと問う。しかし、ジークフリード様はキッと鋭い表情を深めて、さらにお言葉を続けた。
「様々な事情でお前と結婚することになったが、お前を愛することは決してないということだ。俺はお前のように、キツくて態度のデカい女は嫌いだ。望み通り正妻の座はくれてやるから、好きにすればいい。その代わり、俺も好きにさせてもらう」
ジークフリード様のお言葉は、私としては衝撃というよりも『やはり』といった感覚に近かった。これまでの私への態度から、まあ、嫌われているだろうなとは薄々感じていたからだ。
しかし、この今のタイミングでのハッキリとした物言いに、小脇に抱えられた枕……まさか、結婚初夜だというのに、別々の部屋で寝るということだろうか。
「……しかし、それでは、王家の務めはどうなさるのですか?」
「お前が心配することではない。その内に、側室を迎えるつもりだ」
「側室……」
「そう、リリアンヌ嬢のような……お前とは正反対の、可憐で優しい女性を迎えたいと思っている」
ジークフリード様はそう言うと、私たちのために完璧に設えられていた寝室から、さっさと出て行ってしまった。その様子を呆然と見送り、一人残された部屋で立ちつくす。
事態を飲み込むのに少し時間がかかったが、ふと思い出して私が向かったのは、部屋の隅にあったドレッサーだった。
備え付けられた椅子に座り、鏡に目をやる。映るのは、今しがたジークフリード様に「嫌い」と言われた自分の姿。
ウェーブがかった艶めくピンクブロンドに、血のように赤く燃える瞳、そして、目力の強いつり上がった目元。
女性としては少し上背もあり、豊かな肢体も合わさって、我ながら実に迫力がある。それゆえか、ここ数年は『社交界の薔薇』とも呼ばれてきたが、総じてキツイ印象を与えがちな容姿だ。
正直、中身は全く違うのだけれど、そんなことを知るのは生まれ育った侯爵家の人間以外にいない。
とはいえ、この国の宰相を父に持つ侯爵家の者として、そしてゆくゆくはこの国の王妃となる者として、この見た目は人から侮られないという点で武器であるとさえ思っていたし、敢えてそのように振舞っても来た。けれど……
「まあ、リリアンヌ様とは、確かに全然違いますわね……」
ジークフリード様がおっしゃっていたリリアンヌ様は、『社交界の百合』と呼ばれている伯爵家のご令嬢だ。
絹のようなシルバーアッシュの髪に、常にふんわりと穏やかな笑顔を浮かべ、小柄で愛らしく、たおやかな印象のご令嬢。そう……まさに、私とは正反対の存在。
あまり体が丈夫ではないということで、滅多に社交界に姿を見せないものの、男女問わず彼女のファンは多い。さきほどリリアンヌ様の名前を出してきたジークフリード様も、彼女のファンの一人ということなのだろう。
鏡に向かって小さくため息を落とし、改めて部屋を見渡す。一人ぼっちの寝室は、実際以上に広く感じた。
ゆっくりと立ち上がって、綺麗に整えられていたベッドに向かい、ゴロンと横に寝ころぶ。
十四の頃に婚約して、四年。
そもそもは、王家の方から婚約の打診をいただいたことが、全ての始まりだった。
我が侯爵家は、建国から存在する歴史ある家だ。
資源の豊かな領地に恵まれるだけでなく、近年では他国との貿易にも成功して、他の家と比べても頭一つ以上抜きんでて財を築いている。それは王家をも凌ぐほどと言われており、私とジークフリード様の結婚には、両家の様々な思惑があっただろうことは想像に難くない。
私自身としては、当時は他の夢見るご令嬢達と同じく、身も心も燃えるような恋愛結婚に憧れてもいたけれど、貴族の端くれであるからには政略結婚もやむなしと、ジークフリード様との婚約を受け入れた。
それどころか、婚約後、年を経ても変わらず可愛らしいお姿のジークフリード様を、密かにお慕いしていたのだ。
今思えば、この四年間は妃教育に自分の派閥作りにと、まさに息注ぐ暇もない日々だった。それも全ては、結婚後、ジークフリード様を誰よりも間近で鑑賞し、慈しむため。
その第一歩である初夜を、心から楽しみにしていたのに……それは、先ほどのジークフリード様からの拒絶の言葉で、全て儚く散ってしまった。
感情を極力表に出さないように気を付けてきたけれど、流石に今回のことは、これまでの頑張りや自分の存在意義を否定されたようで堪える……と、天井を見つめたまま、僅かに下唇を噛む。
涙が昇ってきそうな感覚に視線を揺らしていると、ふと、ベッドサイドのソファーに置かれていたぬいぐるみが視界に入った。
それは、この綻び一つない部屋に似つかわしくない、少しくたびれたウサギのぬいぐるみ。
ジークフリード様との結婚に当たり、私がこっそり持ち込んでいたものだ。
我が侯爵領で、『幸運をもたらす』と言われるウサギ。
領民はみな、何かしらウサギを象ったものを持っているといわれている程、我が領では身近かつ大切な存在で、当然のことながら、侯爵家の家紋にもウサギの意匠が入っている。
