第七話 盗賊戦決着
な、なんだ!?少し手ごわいアンデットを倒して、洞窟に戻ってきたら状況が大きく変わってやがる!
たった数十秒で子分の半分が死んでいた。
あり得ねえいったい何が、っ!
反射的にガードした腕に衝撃と痛みが走った。
クソッ、目が慣れていないうちに攻撃された。
洞窟は暗くて奥が見えねえが、弓を引く音と子分の死体に刺さっていた矢で相手の攻撃を知れて助かった。
矢はそれほど深く刺さってねえ。
これぐらいの矢だったらいくら撃たれても問題ねえな。
「ファイヤーボール」
今の魔法で一気に減ったな。
俺様も攻撃しねえとな。
さっきの傷、倍にして返してやる。
「ファイヤーボール」
「オラッ」
ハッ、これでゾンビは全滅だぜ。
さーて俺様を傷つけた奴をぶっ殺すか!
また弓を引く音がする。
あの程度の力で俺様を倒せるわけないだろ。
急所に当たらねえ限り俺は死なねえよ。
なっ!なんでそっちにいく!
矢は俺じゃなく子分、しかも魔法を使える子分の方にいきやがった。
クソッ、ぶち殺して、
「ゴースト、行け」
誰だ?今のはだれの声だ!?
子分の声じゃない。
声の主を探すために声が聞こえた方向を見ていたら、とんでもねえものが俺様に向かって迫ってきやがった。
白い霧のような何かが。
「来るな、この野郎!」
霧のようなものに向けて斧を振り下ろしてやった。
タイミングも距離も完璧だ。
なのに、なのにどうして当たらねえ!
霧が俺の体に触れやがった。
触られている感触はねえが、何かが、俺様の何かが奪われる!
倒せない敵に未知の攻撃、そして己の命が失われる感覚。
底知れない恐怖が盗賊のボスに襲いかかった。
盗賊は残り一人だが、まだ倒せてない。
弓やゴーストの攻撃は決定打に欠けている、ならば。
さっき盗賊を倒したさグールをチラリと見る。
グールの力でもあいつを倒せるか分からない。
でも毒なら、毒を注ぎ込めればこの均衡も崩れる。
「グール、お前たちは盗賊を挟んで攻撃しろ!」
いくら格下でも同時に、それも左右から攻撃されたらどちらかの攻撃は当たる。
そしたら後は毒で倒れる、・・・はず。
グールは俺の命令通りに盗賊を挟んだが、盗賊はいつの間にか壁に背負当てており囲めない。
しかしそのことに気づいてない、気にしないグールはそのまま突っ込んだ。
俺は慌てて命令して止めようとしたが間に合わない。
前と後ろで挟まないと意味がない。
そんな中途半端な角度で攻撃しても一撃でどちらも倒される。
「おい、止ま、!!」
しかし、すでに後ろにまわりこんでいるアンデットがいた。
そのアンデットは盗賊の背後から抱き着き、そのまま肩に歯を立てた。
盗賊は肩の痛みに気づいて後ろを振り向いたが、抱き着いたものを見ると、凍り付いたかのように動かなくなり。
「うわぁぁぁぁ!!!」
まるであり得ないものを見たかのような悲鳴をあげた。
盗賊の肩に嚙みついたのは盗賊だった。
正確には生前は盗賊だったがアンデットとして蘇り、ゾンビとして襲いかかった。
見知った顔が敵として、しかもゾンビとして襲いかかったんだ悲鳴を上げてしまうのも仕方がない。
確かゾンビ系の種族能力として殺した相手を一定の確率でゾンビにするって習ったな。
確かあいつは一番最初に死んだ盗賊だったな。
数でゾンビに追い詰められて壁際でかみ殺されていたな。
ゾンビとして復活するのが遅かったから失敗したのかと思ったが、最高のタイミングで成功してくれて助かった。
ゾンビに気を取られている盗賊に二体のグールが襲いかかる。
盗賊は左右からの同時攻撃と、背後からの恐怖によりグールの爪の攻撃を何度も受けた。
しかし盗賊もただ攻撃をくらうだけではなく、斧を振り回して反撃が行われグールが肉の一部がえぐられた。
だが最初と比べ明らかに力が落ちている。
さっきまでだったらあの程度では済まなかった。
よし!毒の影響が出ている。
後は持久戦に持ち込んだら勝てる。
「おいグール下がれ」
声を出して刺激しないか心配だったが、盗賊は今はそれどころではないようだ。
顔は真っ青で息を切らしている。
傷口からは血が止まらず、絶えず流れ出ている。
さらにスケルトン・アーチャーの攻撃でどんどん傷が増えている。
毒と出血、あとゴーストの攻撃でどんどん弱っている。
これで直接戦わなくてもいい、はあぁぁぁ、助かった。
盗賊は下がったグールを追いかけようとしたが、ふらつき地面に倒れた。
倒れた状態でも容赦なくスケルトン・アーチャーは矢を放ち、ゴーストは覆いかぶさっている。
あれだけの攻撃をくらえばもう立てないだろう。
俺はグールがどれだけダメージを受けたか見るためにグールの方を向いた。
俺は勝負は終わったと思っていた、だがまだ相手が生きているのに終わったと思ったのは、間違えだった。
「ぁ、ぁぁぁあああ---!!」
まだ叫ぶだけの力が残っていたのかと思い、盗賊の方を見た。
すると盗賊は倒れながら片手で上半身を持ち上げ、もう片方の手で斧を振りかぶっていた。
盗賊の目は俺の方を向いており、目と目が合った。
暗さに慣れたのか、ヤバい!
