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最後の任務  作者: 内藤晴人
── Ⅶ ──

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21/29

別れ

 薄暗い廊下でジャックを待っていたのは、覇王樹(ば・わんじゅ)主任研究員だった。

 しかし、その顔にはいつもの斜に構えたような笑みは無い。

 いつになく深刻な口調で、彼はジャックに告げた。


「もう使い物にならないから、左腕の肘下は切除しておいた」


 本人と話す? と問われて、ジャックはためらいながらもうなずく。

 了解、と短く答えると、王樹は先に立って歩き出す。

 やがて、無機質に並ぶ扉の前で足を止めると、その内の一つをノックした。


「……エド、起きてるかい?」


 その声に応じるかのように、扉は音もなく開いた。

 やはり薄暗い照明に浮かび上がるのは、ベッドに半身を起こしてこちらをうかがう男性の姿だった。

 その身体は、無数のコードでベッドの傍らに置かれた機器に繋がれている。

 ジャックは重い足取りでそちらに向かうと、それらが示している数値を一通り確認する。

 そして、現状を本人に説明しようと向き直ったとき、男性は右手を軽く上げてそれを遮った。


「聞かなくてもわかるよ。……あまり良い状態じゃ無いんだろう?」


 そう言って微かに笑う男性。

 その顔を正視することができず、ジャックは深く頭を垂れる。


「済まない、エド……。自分があの時、ニックを止めていれば……」


「君が謝ることじゃないよ。……それよりも」


 一旦言葉を切り、エド……かつてエドワード・ショーンとしてこの世に生を受け、現在はDollのNo.5と呼ばれる存在は、ジャックの顔をのぞき込む。


「一体何が起きているんだい? 簡単に覇研究員から話は聞いたけれど……」


 ルナの惑連及び軍、政府、そして警察。

 三カ所のシステムが同時に落ちようとしているなどということは、通常起こり得るはずもない。

 それが起きたとなると、何らかの人為的な手が加わったという事になる。


 真実を語るべきか。

 そして、どこから説明するべきなのか。

 ジャックは迷った。

 しかし……。


「お嬢さんのアリスが、君の件で惑連を逆恨みして、I.B.に入っちゃったんだ。で、幹部にそそのかされたみたい」


 戸口に立っていた王樹が、これ以上ないくらい簡潔に今まで起きたことをエドワードに告げた。

 あまりにもストレートすぎるその物言いに、ジャックは何某か言い返そうとしたが、エドワードは目を伏せ軽く首を左右に振る。

 仕方なく王樹を軽く睨みつけてから、ジャックは改めてエドワードに向き直った。


「こちらのシステムがウイルスに侵入されるの恐れがあるから、リモートでは対応できない。現地に赴く必要がある。けれど……」


 君の命が、果たしてどこまで保つか。


 言いさして、ジャックは口をつぐむ。

 重苦しい沈黙が、薄暗い室内を支配する。

 その時だった。

 エドワードは傍らに立つジャックの二の腕を、ぽんと叩いた。


「……エド?」


 驚いてジャックは顔を上げる。

 エドワードの顔には、ジャックがよく知る穏やかな微笑が浮かんでいた。


「……どこまでできるかはわからないけれど、可能性があるなら賭けてみるよ。それに……」


 少なからず自分に責任があるみたいだからね、とエドワード。

 けれど、ジャックは未だに首を縦に振ることができずにいた。

 そんな様子に、再び王樹が口を挟む。


「……エドにとって、最後の里帰りのチャンスなんだ。快く送り出してあげようよ」


 その言葉に、ジャックははっとしたようにそちらを見る。

 しかし、王樹の顔には言葉とは裏腹に苦渋の表情が浮かんでいた。


 皆、思いは同じなのだ。

 けれど、決断しなければならない。


 遂にジャックは、振り絞るようにして言った。


「……ごめん、エド。ルナの人たちを、救ってくれないか……」

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