このウサギのぬいぐるみは、私が生まれた時に両親が私のために準備し与えてくれたもので、以来、片時も離れずに、親友のように、妹のように、常に寄り添ってくれていた。
「ああ、ミミちゃん……片耳が折れて、心なしか、あなたまで悲しげに見えるわ……そうよね。昨日、あれだけ興奮しながら、今日のことをミミちゃんに話していたのに、こんなことになってしまったものね」
ベッドからそっと起き上がり、ミミちゃんを迎えに行く。
抱きしめたミミちゃんはふんわりと柔らかく、心にできた穴を優しく埋めてくれるようだった。
「心配してくれて、ありがとうね。大丈夫よ。正直、薄々感じていたこともあってか、思ったほどショックではないの。ただ……あそこまでハッキリと拒絶されてしまった以上は、もう今まで通りにジークフリード様をお慕いするのは少し難しそうね」
今まで、ジークフリード様との結婚後の生活を夢見て頑張ってきたけれど、「好きにすればいい」だなんて、これから私は一体、何を心の拠り所にして生きて行けばいいのだろう……
沈む気持ちに少し俯くと、私の気持ちに呼応したような、切なげなミミちゃんと目が合った。
ミミちゃんの、黒翡翠の瞳に映る自分の姿。これがせめて、ジークフリード様やリリアンヌ様のように可愛らしい姿であったならば、少しは気が晴れただろうに……
……と、その時。
まるで天啓を受けたかのように、私の脳裏にひとつのアイディアが浮かんだ。
「……ちょっと待って。好きにしていいと言うのならば、本当に好きにしちゃっていいんじゃない? 正式に王太子妃となった今、もう本当の自分を隠す必要は、ないんじゃないかしら」
あまりにも見た目とのギャップがあるがゆえに、これまでずっとひた隠しにしてきた私の秘密。
それは、可愛いものが……特に、可愛らしい女の子が、大好きだということ。女の子に恋愛感情があるというわけではないけれど、とにかく可愛らしい、キラキラとした女の子たちを眺めるのが大好きだった。
「ジークフリード様がダメなら、他に推しを見つければいいんじゃない? いえ、せっかく王太子妃になったんですもの。いっそ、私好みの推しを育てるのも良いかもしれないわ!」
♢♢♢
「ディートリンデ様、今一度お伺いしますけれども、正気ですか?」
翌朝、つつがなく部屋に運ばれてきた一人分の朝食を早々に取り終えた私は、逸る気持ちを押さえながら、何食わぬ顔で侍女長を呼んだ。それも、昨夜、夜通しミミちゃんと語り合ったアイディアを、早速実行に移すためだ。
しかし、勇んで伝えるも、きっちりと髪をお団子に結い上げた侍女長は、眼鏡をくいっと上げながら私の言葉を聞き直す。
その後ろでは、初夜がなかったことに気付いた侍女たちが、心配するような眼差しでこちらの様子を窺っていた。もしかしたら、悲観した私が、感情のままに思いつきで言っているのかと考えているのかもしれない。
「ええ、侍女長。私は正気よ。私の『侍女見習い』を、広く国民から募集しようと思っているの」
変わらぬ私の言葉に、また侍女長がくいっと眼鏡を上げる。そして、ほんの少しの静寂の後、眼鏡の奥で僅かに目を細めたかと思えば、小さくため息をつきながら言った。
「……デュートリンデ様は重々ご存知のことと思いますが、王家の侍女は、由緒正しい高位貴族のご令嬢が務めることとなっています。平民が王家の侍女になるというのは、これまでの歴史上、一例たりともありません」
「ええ、もちろん知っているわ。だから、『侍女』はこれまで通り、貴族のご令嬢方になっていただくとして、今回、平民から募集するのは、あくまで『侍女見習い』よ。私、王太子妃として、平民の……特に、女性の教育に尽力したいと思っているの」
もちろん、これには新たなる推しを発掘し、育てたいという私の邪な考えがある。
貴族女性に関しては、もうほとんど、これまでの社交などで知っていて、既に密かな推しもちらほらいる。今回は、さらなる推しの原石を探すべく、平民にまで手を広げようというものだ。
しかし、平民女性の教育に尽力したいというのも、また私の偽らざる本心だった。
この国では、女性の地位は男性に比べてずっと低い。
それは識字率が五十パーセントにも満たない平民においては、特に顕著だった。
教育が優先されるのは男性というのが習わしで、そのためか男性は様々な職業選択の自由があるにもかかわらず、女性がなれるものは良くて下級貴族の侍女。それ以外のほとんどが、女中や洗濯女だ。それらは信じられないほどの低賃金で、女性の中には生活するために体を売るものさえ少なくない。
侯爵領では私の願いもあって、すでに平民女性への教育と地位向上に力を入れ始めていたものの、それ以外の領地では未だこの問題は捨て置かれたままだった。
未来の推しの笑顔のためにも、平民女性への教育は必須であり、私にとって最優先事項だ。
自他ともに認める迫力のある目力を持って、静かに、そして有無を言わさぬ圧を与えながら侍女長を見つめれば、鉄の女と呼ばれる彼女もたじろいだ様に視線を泳がせる。
ジークフリード様……あなたが昨夜おっしゃったように、私、好きにさせてもらいますわ!