俺は慌てて横に飛ぶが、それよりも盗賊が斧を投げる方が早かった。
斧はとんでもない速さで投げられ俺に当たった。
右足が根元からとんでいき、左足の八割が斬り落とされた。
やばいやばいやばいやばい。
俺は何も考えられずに、ただただ地面をはいずり盗賊から逃げた。
しかしダンジョン内は狭くすぐに壁に当たった。
俺はその衝撃で冷静さを取り戻し、後ろを向いた。
盗賊はまだ生きている。
生きているが完全に倒れ伏している。
意識があるのかも分からず、呼吸音が微かに聞こえる。
だが俺はそのことにまったく安心できず、腕に引っかかっていた弓と背中に紐で結び付けていた矢で盗賊を矢を放った。
何度も何度も、弓を止めたのは矢が無くなってからだ。
矢が無くなり盗賊が反撃してこないか心配で、盗賊をよく見てみるともうとっくに死んでいた。
・・・はあぁぁぁ---、やっと、今度こそ終わった。
ゴーストが知らせた盗賊はすべて殺した。
これでダンジョンは安全だ。
はあ。
・・・、一度死んだのに慣れないなあ。
アンデットのくせに死ぬのを怖がるなんて、ほんとアンデットの風上にも置けない。
ほんと疲れた。
肉体的疲労はない、脚が斬り飛ばされたけど痛みもない。
ただ精神的に疲れた。
そのせいだろうか?だんだん眠くなった。
アンデットになったからは一切睡眠や休憩がなくても何ともなかったのに。
それにアンデットが睡眠をとるなんて聞いたことないぞ。
・・・もしかしたらアンデットは精神的に疲れたら眠くなるのかな?
アンデットは基本意識が無いから精神的に疲れることなんてない。
もしかしたら大発見かもしれないな。
まあ人に伝える前に殺されてしまうから発見しても意味ないけど、アハハ!
アハハ、・・・はあ、寝よ。
あの時の俺は警戒を解き、精神的疲れと眠気ですこしおかしくなっていたのかもしれない。
アンデットが寝る。
この現象に心当たりがあるというのにそれに気づきもせずそのまま寝てしまった。
ここはエスドル荒野から見て右下に位置する帝国の中規模な砦。
この砦の主な役目はエスドル荒野から皇国軍が海沿いの街道を通ってこないか見張ることだ。
そしてその砦の中で一番頑丈そうな部屋から二人の人影が見えた。
「ふむ、もう夜か。もうドブネズミは戻ってこんな」
相方が光がなくなりつつある窓の外を見ながらぽつりと呟いた。
ドブネズミ、今日エスドル荒野に入れてやった盗賊のことか?
まあ何組も入れたからどれのことか分からねえが、どいつも汚らしい格好だったからドブネズミと言われるのも頷ける。
そしてもう戻ってこないという意味も。
「あの霧の中で夜を過ごすのはよっぽどの強者じゃなきゃ無理だな。戻って来てねえのは大方死骸を漁っているうちに霧で分断されてアンデットに各個撃破されたんじゃねえの。それか迷ったか」
「まったく、役に立たないドブネズミだ。せめて何か持って帰ってから死ねばいいものの」
「そうだな」
盗賊の払った入場料はたいした金にはならねえし、せめて魔法の武器や装備ぐらいは持って帰って来てほしい。
入場料だけだと少しいい店に行って一杯飲んだらそれで終わりだ。
軍人を荒野に入れて探索してやってもいいのだがあまり大勢動かせねえし動かせたとしても視界が悪い霧の中での移動なんて、同士討ちや部隊の分断の原因になる。
軍人が減ればめんどくさくなるからかわりにそこらの盗賊を入れてやっている。
まあ霧を吹き飛ばせば探索もできるが、もし霧を大規模に吹き飛ばしたのを皇国が発見したらまたすぐ戦争が始まる。
皇国のやつらが軍隊が攻めてくると勘違いして。
年に二回も大規模な戦争できるほどの余力は両国ともねえから俺たちの首をとばして講和材料にされちまう。
それはごめんだ。
だが少数の盗賊なら魔法で霧を吹き飛ばせねえし、見つかっても不都合なことはない。
もし盗賊がどうやって荒野に入ったかしゃべっても、その盗賊を通した部下を切っちまえば問題ない。
この時期は荒野に入れてくれと言った盗賊から入場料を巻き上げて入れてやっている。
もちろんただの小銭稼ぎだけが目的ではない。
盗賊が帰ってきた時にいい物を持ってたら殺して奪い、たいしたものしか持ってなかったら見逃して来年に期待する。
まあ要するに釣りみたいなもんだな。
釣り上げるまで大物かゴミか分からねえ。
趣味の釣りと似ていて待っている時間はまあまあ楽しい。
まあ大体ゴミしか持って帰ってこねえけど。
それでも仕事の合間の息抜きと小金稼ぎするにはちょうどいい趣味だ。
それに、こんなことしているおかげでこの季節の街道は治安が良くなるんだから、俺の趣味が人様の役に立って嬉しいぜ。
と、まあ俺たちはこんなことを俺たちは毎年やっている。
「そういえば帰ってきた中に当たりはいたか?」
「今のところは無しだ。けど入ってきたやつの内ほとんどが生きて帰っている」
「ふん、ドブネズミは逃げることだけは上手いから腹が立つ」
「まあ来年に期待だな」
そう言えば帰ってこなかった組のにはランク3ぐらいのやつがいたはずだが、雑魚しかいない荒野で死ぬはずねえけど、・・・まあ盗賊は馬鹿だから迷って出れなくなったんだろう。
あーあ、出世して戦争に参加しなくてよくなったが書類仕事ばかりの代わり映えしない仕事ばかりで疲れる。
何か面白いことでも起こってくんねーかな。