「募集するのは十歳から十四歳くらいの少女よ。ちょうど、働きに出始める年の頃の女の子。まずはその子たちを、二十人ほど侍女見習いとして採用します。急いで準備し、国中に告知を出してちょうだい」
♢♢♢
王太子妃の侍女見習いを平民から募集するという、前代未聞の告知が出されてからから、およそ一月後。
王城のとある一室に、採用となった少女たちが集められていた。
どの少女も一様に土で汚れた黒い肌に、継ぎはぎだらけの貧しい身なりをしている。
その姿は、煌びやかなこの王城からは明らかに浮いていて、みな体を縮こませ緊張した面持ちだった。……が、よくよく見れば、粒ぞろい。どの少女も、整った顔立ちに、多種多様な個性を有した原石たちばかりだ。
立場上、最後に入室した私は、磨きがいのある少女たちの姿を眺めて、満足げにひとつ頷く。
そして、ゆっくりと檀上へと進み、一人一人の表情を改めて確認したあと、できるだけ怖がらせないように注意を払いながら言葉を発した。
「みなさん、よく来てくださいましたね。私の名前はディートリンデ。この国の王太子妃で、あなたたちの雇用主です。みなさんには、これから私の侍女見習いとして働いていただくこととなります。どうぞ、よろしくね」
そう、私としては最大限ににこやかに挨拶するも、目の前の二十人ほどの少女たちは一様に固まった様子で、その場はシーンと静まり返ってしまった。よく見れば、半分以上が私が部屋に入った時以上に青褪め、微かに震えている子までいる。
やはり、私の見た目は怖いのだろうか……と少しショックを受けるも、ここで諦めてはいけない。
この子たちは侍女見習いではあるけれども、既に私の推したちでもあるのだから。
ただの侍女見習いであれば、恐怖を抱いた関係性のままでも別にいいかもしれないが、私はもう、推しを心ゆくまで愛でると決めたのだ。ゆえに、私たちが築き上げるべきなのは、恐怖による関係でなく信頼関係の方だろう。
というか単純に、私は可愛い女の子たちのキラキラとした笑顔を見たい。それこそが、『侍女見習い』なんてものを作り出した、原動力そのものなのだから。
そのためには、私に少しでも心を開いてもらいたいところなのだけれど……さて、どうしたものか。
そう、固まる少女たちを前に思案していると、部屋の隅でミミちゃんを抱いて控える侍女の姿が目に入った。
私は光明を得たりと、高らかに声を発する。
「……! ミミちゃんをこちらへ!」
しかし、私が声を向けたはずのその侍女はポカンとした表情で、周りの侍女たちと同様に、ただこちらを見ているだけだった。
……はて。何か、おかしなことでも言ってしまったのだろうか。
はっ! そういえば、私、ミミちゃんの名前を侍女たちに言っていない!
もう隠す必要はないだろうと、侯爵領の習わしとして、幸運をもたらすウサギのぬいぐるみを持参していたことは侍女たちに伝えた。
しかし、そのぬいぐるみにミミちゃんという可愛い名前を付けていることや、よく話を聞いてもらっていること、そして今でも毎晩抱いて寝ていることなどは、まだ言えていなかった。
だって、それを口に出すということは、この十八年間、苦労して築き上げてきた私のイメージを自分で崩すということに他ならない。
見た目とのギャップがかなりあることを自覚しているだけに恥ずかしさもあるし、さらには、一体どんな反応をされるのか、不安で仕方なかった。
……でも、そうだ。
心から信頼される関係を目指すというのならば、私の秘密は打ち明けるべきなのだ。それは、侍女見習いたちだけでなく、今すでに私に仕えてくれている侍女たちに対しても同じことだった。
みな呆気に取られて、まるで時が止まったかのような、この場。
それが徐々に、侍女たちの「ミミちゃんってもしかして……」という囁き合いで満たされはじめる。ミミちゃんを抱いていた侍女が、まさかといった表情で私を見つめていた。
その侍女の元にゆっくりと歩いていき、ついに言った。
「……伝えるのが遅くなってしまって、ごめんなさいね。この子の名前は、ミミちゃんというの。私の……親友なのよ」
自分でも顔が一気に熱くなっているのを感じながら、目を見開き固まる侍女の手から、静かにミミちゃんを受け取る。
そして、また元の壇上へと戻ると、みなの視線が私に集まっていた。
ああ。みんなが困惑しているのを感じる……
でも、これは、これからのために必要なことだ。頑張れ、私。もう、後戻りはできないのだから、この勢いで、行くわよ!
「……実は私、可愛いものが大好きなの。それは、このミミちゃんもそうだし……あなたたちに対しても、みんな本当に可愛らしいと思っているわ。そして、可愛いみんなには常に笑っていてほしいの。そのために、私はあなたたちを守り、教育を与え、大切に育てることを誓うわ」
少女たちだけでなく、壁際に控える侍女たちも固唾を飲んでこちらを見つめている。それほどまでに、みな私の言葉に真剣に耳を傾けてくれていた。
そして、私はさらに言葉を付け加える。それは、私の心からの願いだ。
「私を信じて仕え、様々なことを学び……そしてゆくゆくは、学んだことを他の女性たちへと伝えていってほしいと思っているの。この国の女性たちの笑顔と地位向上のために、私に力を貸してちょうだい」
♢♢♢
あの日、私の秘密と思いを打ち明けてからというもの、私を取り巻く環境はガラッと一変した。
侍女見習いたちはまだ幼いこともあり、特に後半部分の内容はあまり理解できていないようだったが、一番変わったのは、これまでも私に仕えてくれていた侍女たちだった。
正直、平民から侍女見習いを採用するというアイディアを出した時、表立った反対意見はなかったものの、彼女たちにとってそれは、受け入れ難いことだったに違いない。
侍女たちはみな貴族……それも高位貴族の出身で、平民はこれまでの人生で視界に入らないくらいの、遥か下の存在だったからだ。それなのに、見習いとはいえ同じ空間で共に働くなどと、簡単に受け入れられるはずがない。
だが、『女性の笑顔と地位向上のため』というのが殊更響いたようで、貴族と平民という括りではなく、同じ女性として、侍女見習いたちの面倒を積極的に見てくれるようになったのだ。
私が指示するまでもなく侍女見習いたちに教育係として付き、侍女としての仕事を教えてくれるばかりでなく、音楽や絵画といった教養についても、本人たちの素養を見ながら手ほどきをしてくれた。
侍女見習いたちも、最初は委縮していたようだけれど、侍女たちの方から歩み寄ってくれたおかげで、すぐに馴染むことができたようだ。幸い素直な子たちばかりで、教えられたことをきちんと学び、実直に努力を重ねてくれた。
私はといえば、彼女たちが少しでも過ごしやすいように環境を整え、時に敵意を排除しつつ、王太子妃の権力を最大限に利用しながら私なりのサポートを行ってきた。もちろん、ミミちゃんと相談しながら。
一年が経つ頃には、私や侍女たちの期待通りに……いや、それ以上に、侍女見習いたちは立派に成長していた。
さらには、もはや当たり前かのように見られるようになった、侍女と侍女見習いたちが互いに尊重し合い、協力し合う姿。推したちの仲睦まじい姿をこの目で見ることができて、私は何度神に感謝したことか分からない。
そして、これも予期せぬことだったのだが、私のこの取り組みが社交界でも評価され、いくつかの領で取り入れられるようになっていた。それは、侍女たちの実家からはじまり、同じ派閥の家へと徐々に広がっていったようだ。
元々は『心ゆくまで推しを愛でたい』という邪な考えが発端だっただけに、どこへ行っても与えられる賞賛に、複雑な気持ちだった。しかし、それが結果として推しの笑顔に繋がるならまあいいかと思い、彼女たちの忠誠への感謝を口にしながら、甘んじて受け入れた。
一人前以上に成長したキラキラと輝く推したち……もとい、侍女見習いたちと侍女たちの姿を、心置きなく堪能する。そんな素晴らしい日々を過ごしていた、ある日。それは、唐突に訪れた。
「おい! ディートリンデ、これは一体どういうことだ!」
それは、あの初夜以来、久しぶりに話しかけてきたジークフリード様だった。
怒っておられるような、慌ててらっしゃるような、荒ぶったご様子でノックもせずに私の私室に押し入り、ドカドカと大股歩きでこちらに向かって来る。
「ジークフリード様。急に……一体、どうしたというのですか?」
「お前が、色々好き勝手やっているというのは聞き及んでいる。だが、これは一体どういうことだ!?」
バッと勢いよく突き出された右腕。その手には、一通の手紙が握られていた。それはすでに、開封されているように見える。
「俺の再三に渡る誘いは、全て素気無く断られているというのに……どうして、リリアンヌ嬢からお前宛に、茶会の誘いがあるのだ!」
♢♢♢
「私の誘いをお受けいただき、誠にありがとうございます。ディートリンデ様」
「いえ、リリアンヌ様。私も、あなたとは一度、お話してみたいと思っていたのです。あなたからお誘いいただけて、とても嬉しいですわ」
約束の日。
王都にある伯爵家のタウンハウスの庭に設けられたガゼボで、私はリリアンヌ様との二人きりのお茶会に参加していた。
爽やかな気候に恵まれ、王城の庭と同じかそれ以上に美しく咲き誇る花々も、リリアンヌ様の前では心なしか少し陰って見える。
それもそのはず。間近で見たリリアンヌ様のお姿は、まさに、この世のものとは思えないほどに美しかった。
美しいシルバーアッシュの髪は、柔らかな日差しを受けてキラキラと輝き、透けるような白い肌に、色付いた頬や唇の淡い赤が良く映えている。
お話しすること自体初めてだけれども、やはり、どこからどう見ても華麗な美少女だなと、リリアンヌ嬢の姿に思わず見惚れながら思った。
正直、ジークフリード様の件さえなければ、私の推しの一人となっていてもおかしくないほどだ。
というか、まだジークフリード様と結婚する前。たまにリリアンヌ様をお見かけした際には、思わず目で追ってしまうくらいには、私も彼女のファンの一人であったのだけれど。
しかし、みなの関心を一身に集めていたリリアンヌ様ではあるものの、体が丈夫でなく、なかなか領地からお出にならないために、こういったお茶会に参加されたという話はほとんど聞いたことがなかった。
それどころか、今回は主催という立場だ。だからこそ、リリアンヌ様からのお誘いの手紙を持ってきたジークフリード様が、あんなにも慌てていたわけで。
……さて、一体、どんな用件だろうか?
そう、様子を窺いながら、注がれた紅茶を静かに啜る。
今回のお茶会に供として連れてきたのは、私の侍女見習いの一期生として仕えてくれている、ミーアとネロの姉妹だ。
様々な知識と教養を身に着け、他の一期生の子たちが地元に戻って平民女性の教育に尽力しはじめてくれる中、私の傍に残ることを選んでくれた二人。
一期生の中でも特別優秀な二人で、今では、第二期として新たに侍女見習いとなった後輩たちに率先して指導をし、貴族からなる侍女たちとの橋渡しの役割をしてくれるなど、侍女見習いだけでなく、侍女たちや、あの侍女長からも一目置かれている。
どこに出しても恥ずかしくない私の自慢の侍女見習いで、しっかりものの姉と要領の良い妹という、姉妹の絡みも楽しめる美味しい推したちだ。
「……この方たちでしょうか。ディートリンデ様が手ずからお育てになったという、侍女見習いというのは」
私のお茶のお代わりを注いでくれる姉のミーアに視線を向けながら、リリアンヌ様がおもむろに言葉を発した。
リリアンヌ様の後ろには、スラッと背の高い従者が控えている。長めの栗色の髪を後ろで一つ結びにした、美しいという表現が似合う美青年だ。
「ええ。この子たちは私が最初に育てた子たちですの。私によく仕えてくれて、本当に感謝していますわ」
「そうですのね。ディートリンデ様のご活躍は、私も聞き及んでおります。とても素晴らしいことですわ」
そう言って微笑んだリリアンヌ様の、ふわっと百合の花が咲いたかのような可憐な笑顔に、こちらも少し照れる。
噂通りの可憐で優しい方のようだ。少し警戒を解いて私も笑顔を返すと、目が合ったリリアンナ様から、ふと微笑みが消えた。
「……私、ディートリンデ様には、本当に感謝していますの」
それは、真剣な表情で、まるで振り絞るような声だった。
変わった雰囲気に、これが今回のお茶会の本題なのだと察し、慎重に続きの言葉を待つ。
「私……実は、女性が好きなのです」
「ぶッ! え!? それは……えっと、そう意味で、ですの?」
「ええ、そういう意味で、です」
それは私の想像の、斜め上を行く告白だった。
てっきりジークフリード様の話かと……
いや、ジークフリード様は、かねてからリリアンヌ様へ側室の打診をしていらっしゃるようだから、全く関係ないというわけではないけれど……リリアンヌ様の恋愛対象は男性ではなく、女性。それは衝撃的な事実だった。
でも、そうか。ジークフリード様に関わらず、リリアンヌ様はこれまで、あまたの求婚をすべてお断りされているとは聞いていた。それは、体が丈夫でないからという理由だったけれども……なるほど、そういう事だったのか。
「体が弱いことを理由にして社交界にも出ず、頑なに求婚をお断りし、ひたすら自室でそういった本を読み漁り、妄想を膨らませる日々でした。そんな時でしたの。王太子妃となられたディートリンデ様が、平民の子女に教育を与え、麗しき女の園を築いているという噂を耳にしたのは」
賞賛ばかりされてきたけれど、そんな噂も出回っていたのかと、これまた衝撃を受ける。
でも、それ、正解だから何も言えない……
「ディートリンデ様に影響され、多くの領で子女への教育が始まりましたわ。いち早く取り入れた領では、女性の地位が向上するとともに、景気も活気づき始めているとか。社交界に疎い私にも、ディートリンデ様の功績を称える声が多く上がっていると聞き及んでいます」
そうなのだ。
実際に王都でも、侍女見習いの話を聞いた女性たちが自ら文字を学びだし、以前より活気が出てきたと聞いている。
また、多くの女性たちが私を支持してくれるようになっていて、その人気は、王家の中でも一位,二位を争うほどとも。ちなみに、少なくともジークフリード様より人気があるという。
「私も、自室で腐らせるだけではいけないと、我が領での女性教育をお父様に提案し、私がその責任者として采配を振るいましたの。そのお陰で……私は、心から愛する人を得ることができました」
リリアンヌ様はそう言って、頬を少し赤らめながら、チラリと後ろを振り向いた。
その視線の先にいたのは、あの見目麗しい従者だった。互いに視線を交わし、微笑み合う姿はまさに恋人同士のそれだ。
てっきり男性なのかと思っていたが、よくよく見れば背の高い女性だと分かる。彼女は男装している女性……いわゆる男装女子だったのか!
「……彼女は、私が夢見た理想そのものなのです。両親も私の想いを尊重してくれて、大変に喜んでくれていますわ。本当に、ディートリンデ様には何とお礼を申し上げればいいか。ささやかで大変恐縮ではございますが、私の忠誠をディートリンデ様に捧げることを、ここにお誓いいたしますわ」
♢♢♢
あれから、リリアンヌ様とはお友達としてたまにお茶会を開き、親睦を深め合うということで話が付いた。
忠誠を誓ってくれたリリアンヌ様は、むしろ主従のような関係を望んでいたようだが、そういうのは私に既に仕えてくれている侍女や、侍女見習いたちだけで十分だ。
それに、私の中ではリリアンヌ様(と、その恋人の男装女子)も晴れて推しとなったので、主従なんて関係よりも友達ポジションの方が私としては美味しい。
女性が恋愛対象であるというリリアンヌ様に、どれくらいの距離感でいたらいいのか少し迷うものの、あの二人の熱い視線……恋愛にキラキラした推したちを、目の前で眺められる。しかも、友達として二人の話を聞ける。と考えるだけで胸が高鳴ってきた。
リリアンヌ様とのお茶会を終えて王城へと帰り、今後の推し活に思いを馳せながら上機嫌で自室の扉を開ける。
するとそこには、ミミちゃんがいるソファーに腰を下ろし、イライラしたご様子のジークフリード様がいらっしゃった。
「遅い! 一体、いつまで俺を待たせるつもりだ!」
「え? ジークフリード様、いらっしゃったのですか? 申し訳ありません、どのようなご用件でしょうか?」
「……先ほどまで、リリアンヌ嬢とお茶会をしていただろう」
「ええ。それはそれは、楽しい時間でございました」
「……俺のことを、リリアンヌ嬢は何か言っていたか?」
何故? と言おうとしたところで、はたと気づいた。
ああ、そういえば、リリアンヌ様が男性にご興味ないということを、ジークフリード様はまだご存じでらっしゃらないのか。
と言っても、私も知ったのはほんのつい先ほどのことだけれど……二人の仲睦まじい様子と、その後のリリアンヌ様との濃いお話に、ジークフリード様がリリアンヌ様を側室に迎えたがってらっしゃることは、記憶の彼方にすっかり消えてしまっていた。
今後来る求婚には、「心に決めた人ができた」としてキッパリと全てお断りするとリリアンナ様は言っていた。つまりは、そう遠くない未来、ジークフリード様の恋心は、完全に打ち砕かれることになる。
それを今、私から言うのは野暮というものだろう。
「いいえ、特に何も」
とだけお返すると、ジークフリード様は分かりやすく落ち込んだ様子を見せていた。
まあ、実際には、リリアンヌ様からジークフリード様のことを、たくさん聞かされていたわけだけれども。
どうも、これまでジークフリード様がリリアンヌ様に側室の打診をされたのは、実に十回以上にも上るらしい。
そのたびに、ジークフリード様はリリアンヌ様のことを、「妖精のように可憐だ。小柄で可愛らしい」とほめそやし、逆に私のことを「俺よりデカい女。威張っていて鼻につく」などと貶していたという。
「ジークフリード様がおっしゃることは、とにかく見た目の事ばかり。けれど、あのお方には人を見る目はございませんわ。だって、私のことを、優しくて穏やかだと思っていらっしゃるのだから」
そう、クスクスと笑いながら話していた、リリアンヌ様の姿を思い出す。
リリアンヌ様もまた、私と同じように見た目を武器としていて、可憐で優しげな見た目とは裏腹に、中身はたいそう強い女性だった。
ジークフリード様と同じく、「優しそう」と見かけから簡単に思ってしまった私も反省せねば……
そして、リリアンヌ様は私に、何故、ジークフリード様がそれほどまでに見た目に囚われていのかを教えてくれた。
それは恐らく、ジークフリード様のコンプレックス。
ジークフリードなどと言う勇ましい名前にも関わらず、小柄で、女の子のような見た目のジークフリード様。
女性が軽んじられてきたこの国では、逆に、男性は勇ましさが美徳とされていた。それゆえに、見た目に大きなコンプレックスを抱いてしまったのではないか、と。
自分よりも背が高く、威厳のある者を必要以上に貶し、逆にか弱い見た目の者を殊更褒める。それも全ては、自分のコンプレックスを刺激する者を排除し、心の安寧を保つため。
でも、それは単なる甘えだ。
結局、中身こそが重要なのだから。
私には今、たくさんの推したちがいる。
みんな、それぞれに可愛い子たちばかりだ。
けれど、推しを推している理由は見た目だけではない。素直な性格、ひたむきに努力する姿、それら内面から滲み出る、キラキラと輝く笑顔が素敵なのだ。
私もまた、あの時中身をさらけ出し、ひたすら推しの笑顔のために尽力してきたからこそ、今があるのだと思っている。
あのお茶会で楽しいひと時を過ごした後、リリアンヌ様は別れ際に私に言った。
「私がお友達となったことで、一気にディートリンデ様の派閥は拡大し、一大勢力となることでしょう。私でなくても、ジークフリード様の側室の打診を受けるご令嬢は、今後、この社交界には誰一人としておりませんわ。ジークフリード様は王太子でらっしゃるので、王家の務めから決して逃れることはできません。ジークフリード様が泣いて許しを求めにいらっしゃるのを、ゆっくりと待ちましょう」
♢♢♢
ある日、私の私室の扉を、誰かがノックする音が聞こえた。
「……俺だ。今いいか」
「ジークフリード様!? こんな夜更けに、一体どうされたのですか?」
それは、とうにネグリジェに着替え、今日もつつがなく推したちの幸せな笑顔を満喫できたことを、ミミちゃんと共に神に感謝していた時だった。つまりは就寝間際だ。
ジークフリード様の突然の来訪に、慌てて扉を開けようとドアノブに両手を掛けるも、扉の向こうから制止される。
「ま、待て! まだ、扉は閉めたままでいい」
「え……? よろしいのですか?」
「ああ……」
わざわざ足を運んで下さりながら、扉を開けるなとはどういう事だろう? そうでなくても、これまではノックもせずに入ってきていたというのに……
いつもらしくないジークフリード様のご様子を不思議に思いつつも、言われた通りに扉は閉じたまま、扉越しに会話を続ける。
「その……今日は、お前に謝罪をしに来たんだ」
それは、私が知るジークフリード様からは、考えられないお言葉だった。
「お前を愛することは決してない」と拒絶された、あの初夜の日。それから、実に二年近くが経とうとしていたが、このようなご様子は初めてのことだ。
「……少し前、リリアンヌ嬢から側室の打診をキッパリと断られたのだ。それはもう、一縷の望みも残さないほどにハッキリとな。で、その時。俺は人の見た目しか見ていないと、強く非難された。あの、穏やかで可憐なリリアンヌ嬢からだ。そして、リリアンヌ嬢自身も、俺が思っているような性格ではないと言われた」
実は、リリアンヌ様がジークフリード様の打診を完全にお断りされたということを、私は既に知っていた。というのも、あのお茶会の一月後、私たちはまた二人のお茶会を開いていたからだ。
その時にリリアンヌ様が、「また懲りもせず打診してきましたから、今度はこっぴどく振ってやりましたの」とおっしゃっていた。
しかし、それは今からかれこれ、半年ほど前の話。
もはや少し前ではないのでは……と薄っすら思うも、まあ、ここに至るまでにジークフリード様の心の内では、きっと様々なことがあったのだろう。
「……リリアンヌ嬢に一喝されて、ようやく気付いたんだ。俺は見た目というものに拘り過ぎて、内面を見てこようとしなかったということを。そして、そのせいで俺は、これまで大切なことを見落としてきたのではないだろうか、と。そう疑念が生まれた時、一番に思い浮かんだのが、ディートリンデ……お前だった」
思いもしなかったジークフリード様のお言葉に、あの日、心の奥底に沈めたはずの私の中の何かが、ドクリと跳ねる。
「正直、お前の活動も、俺への当てつけとしか思っていなかった。けれど、先入観を捨てて改めて色々な声を聞いてみると、それらの活動は、純粋に女性たちの笑顔のためにやっていることなのだと感じた。素晴らしいことだ」
「ありがとうございます……」
扉の向こうから聞こえてくる素直な賞賛のお言葉に、思わずそう返す。
これまで聞いたことの無いような、ジークフリード様の温かいお声。それを一つも漏らさぬよう、壁に耳を近づけながら注意深くお話を伺う。
「……お前は、態度がデカくも性格がキツくもなかった。ただの……可愛いものが大好きな、素敵な女性だったのだな」
その言葉を聞いた瞬間、私の頬を涙が流れた。
あれから、たくさんの推しに恵まれた。
それでもなお、私の心にはどこか隙間が空いたようだった。それが今、徐々に満たされていくのを感じる。
「この二年、俺は自身のコンプレックスと勘違いで、お前を深く傷付けてきた。ただ言葉で謝って、許されることでもないとも思っている……かつてお前は、自身の秘密を打ち明けることで、侍女たちに誠意を見せたそうだな」
私が自分の秘密を、初めて侯爵領以外の人に打ち明けた時のことだ。
ミミちゃんを通じて、可愛いもの好きであること打ち明け、みんなの笑顔を守ることを誓った。
……まさか、ジークフリード様もあの時の私と同じようにして、私との関係改善を望んでくださっているということなのだろうか。
「……お前にだけ、俺の秘密を明かそう。これが、俺の誠意だ。扉を開けてくれないだろうか?」
喉が小さくゴクリと鳴った。
そして、ドアノブにかけていた両手を強く握りしめ、ひとつ深く息を吐き、ゆっくりと扉を開ける。
そこにいたのは……ドレスを着た、可愛らしい女性姿のジークフリード様だった。
「ディートリンデ、これまで本当にすまなかった。俺も、今まで誰にも言えなかったのだが……実は、俺自身、自分のことをそこそこ可愛いと思っていた。美容とか女性の可愛い服も好きで……こんな風に、隠れてこっそり着たりしていたのだ」
まつ毛が長い、肌が美しい、女の子のように可愛らしい、なとどこれまで確かにジークフリード様に感じていた。神の御技だと何度も感謝していたが……まさかジークフリード様は、女装男子だったということか!
ただ、目の前に現れたまるでお人形のような美少女。ここまでの美しさがあれば、それはもう、そうと納得せざるを得ない。
ジークフリード様の女性姿は、リリアンヌ様にどこか似ていた。可憐で、妖精のような、小柄な美少女。
もしかしたら、ジークフリード様はそういった点でもリリアンヌ様に執着してらっしゃったのかもしれない。
そして、そんなリリアンヌ様からのて痛い言葉は、ジークフリード様にとって私の想像以上にショックでらっしゃっただろうとも感じた。
「どうか、許してもらえないだろうか」
上目遣いにそう言われれば、許すしかない。
だって……ジークフリード様は、今も昔も変わらず私の『最推し』なのだから。
「ジークフリード様から謝罪があった際には、ディートリンデ様はどうなさるのですか?」
リリアンヌ様がかつて私に問うた言葉が頭をよぎる。
私は、その時に返事したことをただ繰り返した。
「なんということはありません。私にとってジークフリード様がすることは全て好ましく、私はただ、ジークフリード様の全てを受け入れるだけですわ」
互いの秘密を共有した二人は、これまでの不仲が嘘のように仲睦まじく寄り添いながら、共に素晴らしい活動を行なった。
それらは主に女性のためのもので、当時としては画期的なものだったという。
ジークフリード様の治世では女性の地位が急激に向上し、女性の活躍が目覚ましく、これまで以上に国は発展していった。
二人はまた多くの子宝に恵まれ、国民の支持を得ながら末長く幸せに暮らしました、とさ。
おわり
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